運命の鏡像の両端、そして私たちは皆、自ら砕け散ることを厭わぬ者たち
細雨は帝都の鈍色の天蓋を斜めに切り裂き、まるで世界そのものを湿らせて腐らせていく、果てのないスローモーションの無声映画のようだった。
神殿の高々と聳える尖塔は雲霧の彼方に青灰色の鋭角を残すのみとなり、街角の冷水に打たれた薔薇の花輪は力なく垂れ下がっている。
深青色の外套の裾から一滴、また一滴と滴る水滴が石畳を叩いては、無数の微細な水飛沫となって砕け散る。
ここでは時間があまりにも長く、あまりにも緩慢に引き延ばされ、雨糸を撫でる風の音さえも、水気を含んで重く鈍く湿っていた。
この湿り気ある広大な雨幕のただ中で、二つの手が固く結ばれていた。
それは等しく痩せ細り、骨の輪郭が浮き彫りになるほどの手でありながら、残酷なまでの逆説をその内に握り締めていた。
ルシアはミアに手を引かれ、雨の中を歩んでいた。彼女の羽織る深青色の大きなマントは大半が濡れそぼり、冷雨に張り付いた幾筋かの黒髪が青白い頬に張り付いて、その精緻な顔立ちを、今にもひび割れてしまいそうな陶器のように際立たせていた。
彼女は微かに項垂れ、長い睫毛には水煙が細かな粒を結び、重たげに伏せられている。その墨緑の瞳に焦点はなく、ただ果てのない陰鬱と恐慌が渦巻いていた。
二度の死を背負い、算盤の如き計略を一身に纏う特立錬金術師。だがその顔には今、拭い去ることのできぬ深い憂愁が張り付いていた。
眉根を深く寄せ、唇を固く引き結ぶ様は、重い十字架を背負って人波を掻き分ける苦行僧に似ていた。泥濘の中で一歩を踏み出すたびによろめき、次の瞬間には足元の深淵が崩落するのではないかと怯えている。
彼女はこの世界の残酷と悪意を、その代償を誰よりも知り抜いていた。だからこそ、その冷徹な覚醒は冷雨の中で刃と化し、彼女の神経を一寸ずつ、血肉も定かでないほどに削ぎ落としていく。
だが、彼女の半歩先を行くその少女は、寒雨の底でただ独り燃える微かな燐光のようだった。
ミアの肩には薄い素白の花織りショールがただ一枚掛けられているだけで、雨水は疾うに浅青の麻布の古着を透徹し、柔らかな栗色の髪を華奢な背中に張り付かせていた。
その肉体には、血肉も骨髄も残らず腐食し尽くす禁忌の死病が巣食っている。一歩を踏み出すたび、腑腑の奥底で音もなく崩壊と腐敗が進んでいるというのに。
それなのに、彼女は笑っていた。
ミアは身体を巡らせ、ルシアの手を引いたまま小さく揺らした。
少女が振り返ったその刹那、スローモーションのコマがその一画に焼き付いたかのようだった——雨水は彼女のほっそりと清らかな顎を滑り落ち、鎖骨の上へと零れ落ちる。
だが、その血の気を失った顔に咲き誇っていたのは、息を呑むほどに純粋で、温かな笑みであった。
微塵の陰りもなく、何一つ隠し立てのない笑顔。彼女の緑の双眸は、薄暗い天光の下で信じがたいほどに煌めき、春雨に洗われたばかりの若葉のように澄み渡り、無垢な明朗さと慕情に満ち満ちていた。
まるで放課後に姉の手を引いて菓子を買いに行く幼子のようだった。
世界の風霜と死兆のすべてがその細い肩に降り積もっているというのに、彼女はただ、掌に残されたわずかな温もりのすべてを、ルシアの冷たく強張った指の隙間へと余すところなく押し込もうとしていた。
一方は深淵の縁に立ち、清醒のままに破滅を予見して苦悶に喘ぐ旅人。
一方は疾うに泥沼に沈み、自らを薪として燃やし尽くしながら微笑む殉教者。
黒髪と栗毛が湿った冷風に絡み合い、墨緑の幽暗と純緑の清澄が、視線の交錯の中で音もなく鬩ぎ合っていた。
二人はそうして手を繋ぎ、細雨に抱かれた帝都の大通りを緩慢に進んでいく。
街並みは水煙の中にまだらの色塊となって溶け落ち、世界は雨粒の弾ける音だけを残して静まり返っていた。
一方は声もなく泣き、一方は爛漫と微笑む。それは運命によって引き裂かれた一片の長詩のように、最も優しく、そして最も絶望的な姿で、降り敷く水溜まりを踏み砕きながら、疾うに幕引きの定められた壮大な死局へと歩みを進めていた。
「ルシア姉様は、こんなにお綺麗なのに……どうしていつも、そんなに悲しそうな顔をなさっているのですか?」
ミアの声は雨霧に溶け、柔らかく潤いを帯びて、世俗の垢に塗れぬ稚気を宿していた。
その過剰なまでに純粋な暖かさは、底冷えのする雨糸に濡れそぼった帝都の気配とあまりに調和を欠いており、ルシアを絶句させ、喉を詰まらせた。
ただ胸の芯をぎゅっと握り潰されたような痛みに、進むことも退くこともできなくなる。
ルシアは、己の器量を誰よりも弁えていた。
目の前の儚げな少女を前にして、彼女は生まれて初めて、骨の髄まで染み渡る無力と恐慌に囚われていた。
ミアを救いたいと狂おしいほどに願い、頭蓋の内の数式は荒れ狂う奔流となって推演を重ねていたが、理性が冷徹に弾き出す確率は、幾度となく冷ややかな虚無へと収束していく——確証など、微塵もなかった。
ミアがその身に背負っているのは、ありふれた毒や衰弱などではなく、かつてデイジーが深淵の極みから招き寄せてしまった悪孽そのものだったからだ。
かつてのデイジーは、一世を風靡した天才大魔法使いであった。自負と傲岸に満ち、その血には驕り昂るほどの征服欲が脈打ち、己の無双の魔術を頼りに世の古き戒律を踏みにじり、不可侵と謳われた神祇や禁忌を否定し続けていた。
あの時までは。デイジーは人の足の踏み入れぬ禁域の最奥で、名状しがたいおぞましき存在と邂逅してしまったのだ。
デイジーの記憶の中にすら、その全貌の輪郭は残っていなかった。
その後に幾度となく見舞われた冷汗と悪夢の中で、彼女が辛うじて思い起こせるのは、のたうち回り、粘つき、吐き気を催すほどの巨大な「肉塊」の残像のみ。
それは現世の生き物などではなく、魔力の法則をも生理の構造をも踏み越えた、混沌の残滓に他ならなかった。
その遭遇の直後、デイジーは何の予兆もなく倒れ伏した。
その沈疴はかの怪物と同様に未知で、粘稠で、解法が存在せず、帝都の神殿の神官も当代随一の医者たちも為す術を持たず、ただ彼女の肉体と魂が腐敗の内に枯渇していく様を、手をこまねいて見つめることしかできなかった。
そしてミアは己の血脈を引き裂き、禁術を以て、その名状しがたき呪詛を残らず引き受けたのだ。
それ以来、かつて向かうところ敵なしだったデイジーは、完膚なきまでに砕け散った。
死線を脱した彼女は、己の盲目と傲慢が、最も愛おしい妹を万劫の深淵へと突き落とし、ミアが享受すべき青春も、健康も、誰かを恋い慕う権利すらも根こそぎ奪い去ったのだと、痛烈なまでに思い知らされた。
山のように重い自責と悔悟は、デイジーの心の中で、病的なまでの溺愛と負い目へと変貌を遂げた——彼女はもはや傲岸不遜な大魔法使いなどではなく、妹が一度咳き込むだけで正気を失いかける、脆く怯えた姉に過ぎなくなっていた。
ルシアの墨緑の瞳が微かに揺れ、雨に煙る往来の通行人の頭越しに、数十歩離れた薄暗い列柱の下へと視線を向けた。
そこには、息を殺して身を縮める細い人影があった。フードを深く被り、粗末なショールで顔を固く覆い隠してはいたが、ルシアの鋭敏な知覚はそれがデイジーの輪郭であることを見逃さなかった。
ミアを茶館の扉の前まで送り届けたのはデイジーであり、ミアが自分に接触することを許したのもデイジーだった。
そして今、かつての天才魔法使いは怯えた母獣のように、冷たく湿った暗がりに身を潜め、寸歩も離れずに妹を見守り続けている。
不意に、繋がれた手の先から微かな牽引の気配が伝わった。
ミアが足を止めていた。
彼女は傍らの雨脚も、この古き城塞が落とす暗い影も、すべてを忘れ去ったかのようだった。
降りしきる冷雨の中で、少女は青白く華奢な顔をゆっくりと天へと向け、紙のように頼りない肉身を、灰白色の天蓋の下へ無防備に晒した。
雨粒がすらりとした首筋を撫で、柔らかな栗毛を濡らしていく。
そして、ルシアの小さく収縮した瞳の映し鏡の中で、ミアは血の気のない唇をわずかに割り、あどけない子供のように、そっと桜色の柔らかな舌先を覗かせた。
その一滴の雨は、無数に引き延ばされた世界の中で、彼女の舌の上へと軽やかに舞い降りた。
少女は我を忘れ、塵ひとつない緑の瞳を微かに細め、喉の奥から判じ得ぬほどの吐息を漏らした。まるで世に二つとない甘露の味を、細やかに噛み締めているかのように。
水滴は温かな舌の上で解け、帝都の冷雨に漂う草木の渋い冷香を伴って、その歯と頬の隙間へと静かに染み渡っていった。その刹那、彼女の表情は敬虔で、空霊でありながら、神聖なまでの愛らしさと純真を宿していた。
天より降り注ぐ陰鬱な雨糸は、この瞬間にあって人の心を切り裂く凶器であることをやめ、ただ彼女一人のために舞い踊る天の恵みとなったかのようだった。
いつ呑み込まれるとも知れぬ死の断崖に立ち、身の内に腐朽の呪詛を満たしながら、彼女はこの冷え切った細雨の中に、確かに「生きていることの美しさ」を見出していた。
胸を抉るほどに美しく、息を呑むほどに凄艶な光景であった。
ルシアの心臓は巨大な手に鷲掴みにされたように軋み、息を吸うことすら困難な痛みが走った。
雨の中で我を忘れ、魂のすべてで雨粒に口づけるこの少女を見つめながら、ルシアの骨の髄に眠っていた利己、傲慢、そして狂気が、今まさに轟音を立てて決壊した。
名状しがたき混沌の肉塊が何だというのか。神の許さぬ禁忌の代償が何だというのか——。
この少女を護り抜きたい。
如何なる代償を払おうとも。たとえ己の魔力回路を引き裂くことになろうとも、全装解放の禁を冒して因果を踏み砕くことになろうとも、雨の中に咲いたこの硝子の花が、泥の中に音もなく朽ち果てることだけは、断じて許容できなかった。
ざあざあ——と。
細雨は途切れることなく、ルシアの深青色の防水外套を無情に叩き続けていた。
分厚い布地を以てしても、骨まで凍てつかせる刺すような冷気は隙間なく衣服を抜け、肌を浸し、髄を麻痺させていく。
だが、それでもなお、彼女の胸の底に突如として灯った、執拗なまでの暗火を吹き消すことは叶わなかった。
「超えてみせるわ……呪いだろうと……罪業だろうと……」
ルシアの声は極めて低く、掠れながらも、奥歯を噛み締めるような決死の響きを帯びていた。吐き出された言葉は冷たい雨霧に千切られ散ったが、彼女自身の骨髄へと確かに焼き付けられた。
彼女はミアの手を握り返した。掌から伝わる冷感は重い木槌の連打のように、彼女の神経を容赦なく打ち据えていた。
ルシアには痛いほど解っていた——目の前のミアは、一歩違えた道を進んだ「もう一人の自分」に他ならない。二人はあまりに似通っていた。
至親至愛の二人に掌中の珠のように愛され、慈しまれながら、運命の不条理な歯車によって万劫の万力の中へと押し込められたのだ。
運命に壁際まで追い詰められたこの窒息感は、ルシアの心の奥底に疾うに癒着していた傷口を無理やりに抉じ開けた。
かつて自分が「守護者」になり立てだった頃の日々が脳裏を過ぎる。天地は暗澹として、際限のない恐慌と孤独が冷たい濁流となって華奢な身体を昼夜分かたず洗っていた。呼吸のたびに、深淵に引き裂かれまいと戦慄していたあの日々。
彼女は全身に亀裂を刻みながらも生き延びた。だからこそ、ミアが同じ轍を踏むことなど見過ごせなかった。
雨の中で無心に甘露を啜るこの少女が、ただの泥濘の中で人知れず枯死していく結末など、認めるわけにはいかなかった。
だが……一体どうすればいいというのか。
決意を血を吐くように固めたところで、現実は玄鉄を流し込んだ壁のように冷酷だった。
あの名状しがたき混沌の肉塊を見つけ出し、錬金重砲で塵芥へと粉砕すれば、それでミアを救えるのだろうか?
だが、脳髄の認知すら拒む、悪夢の中にただ吐き気を催す肉の塊としてしか残らない存在が、この世界のいかなる片隅に蟠っているというのか。
仮に見つけ出し、天刻の禁忌武装を以て根こそぎ討ち滅ぼしたとして、ミアの骨髄の深淵に寄生する呪いが、都合よく霧散してくれるとでもいうのか?
もしも呪詛が疾うに少女の魂と不可分に融合していたなら、母体を屠ることは、かえってミアの弔鐘を自らの手で打ち鳴らすことになりはしないか?
氷のように冷たく残酷な自問自答が、ルシアの脳裏を激しく木霊していた。
彼女は瞳を細めた。その墨緑の双眸に、極限の苦渋が波打つ。
所詮、このルシアという女は、決して全能の天才などではなかったのだ。
特立錬金術師という光輪を剥ぎ取ってしまえば、血肉を通わせ、痛みに呻き、恐怖に震え、真夜中の暗がりに孤独ゆえの涙を零す、ただの定命の凡人に過ぎない。
世界の因果を気まぐれに爪弾き、定められた運命を逆転させるような権能など、彼女には端から備わっていなかった。
かつて地球で生きていた頃、映画や大衆小説は「天才」という存在を神がかり的に描くことを好んでいた。
あたかも賢者たちは眼鏡を押し上げるだけで古今東西の因果のすべてを洞察し、何ヶ月も先の某日の夕餉の皿に何が並ぶかすら、事前に脚本へと書き込めるかのように。
その神格化された智謀は、確かに清らかで優雅ではあったが、滑稽なほどに虚妄であった。
現実の理が、そんな風に巡るはずもない。
苛烈なる法則と二度の死生を賭けた盤上で転がり続けてきたルシアは、「天才」の何たるかを誰よりも弁えていた——
真の智者とは、目の前の歯車が噛み合って回転を始めた刹那、その研ぎ澄まされた直感と経験を頼りに、その事象から分岐し得る幾筋かの最悪の展開を見定め、狂気の工匠のごとく、あらゆる破滅の未来に対して辛うじて抗い得る防壁を事前に鍛え上げておく者のことなのだ。
さらに傑出した者であれば、無数に入り乱れる岐路のただ中に、神経質なまでに幾重もの補救の手立てを埋め込んでおく。
たとえ盤面が次の瞬間に軌道を外れ、常理を超えた変数が現れようとも、断崖の際にあって粉骨砕身を免れるだけの僅かな転回の余地を残すために。
だが、彼女——ルシア自身は、決してそのような至高の棋士ではないと自覚していた。
彼女の視野には限りがあり、その演算能力も無限ではない。
暴風雨の中で手探りに進む盲人のように、目の前に転がるわずかな手掛かりを頼りに、最も凶悪な二、三の可能性を朧げに推測し、その裏で執拗なまでに二枚の切り札を忍ばせ、気休めにしかならぬ防備を整えるのが精一杯だった。
その先の霧の彼方、複雑怪奇に絡み合う運命の暗礁と深淵を、彼女は見通すことすらできず、手中に収める力など持ち合わせてはいなかった。
それでも。掌の中の、枯枝のように頼りない冷え切った手首は、今も微かな拍動を彼女の肌へと伝え続けている。
雨の中で純真な笑みを湛える傍らの少女を見つめ、ルシアは湿り気を帯びた冷気を深く肺へと吸い込んだ。
すべての未来を見通せぬとして、それが何だというのか。
たとえ次の一歩しか読めず、行く手に待ち受けるのが未知と狂瀾の築き上げた絶境ばかりであったとしても、この手をここで離すことなど、絶対にあり得ない。
世の言う「天才」が、歯車の噛み合う刹那に複数の枝分かれする運命の流れを見通し、あらゆる死線に対して泰然と退路を敷く者を指すのだとすれば——ならば、ルシアの成すべきことは、己の目にすら「見えない」未来までも、丸ごと計算に組み込んでしまうことだけだ。
それは偏執に近く、病的なまでの驕りを孕んだ妄執であった。
見渡す限りの視界が貫けぬ迷霧に閉ざされ、人の身の頭蓋では神の織り成す因果を推し量れぬというのなら、いっそどの道が「正解」であるかなど推し量るのをやめればいい。
狂気の工匠となり、荒唐無稽としか思えぬあらゆる展開、取るに足らぬあらゆる雑音、万分の一の確率すら危うい些末な枝葉末節に至るまで、残らず己の冷徹精緻な錬金術の敷設網の中へと引き摺り込んでしまえばいいのだ。
一重の防壁で足りぬなら十重に重ね、解法が見出せぬなら、虚妄の因果の鎖の上に何百何千という予備の楔を穿っておけばいい。
最も愚鈍で、最も狂乱した凡人の手段を以て、運命の死角に隙間なき蜘蛛の巣を張り巡らせるのだ。
皮膚を隔てて、ミアの手首の骨の間に、停止寸前のように弱々しい脈動が確かに触れていた。ルシアの墨緑の瞳の奥で、幽玄たる暗火が猛然と燃え上がり、眼底に燻っていたあらゆる躊躇と退縮を焼き尽くしていく。
彼女は己の執念のすべてを動員し、三世の生を通じて積み上げてきた持ち札のすべてを賭けた。
もしも……これほどの布石を打ち、死角に潜む幽霊にすら備え、最も不条理な変数すら叩き潰した果てに、運命という名の冷酷な巨輪が眼前の一切を無慈悲に轢き潰し、この無垢な少女を深淵へと引き摺り込んでいくのだとすれば——
その時は、ルシアとて潔く認めるまでだ。
運が悪かったのではない、天命に弄ばれたのでもない。ただただ、己の技量が及ばず、無能の極みであったのだと。
だが、かの審判の鐘が真に打ち鳴らされるその瞬間まで、彼女が手中の刻刀と機巧を収めることなどあり得ない。
運命が名状しがたき悪意を以て自分たちを生呑みにせんとするのなら、彼女は特立錬金術師としての最も冷徹なる心構えを以て、この未知の混沌に対し、退路を断った全面警戒を降してみせる。




