07 - 捜査本部の呼び出しにて
「で、問題の転移者の自爆は防げなかったというわけか?」
「……まぁ、報告書の通りだ」
翌日。今の状況を端的にいうと、俺はトルネルに詰められている。
「それで通り一つを吹っ飛ばして何故か無事でノコノコ帰ってきたと。その上で証人になりそうだった転移者もみすみす死なせたと?」
「トルネル、ありゃ誰の目から見ても“タイムリミット”だよ。まさにスキルの使い過ぎで精神崩壊寸前って感じだった……要するに防ぎようはなかったんだ」
「黙れスンドグレーン‼︎ お前もクサカと同じく詰問されている立場なのを自覚してるのか‼︎‼︎‼︎」
見るからにイライラしながら部屋をウロウロ歩き回るトルネルに向かってスンドグレーンが助け舟を出してくれた。が、それも火に油を注ぐだけだ。そりゃそうだ、スンドグレーンだっていま怒鳴られている立場なのに変わりはないのだから。
「“騎士団長”、あまり大声を張り上げられますと……!」
「……っ、すまない。声が廊下のほうにまで響くんだったな」
で、トルネルは新しく付けられた黒髪の女性秘書に注意されていた。
まだ団体の名前すらないが、かのベルンハルド・クリストフェル・フォン・トルネルは今や新設騎士団の新任団長である。騎士としてのフルネームに肩書き云々が合わさって凄まじくエラそーだ。
ここは刑事局庁舎内にある広めの会議室……いうなれば地下の盗賊団に対する“捜査本部”、みたいなヤツ。ちなみにこの四人以外の人員はみんな爆発現場やら地下水路への第四進入口やらで走り回っているハズだ、いわゆる現場ケンショー。何にしても設立申請が通ったばかりの騎士団に与えられるにしては破格の待遇といえる。
つまりこの王国にとって、それだけ異世界転移者が集まった盗賊団はデカい問題として認識されてるってことなんだろう。あのメフィ何たらがどれだけ“向こう”から転移者を放り込んでるとしても、この世界が転移者で溢れかえるにはまだまだ程遠い。要するに転移者単独ならともかく、複数犯に対処するには実例が無さすぎるのだ。それこそ徒党まで組まれたらどうにもならないって塩梅だった。
「……話を戻すが! ヤツらの構成員一人を捕虜に出来るチャンスをみすみす逃したんだぞ⁉︎ これがどれだけマイナスになると——
「いや、それは多分無い……と思う」
「はぁ?」
まぁだからこそ、そんな感じで口から火でも吹きそうなくらいに怒るトルネルだったが、そこに俺は思わず口を挟む。
自信があるワケじゃないが、トルネルの期待していたことは何となく間違いな気がした。
「いや、だって普通に考えてさ。そもそもあんなとこに精神崩壊寸前の“仲間”を連れてくるか? しかもあの現場に残されてたのはあの一人だけで、他には影も形も無かったんだぞ? 連れてくるとしたらそんなモン……」
「つまり『在庫処分』てか?」
スンドグレーンも俺の推測話に加わる。何だ、アシストしてトルネル丸め込むのに協力してくれてるとかか?
……何にしても俺は続けて意見を述べるだけだ。
「そういうことだと思ってる。幼児退行かどうかは分かんねェけど、そんな状態が疑われるようなヤツを単独行動させてたんだ。最初から証拠に繋がるようなモンそのままにはしてないんじゃないかってな」
「そんなことは言われずとも承知の上だ‼︎ 分かってはいるが……その上でお前らが最初から拘束を諦めていてどうする!」
トルネルは渋い顔をしながらもそう言って息巻く。
「最初から? そんなん俺らで機をうかがって、それでも無駄だったからこうなってるに決まってんだろ……そりゃ証拠は何も無いけどな」
俺は溜め息をつきつつそう言って脱力した。
盗賊団の潜伏場所が地下と分かりきっているのにこちら側の対処がこうも後手後手に回っている理由は三つある。二つはすでに説明済みである「異世界転移者特有の強力なスキル」、「王都地下構造の広大さと複雑さ」。そして三つ目が『抜け目の無さ』だった。
スンドグレーンが付け足すように言葉を次いでいく。
「大体そもそもだぞ、トルネル。ヤツらの問題がここまで大きくなるまで刑事局が対処できなかった理由はお前だって分かってんじゃないのか? ヤツら、派手に暴れる割にブッ壊した現場以外には今まで何も痕跡を残してない。構成員一人一人が徹底して、指紋一つ残さずだ。そりゃ俺らだって転移者が“向こう側の世界”から持ち込む技術で捜査力を進歩させてきた。そこな秘書ちゃん、どういう技術が“向こう”由来なんだっけ?」
そうやって突然スンドグレーンはトルネルの女性秘書に話を振った。データ参照はうろ覚えの自分より得意そうな人間に頼ったとかそういうのか? いや、コレはどちらかというと……。
「えっ、あっ、おほん。それで言えば指紋を使った個人照合などは異世界由来です」
「……つまり今回の敵はそもそもそういう風に手がかりを掴ませない技術持ってるヤツらだ、認めたかねェけどアッチのが上手だろ」
単に長ゼリフの後に自分が一呼吸置きたかっただけか。
しかしスンドグレーンもちゃんと相手を丸め込もうとしてるワケだ。直接言葉を交わしたワケじゃないが、俺たちの利害は一致している。負けじと俺も援護射撃で畳み掛けた。
「それに相手方にもリーダーとかがいるハズだが、そいつもやっぱ相当な傑物なのは間違いない。ここまでボロ出してねェんだ。この統率力を保つためのカリスマ性とか生半可なんてもんじゃないだろ。それか構成員が持ってる『スキル』に相当便利なのがあるのか……」
そうは言っても、俺は飽くまで予想できる限り悪い現状を出任せで口にしただけだが。
そんな俺ら二人の理論武装(屁理屈ともいう)にトルネルは黙り込む。今まで通りで現場からは特に証拠は出ないだろう。……となると実際のところ、現状ではほとんど手詰まりに近い。
「ならお前ら二人には次の命令だ、現場に行け。とにかく当時居合わせた状況をいま動いてる捜査員たちにも説明してこい」
当時は暗くてよく見てなかったのもあるんだろうが、爆破現場は記憶にある光景よりもずっとひどい状態だった。
石畳がヒビ割れて地面もえぐれているのくらいは昨日しっかり見ているが、昼日中に改めて見てみればその上に建ってる建造物も被害甚大だ。それにあの後の爆発をモロに喰らったのもあるだろう、特に爆心地周辺だと煤まみれの白っぽい石造りの外壁はもはや三割も残っていない。
「二人ともやっとお出まし?」
到着した俺ら二人は同年代ってよりもちょっと上ほどの現場を取り仕切る女騎士に早速話しかけられる。
服装はトルネルやスンドグレーンと同じ金属フレーム付きの背広みたいな紺のスーツ。細かい装備も全く一緒みたいだ。朗らかそうながら気丈そうな、そんな顎のとがった感じの女だった。
にしてもトルネルとかに色々報告するほうが優先だったとはいえ、口ぶりから察するに俺たちは現場をなかなか待たせてしまっていたらしい。
「えぇと、とりあえず俺らで見たものの報告ですよね?」
「あぁそれは大丈夫。報告書はもう見てるから」
俺は一応敬語モードで女騎士に応じた。相手は話し慣れてるトルネルとも、勢いでいつの間にかタメ口になってるままのスンドグレーンとも違う、顔見知りでしかない騎士だ。そういう態度取るのは人を選ばないとな。
「じゃあ現場で俺らがやってこいって言われたことはもう必要ないってことか?」
「そういうワケじゃない。まだ雑事は色々あるし、ウチの小姓には任せられないような荒事もね」
一方のスンドグレーンは顔馴染みに挨拶でもするみたいに砕けた口調で話しかける。
聞いた話によるとトルネル、スンドグレーン、そしてこの女騎士の三人は旧知の仲みたいなモンらしいが……えぇと、でもってこの女騎士の名前は——
「あら、改めて自己紹介が必要? そっちのクサカくんと話すのは初めてだものね。イルヴァ・ウルリカ・シルヴマルク。クサカくんのとこの文化では上と下の名前しかないんだっけ、なら呼びやすいようにイルヴァでいい。騎士の家の名前なんてのにも馴染み無いだろうしね」
おっと、向こうから助け舟。
というかこの女、刑事局の騎士にしては随分と気さくな態度だ。他はスンドグレーンみたいに嫌悪感を隠さない連中もいるのに。何だ?
……と、違和感を感じたそばから。
「なぁイルヴァ、いくら捜査協力者相手だからってコイツ前科モンだぞ? そんなフレンドリーに接してもメリットないだろ」
例に漏れずスンドグレーンが呆れたような声を上げた。それに対してイルヴァは溜め息。
「例え経歴に傷があったからって、服役を終えてるならもう罪は償った後でしょ? いつまで目くじら立ててんのよ。それで市民の目の前で捜査協力者を邪険に扱って刑事局のイメージが悪くなったらどうするつもり? 案外いつ誰に見られてるかも分からないものよ」
そう言いつつもイルヴァはこちらに背を向けてついてくるように促してくる。
「ほらついて来て。貴方たち二人を見込んで頼みたいことがある。さっき言ってた、『荒事』ね」




