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重度カードゲーマー女子、過労死転生した異世界でも恋愛をプレミして詰んだ件  作者: 酣睡


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101/119

忠義なる暴走と、公開処刑の序幕

太古絶嶺第七宿営地の後方練兵場は、もとは上位魔獣どもに踏み荒らされ、無残に砕け散った硬石の荒野であった。


霜降ののちの凍てつく泥土は軍靴に幾度も踏み躙られ、生鉄のように硬く引き締まっている。


四方には折れ曲がった軍団の重旗が無秩序に突き刺さり、旗面は吹きすさぶ北風に煽られて激しく鳴動していた。


正午の傾きかけた青白い陽光が荒涼たる雲の裂け目から零れ落ちていたが、この百歩四方に立ち込める息詰まるほどの凄惨な殺気を貫くことは叶わなかった。


練兵場の中央、三十歩の距離を隔てて対峙するのは、引き締まった体躯を誇る二人の人影であった。


ルーカスは身の丈ほどもある大型の幅広重剣を片手で引きずり、その白髪を北地の寒風に乱暴に靡かせていた。


血の如く紅い双眸をわずかに眇め、その眼底にはグラフィエン家特有の傲岸と陰鬱な冷酷さを滾らせている。


構えの防御姿勢すら取ろうとせず、ただ前方の橙髪の少年を侮蔑しきった眼差しでねめ回していた。その口角には、猛毒を塗ったような皮肉が刻まれている。


――キィィィン!


澄み渡る金属の軋みと唸りが、突如として彼の剣脊から爆ぜ散った! 


純粋にして冷酷、極限まで凝縮された銀白色の闘気がルーカスの全身から轟然と立ち昇り、氷河の崩落を思わせる燦然たる刃となって、地を這う円環を描きながら狂暴に周囲を薙ぎ払った!


その銀光は万古不変の雪嶺の刃の如く冷徹にして刺すように鋭く、辺りを流れる大気すら肉眼で視認できるほどの白い乱流へと引き裂いていた。


「教廷の残飯と鎖で飼い慣らされた雑種の野良犬風情が、どの面下げて『大姐頭、大姐頭』と囀っている?」


ルーカスの声は、氷水に浸した玄鉄同士を擦り合わせたように低く軋み、露骨な悪意に満ちていた。


「誰の許しを得て、その腥い口でルシア先生に擦り寄っている? 審判所の吐き気を催す神聖劇など、無知な愚民にしか通じぬぞ。俺の前で尾を振る哀れな忠犬の真似事などするな。貴様の身に染み付いた教廷の走狗の悪臭、彼女に半歩近づくだけでも虫唾が走る!」


相対するガルクは両足をわずかに開き、硬土の深くに縫い付けるように仁王立ちしていた。


荒れ狂う風に揺れる鮮やかな橙髪は、激しく燃え盛る野火のようであったが、その引き締まった面輪は今や氷のように陰鬱に沈み込んでいた。


両手で古色蒼然たる大剣を逆手に握り、切っ先を地面へと斜めに垂らし、揺るぎなき山岳の如き重厚さを漂わせている。


――ドォォッ!


血の海が沸騰したかのような狂乱の気流が爆発した! 


粘つき、荒れ狂い、異端審判所の死闘の刻印を宿した暗赤色の闘気が、凶暴な咆哮と共にガルクの体内から全方位へと噴流した!


血色の気浪が怒濤となって渦を巻き、紅蓮の輝きが凶悪な狂蛟となって重甲に包まれた両腕に巻き付く。足元の凍石はその暴力的な煞気と圧力に耐えかねて砕け散り、微塵となって高温の熱波に焦がされ黒く変色していく!


ガルクの腕の青筋が怒張し、血走った眼差しでルーカスの傲岸不遜な美貌を食い殺さんばかりに睨みつけた。吐き出される一言一句が、歯の隙間から噛み砕いて吐き捨てた氷の礫のようであった。


「走狗、走狗とうるせえんだよ! 帝国の世襲貴族様は、手元の剣よりもその舌先の方がよっぽど噛み癖がついてやがるな!」


ガルクは猛然と大剣を振り上げ、その切っ先をルーカスの眉間へと突きつけた。血色の闘気が空を切り裂き、耳障りな風切り音を撒き散らす。


「大姐頭が火の海で命を削って戦ってた時、テメエはどこで指をくわえて見てやがった?! 俺が誰を大姐頭と仰ごうが、公爵家の威光を笠に着た白髪の狂犬に指図される筋合いはねえ! 今日テメエの口の中の腐った歯をへし折ってやらねえと、太古絶嶺の霜がどうやって赤く染まるのか分からねえらしいな!」


言葉が落ちた刹那、銀白と深紅、実質化した二つの巨魁たる闘気が練兵場の中線で激突した!


身を刺す銀の冷光と、血を貪る凶暴な暗赤色が狂乱の中で激しく噛み合い、鼓膜を劈く重苦しい雷鳴を轟かせる。


破片と砂利が暴風雨のように四方へと吹き飛び、百歩外で息を呑む兵卒たちを腕で顔を覆わせ後退させた。


張り詰めた殺気は喉元に突きつけられた抜き身の刃の如く濃密で、誰かがわずかでも呼吸を乱せば、この死闘は瞬時にして歯止めの利かぬ殺戮へと転じかねない危険を孕んでいた。


秋風が無残に裂けた軍旗を撫で、骨を削る鈍刀のような悲鳴を上げる。


ルシアがカリーナとクレアという二人の貴女に、まるで重罪人を護送するかのような厳戒態勢で両脇を固められ臨時練兵場へと駆けつけた時、その目に飛び込んできた光景に、少女の口角は微かに引き攣らざるを得なかった。


外囲の軍用木箱の上にはオースが腕を組んで佇み、冷徹な目元に鋭い警戒を浮かべている。桃香はその傍らに静かに正座し、湯気と甘い香りを立ち上らせる器を手際よく調えていた。


そして何より目を引いたのはヴァレリーであった――同じく地球からの「同郷人」であるこの女は、軍用椅子の上にだらしなく片膝を立てて座り込み、片手には温めた牛乳、もう片方の手で黄金色の香ばしいポップコーンを口いっぱいに放り込んでいた。


まるで映画館の特等席で話題作を鑑賞しているかのように、爛爛たる好奇心を瞳に宿している。


「一体どういう状況なの? それにガルク……」


ルシアが半歩踏み出したところで、言葉が唐突に途切れた。


優れた錬金術師である彼女は、常人を遥かに凌駕する魔力とエネルギーへの感知能力を持っていた。数十歩の距離を隔ててなお、ガルクの全身から渦巻く暗赤色の闘気が驚くほど克明に伝わってくる。


不死鳥フェニックスの討伐を経て、この少年の体内にあった荒々しく不揃いな気息は完全に沈殿し、山岳のように重厚で、玉鋼のように研ぎ澄まされていた。


(これが……才能、なの……?)


その瞬間、ルシアの胸裏に戦慄にも似た恐怖が込み上げた。それは「怪物のごとき急成長」を前にした、生存本能的な畏怖であった。


ガルクは紛れもなく未成年の少年に過ぎない。だが、審判所の血の海に浸された過酷な幼少期が、彼を頑強無比な人間凶器へと無理矢理に仕立て上げたのだ。


神殺しの修羅場を越えた今、彼の真の力は、剣技で大陸にその名を轟かせるセリフィア帝国の双子の皇子――エドワードとロバートですら、命懸けの立ち合いで一切の手加減を許されない領域に達しているに違いなかった。


ルシアが後輩の驚異的な成長に呆然とする間もなく、軽薄な口笛とからかいの声が飛んできた。


「うわっ! 村雨! 朝っぱらからずいぶんとアツアツじゃないの!」


ヴァレリーはポップコーンをもぐもぐと咀嚼しながら、黄金色の双眸で遠慮会釈もなくルシアの全身を舐め回すように見つめた。


もともと青白く清秀な小顔から華奢な首筋に至るまで、乱暴に噛みつかれた痕による鬱血が隙間なく広がり、襟元から覗く鎖骨の周りには深浅さまざまな青紫の痕が散らばっている。


今にも壊れそうなその痛々しい肢体を眺め、ヴァレリーは感心したように首を振り、「同好の士」としての隠しきれない揶揄を滲ませた。


まるでルシアが次の瞬間にでも過度の色情で息絶えるのではないかと面白がっているかのようであった。


ルシアは深く息を吸い込んだ。この同郷の悪友の素性は知り尽くしている。地球にいた頃から過激な成人向け作品にも親しんでいた口であり、この手の話題に羞恥など持ち合わせているはずもなかった。


「……ただの、深度魔力巡航と回路の交歓よ」


ルシアは顔を背け、握り拳を口元に当てて不自然極まりない咳払いを一つ落とした。持ちうる限りの厳密な術式用語を総動員して、この穴があったら入りたい公開処刑の場を誤魔化そうと足掻く。


「それより、一体何が起きてるの? あの二人は普段ほとんど言葉すら交わさないはずでしょう、どうして突然抜剣なんて……」


練兵場で殺気を滾らせる二人を見つめ、ルシアの眉間に言いようのない不気味さと居心地の悪さが募る。


「ルシア様のために、争っておられるのですよ」


微かな甘みを含んだ生姜の香りと共に、静謐で涼やかな声音がそっと滑り込んできた。


いつの間にか、桃香が湯気を立てる陶器の杯を手にルシアの傍らへと歩み寄っていた。


手慣れた流麗な所作で黒糖を溶かした熱い生姜茶をルシアの冷えた掌へと滑り込ませると、柔らかな着物の胸元から自身の体温で温められていた柔らかい肩掛けを取り出し、ルシアの華奢な肩へとふわりと掛けた。


太古絶嶺の身を刺す寒風を優しく遮断するように。


その一連の甲斐甲斐しい動作は息をするように自然で、骨の髄まで染み付いた親密さと慈しみに満ちていた。


傍らに控えるカリーナとクレアは、その温もりを宿した布が少女の肩を包み込むのを見て、ようやく我に返った――その瞬間、二人の誇り高き大貴族の胸中には、「手元で慈しんでいたはずの小羊を、目の前で野良狼に掠め取られた」かのような強烈な不快感と憤怒が同時に跳ね上がった。


桃香の素性は二人も先刻承知であった。「忘却の守護者」の座を継承したルシアに影の如く付き従う家臣であり、その代理人。


桃香の視線も、細やかな気配りも、表向きは主君に対する無私の忠誠として片付けることができた。しかし、名利と情念の渦巻く社交界を生き抜いてきたカリーナとクレアは決して愚かではない。


己自身がどれほど狂気的な執着と独占欲を孕んだ瞳でルシアを見つめているかを知っているからこそ、桃香の静水のような瞳の底に眠る、それと同質の重苦しい情念を瞬時に見抜いていた。


だが、二人の情念は前世の取り返しのつかぬ血と後悔に根ざしている。


それに比して、極東の温泉郷から現れたこの黒髪の忍びが、一体どのような因縁と執着をもって、この冷淡な錬金術師にこれほど偏執的な感情を傾けているのか、その底がまるで見えない。


素性が知れぬがゆえに、普段は果断な二人の令嬢もその場での断罪を躊躇わざるを得ず、ただ内心で激しく歯噛みするしかなかった。


「私のために……? ガルクと私が親しくしているからって、それだけで?」


ルシアは完全に状況を見失っていた。ルーカスの傲岸な頭の中にどのような理屈が詰まっているのか見当もつかないが、このような無意味な内輪揉めは心の底から御免であった。


ルーカスは名目上とはいえ直属の生徒であり、ガルクは「大姐頭」と慕ってくれる可愛い舎弟のようなものだ。


どちらも手塩にかけた存在であり、前途ある若者二人がこんな場所で命を削り合うなど絶対に容認できなかった。


「言っとくがな、テメエが俺を気に入らねえ以上に、俺はテメエのそのツラを見てるだけで吐き気がすんだよ!」


その時、練兵場の中央に立つガルクが乱暴に右手を振り上げ、自身の鼻梁を強く擦った。


かつて薄汚れた膏薬を鼻の頭に貼り付けていた無知な少年は、もはやそんな愚行を演じてはいなかった。


目の前にいる、小柄で傷だらけの黒髪の女が、理を覆す苛烈な生き様をもって彼に叩き込んだのだ――強さの形とは、ただ重剣を振り回すことだけに非ず、と。


――ズンッ!!


ガルクの手首が沈み、重厚な大剣が隕鉄の如く硬土を叩き割って、砂利を四方へと跳ね上げた!


「世界中の奴らが狂ったように大姐頭のことを忘れ去った時、テメエら高貴な連中はどこで何をほざいてやがった?! あの時、大姐頭がどれだけの地獄を味わっていたか知ってんのかよ!」


ガルクは目を血走らせ、胸を激しく上下させながら、剥き出しの憤怒と痛惜を咆哮へと乗せた。


「大姐頭はな、昼も夜も浴びるように酒を煽り続けてたんだよ! 全身酒の匂いに塗れて、まともに自分の生活すら成り立たねえほどボロボロになってたんだ! 桃香姐さんが傍で支えてなきゃ、とっくに泥水の中で腐り果ててたんだぞ!」


少年はただ、ルシアに降りかかった不条理と痛みが許せなかったのだ。彼の目には、帝国の上流貴族や皇族連中こそが、美しく気高き女を壊乱の淵へと追い詰めた元凶に他ならなかった。


だが、その義憤に駆られた魂の叫びは、雷霆の如く鋭く正確に、ルシアの最も致命的な急所を撃ち抜いてしまった。


「……過度の、飲酒?」


腕を組み冷然と静観していたカリーナの聲音が、地割れの底から響くように低く、冷たく沈み込んだ。


カリーナと、その傍らのクレアが、ほぼ同時に首を巡らせた。手術刀の如く研ぎ澄まされた二条の冷酷な視線が、凍りついたルシアの横顔へとゆっくりと突き刺さる。


その眼窩に渦巻く冷たい怒り、戦慄、そして狂気じみた独占欲の圧迫感に、ルシアの全身の毛穴が一斉に逆立った。背骨を伝って冷気が頭頂へと突き抜ける!


しかし、この異変に気付く由もないガルクは、さらに致命的な地雷を踏み荒らし続けた。


「それどころか、命懸けの決闘の最中にすら大酒をかっ喰らってたんだぞ! それがどういう意味か分かんねえのかよ?! あまりの苦しさに耐えかねて、戦場の中で他人の刃を借りて、そのまま逝っちまおうとしてたんだよッ!! あの方の絶望も、引き裂かれるような苦痛も知らねえ分際で、偉そうに見下した口を利いてんじゃねえぞ!」


終わった。


何もかも、完全に終わった。


ルシアは両脇に立つ尊貴なる二人の女から放たれる気圧が、絶望的な速度で崩壊していくのを肌で感じていた。


カリーナの垂らした指先は蒼白に強張り、クレアの唇に貼り付いていた優雅な微笑は、今や凶悪なまでに歪み果てている。


「やめなさい! ガルク! それ以上喋るんじゃないわッ!!」


ルシアは今度こそ肝を冷やし、普段取り繕っている学者肌の冷静さをかなぐり捨てて、裏返った悲鳴のような怒号を張り上げた。


己の置かれた破滅的な立場を誰よりも理解していたからだ。もしあの「忘却」の期間中、強い蒸留酒を水代わりに呷り、我が身を顧みぬ自殺まがいの悪ふざけや生体実験に狂奔していた事実が露見すれば――


待っているのは、間違いなくカリーナの手によって再び四肢の骨を砕かれ、対魔の枷を嵌められて、天蓋付きの豪奢な寝台へ永久に幽閉されるという暗黒の結末であった!


カリーナは自分を愛しているのか? その答えは間違いなく肯定であり、それゆえに狂気的なまでに歪んでいる。


だからこそ、あの自傷行為に等しい過去の自暴自棄が白日の下に晒された瞬間、ルシアの残りの人生における「自由」という概念は、完全に死刑宣告を下されるに等しかった!


「案ずるな大姐頭! 俺があの気取ったクソ野郎どもに、思い知らせてやる! 自分たちがどれだけ大姐頭を無残に踏み躙ったのかをな!」


秋風を引き裂く獰猛な咆哮と共に、ガルクの全身から噴き上がる暗赤色の闘気が血煙の柱となって天を衝き、重苦しい殺戮の威圧が練兵場全体を呑み込んだ。


遠巻きに見守る兵卒たちはその凶悪な圧力に抗えず次々と抜剣して身構え、大気には焦げつくような鉄錆の臭いが充満していく。


しかし、全軍を震撼させるはずのこの天才同士の激突など、今のルシアの視界には爪の先ほども映っていなかった。


心臓を冷え切った手で鷲掴みにされたように耳鳴りが響き、脳裏にはただ二文字――「終わり」という破滅の刻印が点滅していた。


背後の二人の貴女が放つ威圧は、目の前で吠える二匹の狂犬など比較にならぬほど、何万倍も恐ろしい。


ルシアの身体は、錆び付いた歯車のようにぎこちなく軋んだ。二口ほど口をつけただけの熱い生姜茶を、震える手でそのまま桃香の手元へと押し戻し、感謝の言葉を絞り出す余裕すら失っていた。


そして、黒髪の少女は途方もない重圧を押し退け、恐る恐る振り返った。


目の前に立つカリーナは、傾いた秋陽を背に受け、濃墨色の軍礼服に包まれた長身を冷ややかに直立させていた。彫刻の如く研ぎ澄まされたその貌には、背筋が凍るほどに美しく、危険な笑みが貼り付いている。


血の如き紅瞳が緩やかに伏せられ、ルシアの蒼白な小顔を逃さぬよう捉えていた。


あらゆる謀略と虚飾を見透かすその紅の視線を受け、ルシアの頭脳は限界を超えて三秒間フル回転したが、すべての弁解と計算を放棄せざるを得なかった。


純粋な生存本能に突き動かされた少女は、その生涯において最も恥知らずで、最も無様な最後の策に縋り付いた。


少女はわずかに顔を仰がせ、墨緑の瞳に作り物の潤んだ涙を浮かべると、法衣の広い袖口から細く冷え切った二本の腕を恐る恐る差し出し、女公爵の胸元に向けて、微かに震わせてみせた。


「……ぎゅーって、して」


甘ったるく弱々しい掠れ声は、怯えた子猫が許しを乞う鳴き声のようであった。


それはルシアがこの土壇場で思いつき得た、唯一の突破口であった。


普段の己なら死んでも口にしないような媚態が、目の前の噴火寸前の活火山の熱量を、ほんのわずかでも冷ましてくれることを、少女は心の底からあらゆる神に祈っていた。


カリーナは自ら胸元へと飛び込んできた獲物を見下ろし、口元の笑みをさらに深めた――しかしその冷笑は絶対零度の氷刃の如く、紅瞳の奥底には爪の先ほども届いていなかった。


それでも、帝国にその武名を轟かす女公爵は、その華奢な身体を突き放しはしなかった。


カリーナのしなやかな腕が緩やかに閉じられ、比類なき優雅さと底知れぬ慈しみをもって、その小柄で薄い肉体を余すところなく己の胸の奥深奥へと抱き竦めた。


女公爵はルシアの乱れた頭頂にそっと顎を預け、冷たい指先で愛おしむように少女の項を撫で下ろす。まるで、二度と檻から出さぬよう深奥の部屋に閉じ込めるべき、壊れやすい人形を慈しむかのように。


仕立てのよい制服の布地越しに、ルシアはカリーナの平穏でありながら異常なまでに重く沈む鼓動を、そして耳朶を掠める、恋人の睦言の如く甘やかでありながら致死の猛毒を含んだ囁きを、はっきりと聞き取っていた。


「良い子だ……後で、一から十まで、すべて綺麗に清算してあげようね」

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