花火の下で、冷たすぎるその手を握りしめる
中央大通りの夜の祝祭市は、軒を連ねる色鮮やかな旗と魔導彩灯によって、まるで白昼のように照らし出されていた。
空気中には炭火で焼かれた蜜漬け獣肉の香ばしさ、焼き立てのシナモンアップルパイの甘やかな香り、そして木樽の中で発酵するドワーフ特製エール微かな酸味が入り混じっている。
通りの両脇は様々な露店で埋め尽くされていた——色鮮やかな頭巾を巻いたジプシーの占い師が真鍮の鈴を鳴らし、良縁を占う星象のルーン石を売り込み、毛皮を纏った北境の狩人が鞣されていない雪狐の生皮を大声で売り捌いている。
少し離れた場所では、大道芸人が跳ね回る魔導の冷たい火の玉を夜空へと放り投げ、それを取り囲む子供たちから甲高い歓声と悲鳴が上がっていた。
そんな喧騒と熱気に満ち、呼吸することすら熱を帯びるような人の波の中、ルシアは珍しく自ら手を伸ばし、隣に立つミアの手首をそっと取ると、流れる人混みの中へと静かに引き入れた。
二人はとても物静かで、どちらからも口を開こうとはしなかった。
ルシアの体躯はもとより小柄で華奢であり、ミアは長年の病でさらに線が細い。二人の少女が肩を並べて行き交う雑踏を歩く姿は、まるで激流に浮かぶ二片の落ち葉のようで、周りの背の高い賑やかな群衆とはどこか不釣り合いに見えた。
ミアは身を引くこともなく、ただ極めて従順にルシアに引かれるまま、半歩後ろを歩んでいた。
その澄み切った緑の瞳は好奇に満ちた眼差しで並び立つ露店を見渡し、かつて色褪せた書物の中でしか読んだことのなかった糖衣の林檎や、淡く発光する魔導具、古のトーテムが彫り込まれた木人形などをじっと見つめていた。
彼女の口元には微かではあるが満ち足りた笑みが浮かんでいた。こうして人の波の中を、ルシアの隣を歩けること自体が、彼女にとっては望むべくもない美しい夢であるかのようだった。
だが、その手を握るルシアの心は、音もなく沈んでいった。
掌から伝わる感触が、あまりにも冷たすぎた。
それは初冬の夜風に晒された表皮の冷えなどではない。肉の最深部、骨髄と血脈の底からじわじわと滲み出てくるような、骨身に沁みる冷気だった。
ミアの指はあまりに細く、節くれだっていて痛々しいほどであり、握った手応えは羽毛のように頼りなく、大人の女性が備えるべき肉付きや生の弾力というものがほとんど感じられなかった。
それどころか、ルシアが気づかれぬよう、蜘蛛の糸のように微弱な魔力を肌が触れ合う僅かな隙間から密かに送り込んだ瞬間、返ってきた反応に思わず目元を微かに跳ねさせた。
それは健やかな魔力の循環などではなく、枯渇しきった淀みの荒野だった。
生気は風前の灯火のように頼りなく、微かな脈動のひとつひとつが、残された最後の油を無理やりに燃やし尽くしているかのようだった。
その冷たさと虚無感を、ルシアは嫌というほど知っていた——地球の病室で、冷たい計器によって命のカウントダウンを告げられた臨終の者たちから漂っていた、あの匂いと寸分違わぬものだった。
この娘には……本当に、残された時がほとんどないのだ。
周囲の歓声、金管楽器の音色、菓子を手に入れた子供たちの歓声は絶え間なく沸き立っていたが、ルシアの指先は無意識に強張りを増し、その骨ばった冷たい小さな手をさらに固く握りしめた。
彼女は振り返ることなく、去り際にクレアが着せてくれたオーバーコートのフードの影で、己の墨緑の瞳を覆い隠した。胸の奥には、氷水に浸された鉛の塊を押し込まれたような、言いようのない重苦しさと引っ掛かりが居座っていた。
おそらくクレアは、他の通行人にルシアの和服姿を見せたくなかったのだろう。その美しさを独り占めしたいがために、わざわざ従者に命じてルシアの美貌を隠すための外套を宛がったに違いなかった。
だが、その外套はルシアの美貌を覆い隠すことはできても、胸の内に燻る苛立ちまでは覆い隠してはくれなかった。
「ルシアお姉様……あまり楽しそうではありませんね? 何か心配事でもおありなのですか?」
掌に伝わった僅かな硬直を察したのか、ミアの極めて柔らかな声が再び横からかかった。
己の骨髄の奥底が取り返しのつかない冷気に少しずつ侵食されているというのに、自らの身体こそが何よりも案じられるべきであるはずなのに、この青い衣の少女は今この瞬間も、その優しさと気遣いのすべてを、惜しげもなくルシアの些細な機嫌へと注ぎ込んでいた。
「なんでもないわ」
ルシアは色鮮やかな仮面を売る賑やかな露店の間を抜けながら、歩みを極限まで緩め、淡々としつつもどこか自嘲の滲む声で言った。
「ただ……私は貴女が思うほど大層な人間じゃないんだって、急に思えてね。真相を知ったら、きっとがっかりするんじゃないかしら」
ルシアはその事実を、極めて冷静に、冷徹に受け止めていた。
彼女は確かに帝都に名を轟かせる錬金術師であり、脳内には大陸の常理を覆す知識と処方が詰まっている。
不慮の事故で命を落とした人間であっても、遺体となって三時間以内に流し込めば蘇生すら見込めるという、神業めいた霊薬すら調合できる。
だが、いわゆる霊薬や高位の回復術式とて、突き詰めればこの大陸の最も厳格なエネルギー保存の法則からは逃れられない——
それは無から有を生み出す奇跡などではなく、術を施される側の肉体の奥深くに残された生命の余力を無理やりに前借りし、目の前の束の間の生気へと置き換えているに過ぎないのだ。
もし器そのものがとうに枯れ果てた古井戸のようで、肉体に宿る「生気」が端から残されていないのだとすれば、どれほど高価で逆天的な秘薬を注ぎ込んだところで、最終的にはただの無駄な毒へと変わり、水泡に帰すしかない。
これこそが、かつての幾度もの凄惨な死闘において、肋骨を砕かれ、激しい衝撃で内臓を破裂させて血を吐きながらも、ルシアが己に軽々しく治癒の霊薬を使えなかった理由だった。彼女のこの脆弱で脆い肉体は、そうした手荒な生命の前借りに到底耐えられないのだ。
無論、カリーナの持つあの理不尽極まりない力は、完全に常軌を逸した別次元の領域だった。あの白髪紅瞳の女公爵が放つ「回復術」の本質は細胞の修復などではなく、神権にも等しい「因果の抹消」にある——
彼女は世界の基底から「負傷した」という確定した事実そのものを力ずくで消し去ることができるのだ。
だからこそ、カリーナは寝所で我を忘れて暴走し、後先顧みずにルシアの骨を握り潰すことすら厭わない。次の瞬間には、この脆い妻を寸分の狂いもなく元の姿へと繋ぎ止める絶対の確信があるからだ。
だが、ミアは違う。
ミアの病は外傷ではない。運命の砂時計が自然に底をつきかけているのであり、それを容易く逆流させられる外力など存在しないのだ。
夜風が混み合う人混みを吹き抜け、通りの両脇に吊るされた魔導紙灯籠を優しく揺らした。微かな熱気が灯芯の冷たい炎を頼りなく揺らし、薄い紙の表面に斑な暗赤色の火の粉を映し出す。明滅を繰り返すその光は、今にも消え入りそうに頼りなかった。
ルシアはうつむき、足元の青石畳に長く伸びる人影を見つめていた。
自分が救世の英雄などではなく、高嶺の天才でもないことなど、己自身が一番よく分かっている。自分は根っからの平凡な女に過ぎず、今この時ですら、学院に掲げられた肩書きを見ても、街中に溢れる己への賛辞を耳にしても、心には何の真実味も湧いてこない。
他人の目に映るあり得ない奇跡の裏側には、冷汗にまみれた極限の試算の中で、地球の知識をいかに掠め取り、情報の死角をいかに突き、綱渡りの泥棒のように拾い集めてきた勝利があるに過ぎない。自分がどれほどの僥倖に縋ってここまできたか、自分以上に知る者はいなかった。
彼女は行動を起こす前に最悪の事態を想定し、必死の警戒心をもって最も周到な準備を整えることを習慣としていた。前世である地球にいた頃から、誰の助けも得られず、背後には誰もいない孤独で冷え切った暮らしに慣れすぎていたからだ。
後ろ盾を持たぬ人間は、「命を懸ける」などという言葉を軽々しく口にすることすらできないのだ。
たとえ異界へと渡り、今や身辺に朝野を牛耳る公爵夫人を持ち、国を傾けるほどの富を誇る商会の後継者を妻とし、さらには教皇の極秘の庇護すら得ていたとしても……この満ち足りたように見える巡り合わせが、骨の髄まで染み付いた劣等感と臆病さを綺麗に洗い流してくれるとでもいうのだろうか?
結局のところ、人間とはそう容易く変われる生き物なのだろうか?
ミアの冷たく細い手首を握りしめながら、ルシアの胸中にはそんな苦い思いが拭い難く去来していた。
カリーナとクレアの伴侶となってから、荷物をまとめて逃げ出そうとする己の防衛本能は、温かな日常の中で少しずつ溶かされてきたように思えていた。
だが、ルシア自身は誰よりも理解していた——幸福の皮膜の下に隠されたその分厚い殻は、一度として真に消え去ってなどいないことを。
もしもある日、運命の歯車が無情にも再び反転し、忘却の呪いが再び降りかかって、カリーナとクレアが己のことをすっかり忘れ去ってしまったとしたら……。
ルシアは分かっていた。自分は躊躇うことなく夜更けに荷物をまとめ、振り返ることもなく遥か彼方へと逃げ去るに違いないということを。
それこそが、彼女の魂の最深部に刻まれた浅ましい本性に他ならなかった。
彼女たちを愛していないわけではない。むしろ逆だ。あまりに深く、あまりに痛切に愛してしまったからこそ、二度目に耐え抜く勇気など微塵も持ち合わせていないのだ——
かつて狂おしいほどの愛と独占欲を湛えていたあの瞳が再び冷たく研ぎ澄まされ、何の関係もない見知らぬ赤の他人を見るような眼差しで、己を見下ろしてくる現実に耐えられるはずがない。
その責め苦は、神殿の守護者に骨を砕かれる激痛よりも千倍も痛ましい。
幸いなことに、狩猟祭で奪い取ったあの忘却の石板は、その中核たる権限と法則が、カリーナとクレアの魂魄へと密かに結びつけられ固定されている。
生死を共にする法則が因果を逆向きに縛り上げたことで、存在感を抹消せんとする石板の反動エネルギーは、ルシア本人に対する侵食度をごく微弱な水準にまで押し下げていた。
今となっては、教皇オースから賜ったあの「匿因の古玉」を肌身離さず身につけていなくとも、帝都の大通りを長時間歩き回ることすら可能であり、世界の意思に弾き出される心配もほとんどない。
ただ、平穏に見えるこの大陸の頂において、長生殿の冷徹な眼差しが真に逸らされたことなど一度もないのだ。
もし大衆の面前で大規模な魔力を引き起こしてしまえば、瞬く間に神域の監視機構に触れてしまう。念のため、あの仄暗く温かみのある古玉は、今も錬金手札の特殊空間の奥底に厳重に封印されていた。
神々の盤上において、彼女は依然として尻尾を巻いて生きるしかない不正者に過ぎないのだ。
「ルシアお姉様?」
耳元に届いたミアの微かに訝しむような呼び声が、ルシアの千々に乱れる重苦しい思考を、喧騒の現実へと引き戻した。
隣の青い衣の少女は微かに顔を上げ、過剰なほどに澄み切った緑の瞳を揺らめく灯火に照らし、フードの影に隠れたルシアの憂いを含んだ小顔を映し出していた。
ルシアはキャラメルの甘い香りを孕んだ夜風を吸い込み、手の平の中にある、今にも熱を失いそうな頼りない小さな手を、音もなくさらに固く握り直した。
「ごめんなさい……私には、貴女が抱えている困難をどうにかしてあげることは、きっとできないわ」
周囲の喧騒が潮のように渦巻く中、ルシアは長い葛藤と思案の末に足を止め、墨緑の瞳を伏せて、胸の奥で最も重く澱んでいた真実を静かに切り開いた。
その言葉はあまりに残酷で、憧れを寄せる少女に対しては冷血にすら思えるものだった。だが、ルシアの心は誰よりも理解していた——
もし今、虚飾の希望を保つために平穏を取り繕ってしまえば、未来のある日、その冷たい身体が真に最後の温もりを失った時、己は今日の臆病さと隠蔽を、あまりにも長く悔やみ続けることになるのだと。
「分かっておりますよ」
予想に反して、ミアの顔には死刑を宣告された者のような動揺も絶望も微塵もなかった。彼女はルシアが止めた足取りに合わせてくるりと振り返り、夜風にその薄い栗色の髪を遊ばせながら、瞳を細めて穏やかに微笑んだ。
「けれど、悲しいだなんて少しも思っておりませんし、傷つくことなんて何一つありません。だって……私、今は本当に幸せなのですから。こうして一番憧れている方とお会いできて、手を繋いで一緒にお祭りを歩けて、大好きな人たちの側で生きていられる……私のような者に、これ以上何を不平を言う余地があるというのでしょう」
ルシアは微かに息を呑み、墨緑の瞳の奥に明らかな戸惑いを走らせた。
前半の憧憬と満足は理解できた。だが、「大好きな人たちの側で生きていられる」という一節に、彼女は微かな、しかし奇妙な違和感を嗅ぎ取っていた。
ミアはぽかんとしたルシアの顔を見つめ、他人の理解を得られないことなど疾うに慣れ切っているとでも言うように、まるで自分とは関係のない古い昔話を語るような平然とした口調で、体裁の裏に塗り込められた、無様とすら言える過去を淡々と紡ぎ出した。
「ずっと昔、私の実家が立ち行かなくなるほど困難な経済の危機に見舞われたことがありました。その時、手を差し伸べて事態を収めてくださったのがビクター様だったのです。ただ……貴族同士の対等な対価として、家から娘を一人差し出し、彼の妻としなければなりませんでした」
ミアの声はどこまでも柔らかで繊細であり、胸を引き裂くような告発の響きなどなく、起伏すらほとんど感じられなかった。
しかしルシアは、その余りにも静かな語り口の深淵から、運命に押し潰された末の諦念と無力感を確かに感じ取っていた。
「実は最初の頃、私はビクター様に一目惚れをしていたのです。婚約者という立場で、喜び勇んで彼の傍らでお付き合いを重ねていた時期もありました。ただ……その後に私が病に倒れてしまったのです。跡継ぎと血の存続を重んじるクルス家は大いに騒ぎ立て、夜を徹して婚約者の変更を迫ってきました。ですから最後には……姉が私の身代わりとなって花嫁衣裳を纏い、彼のもとへと嫁いでいったのです」
ルシアはその場に縫い止められたように硬直し、愕然としてミアの瞳を見つめた。
デイジーと瓜二つの、いやそれ以上に美しく澄んだ碧緑の瞳の奥には、怨嗟も、不満も、嫉妬の炎も、何一つとして見出すことはできなかった。
そこは痛々しいほどに清らかで、透き通るような優しさと諦めで満たされていた。
「私は姉を愛しておりますし、ビクター様のことも変わらず深く愛しております。そして今の私は……お二人からの愛を、惜しみなく同時に受けて大切にされているのです。いつ壊れてもおかしくない私のようなお荷物が、これ以上欲をかいて健康だの未来だのを強請れば、それこそ本当に神罰が下ってしまいますわ」
少女は小首を傾げ、口元にふわりと甘く愛らしい笑みを湛えた。まるでこの歪で重苦しい三角の檻こそが、運命が自分に与えてくれた最大の慈悲であるかのように。
そして、その骨の髄まで冷え切った小さな手を握りしめるルシアは、胸を何かで固く塞がれたかのように喉を詰まらせ、ただの一言も紡ぎ出すことができなかった。
ルシアはただ、じっと彼女を見つめることしかできなかった。
唇を僅かに開きながらも、喉には棘のある固い泥が詰まったかのように乾ききり、微かな音すら立てられない。
頭の中に渦巻く複雑な術式回路も、地球の現代科学の知識も、果ては二度の生を通じて培ってきた経験や弁舌の全てが、目の前にある穏やかで柔らかな貌の前では、何の役にも立たない屑鉄へと成り果てていた。
言葉が出なかった。
日の下に新しきものなし、とは言うが、この世の残酷さは往々にして、これほどまでに人の胸を締め付ける、物分かりの良い皮袋に包まれて現れるものなのだ。ミアはただそこに立ち、色褪せて薄くなった青い衣を纏い、口元に淡い笑みを浮かべたまま、眉ひとつ動かそうとしない。
その佇まいはあまりに温順で、背筋が凍りつくほどだった——まるで己が運命と家族によって不良品として無造作にすげ替えられた捨て駒などではなく、ただ自ら望んで泥濘の中に朽ち果て、木の根を僅かばかりの寒風から守る役に立てたことを喜んでいる枯葉ででもあるかのように。
ルシアは何かを口にしたかった。そんなものは愛ではないと、これは不条理だと、あの厳格な屋敷と病床は骨まで食い尽くす石臼に他ならないのだと。
だがその言葉は舌先まで出かかり、そのまま喉の奥へと押し戻された。
己に、何を言う資格があるというのだろう? 死に瀕した人間が、この歪な温もりに縋って最後の息を繋ぎ止め、その魂すらも角を削ぎ落として従順に飼い慣らしているというのに。
暗がりに身を潜めて生き延び、隙あらば一目散に逃げ出すことしか考えていない傍観者の己が、上から目線で彼女の唯一の精神安定剤を叩き壊す権利など、どこにあるというのか。
そうして二人は、ただ立ち尽くしていた。触れ合えるほどの距離にいながら、そこには見えない分厚い障壁が横たわり、互いの世界へと足を踏み入れることなど叶わなかった。
ヒュゥ——ドンッ!
鋭く耳を劈く破空音が、突如として天幕を引き裂いた。
続いて、幾千もの深紅と黄金の火花が高天で凄まじく炸裂し、漆黒の夜空を白銀の色に焼き尽くした。
帝都中央大通りが、その瞬間、沸点の頂へと達した。
無数の赤く脂ぎった顔が、激しく明滅する光影の下で狂ったように揺れ動き、地鳴りのような歓声と拍手喝采を爆発させた。
白粉の香りを漂わせた貴婦人たちが口元を押さえて感嘆し、泥酔した冒険者たちが木製の大ジョッキを打ち鳴らして泡を飛び散らせ、父親の広い肩に跨った子供たちが色鮮やかな小旗を打ち振るい、露天商は嗄れた声を張り上げて蜜菓子の値をがなり立てていた。
光は目を射るほどに眩く、狂乱に近い喧騒が満ちていた。
だが、強引に照らし出されたその光の海のど真ん中にありながら、彼女たち二人の周囲だけは、まるで荒れ果てた墓所のように冷え切っていた。
青白く束の間の火光が降り注ぎ、ミアの血の気の引いた顔を照らし出し、その痩せこけて僅かに前屈みな影を石畳の上に歪に長く引き伸ばしていた。
そしてそれは、ルシアのフードの下にある、死の静寂へと沈んだ墨緑の瞳をも冷たく照らし出していた。
機械梟の刻刻はルシアの腕の中で、金属の歯車を音もなく噛み合わせ、その冷ややかな真鍮の瞳に、天から降り注ぐ無数の火の粉を映し込んでいた。
歓楽は彼らのものだった。この帝国の百万人もの生霊が、千年前の虚妄の勝利に酔い痴れている。
そして彼女たちは、一方が清醒のままに朽ち果てる道へと歩み、もう一方は清醒のままに逃走の途へと足を向けている。
天を埋め尽くす盛大な花火は焼け付くような灰の雨を降らせていたが、二人が重ね合わせた掌の隙間から、一分一秒ごとに骨の髄へと染み渡っていく、あの悠久の厳寒を溶かすことは決してできなかった。




