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行き先だけが同じだった  作者: みき


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2/9

第1話 就活生の話

 俺の就活はうまくいってた。少なくとも、数字の上では。


 エントリー五十二社、面接通過率は同期で一番。大学のキャリアセンターに「模範例」として呼ばれたこともある。後輩の前で喋らされた。「面接は、企業が求める人物像を演じきるゲームです」って。みんなメモ取ってた。笑えるだろ。


 俺、面接が得意なんだ。理由は簡単で、全部嘘だから。


 学生時代に力を入れたこと? ボランティアサークルの立て直し。本当は三回しか行ってない。挫折経験? 留学先での言葉の壁。留学なんかしてない。短期の語学研修だ、二週間の。尊敬する人物? その会社の創業者。前の晩にWikipediaで読んだだけの。


 最初は罪悪感があった。でもさ、隣で正直に喋ってる奴がバンバン落ちて、俺だけ通っていくんだよ。三次面接、最終面接。「浅井くんは芯がありますね」って言われる。芯なんかどこにもないのに。

で、第一志望の最終面接が、昨日だった。


 大手だよ。親が名前を聞いて泣いて喜ぶような会社。役員が五人並んでてさ、真ん中の一番偉そうな人が、最後にこう訊いたんだ。


「浅井さん。あなたが人生で一番、自分に正直だった瞬間はいつですか」


……固まった。


 いや、わかるだろ? そんなの即興で作ればいいんだよ。部活の引退試合とか、祖父の死とか、何でもいい。五十二社分のストックがあるんだ。三秒あれば組み立てられる。


 でも、その三秒の間に、思っちゃったんだよな。


 一番正直だった瞬間を語るための嘘って、何だ?


 気づいたら、立ち上がってた。「すみません」って言って、頭下げて、面接室を出てた。エレベーターを待てなくて非常階段を駆け下りて、ビルを出て、そのまま新宿まで歩いて。


 気づいたらこのバスのチケット買ってた。


 なんで星ノ浦かって? ……大学一年のとき、サークルの合宿の候補地だったんだよ。結局、幹事の俺が「アクセスが悪い」って却下した。海がきれいで、変な祭りがある町。行きたいって言った奴がいてさ。「浅井、効率ばっか考えてるとロクな大人にならねえぞ」って笑ってた。


 そいつ、今、地元で漁師やってる。インスタで見た。真っ黒に日焼けして、デカい魚持って笑ってた。いいねは二十三件。俺の内定報告の投稿は、いいね四百ついた。


 どっちが本物の人生なんだろうな。


……星ノ浦に行く理由? 人生をやり直すため——って言いたいところだけど、嘘はもうやめるって決めたから、正直に言うわ。


 逃げてきただけです。理由なんか、まだない。


 向こうに着いてから、探します。


 浅井さんが話し終えると、車内はしばらく静かだった。


「最終面接、もったいない」と誰かが小さく言って、浅井さんは「でしょうね」と笑った。さっきまでより、ずっと楽そうな笑い方だった。


「ただの暇つぶしって言ったの、誰すか」彼は運転手のほうを見た。「結構しゃべっちゃったんですけど」


「嘘でもいい、とも言いましたよ」


「……今のは、全部本当です」


 雨は、まだ止まない。


「次、どなたか」と運転手が言うと、後方の席で、静かな声がした。 


「では、私が」


 白髪まじりの、痩せた男の人だった。六十歳くらいだろうか。きちんとした、けれど少し古びたジャケットを着ていた。


「堀口と申します。三月まで、中学校の教員をしておりました」

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