04 - 駆けつけた現場の隅にて
「……⁉︎」
「…………」
虫の知らせなんていうにはあまりに物騒な物音に、俺たちは顔を見合わせる。
あの小娘が言っていた時間というのがこのことだとするなら、まず間違いなく俺たちは“引っ掛け”られた。あの小娘はこの地点に見張りが来ることを確信した上で、他の地点……今の爆発の出どころに目を向けさせないための囮だったのはもはや疑う余地もない。盗賊団の襲撃タイミングが警戒されているのを見越してのひと暴れだったのだろう。
けど対するこっちは猛攻をなんとか凌いで、今頃やっとトルネルに伝令を入れるタイミングだ。盗賊団が相手として想定しているよりも俺たちが鈍クサい動きになっているのは否定できなかった。
「伝令札はお前が持ってるだろう、早く刑事局との通信を!」
不信感騎士(仮)から鋭く指示が飛んでくる。慌ててたのもあって若干気圧されつつも俺は素直に従わざるをえない。これで合ってるのか分からないままスマホみたく耳に札を当ててみる。
『おいクサカ! 同行のスンドグレーンもだ‼︎ 今の爆発音は何だ、なぜ見張りのお前たちからの伝令が今ごろ届く⁉︎』
幸いにも使い方は合っていたようで、耳元に半狂乱で叫ぶトルネルの怒鳴り声が突き刺さった。
……無理もないが、非常に声がデカい。
「悪い! たぶん転移者の、強力なスキル持ちの刺客を見張り地点に差し向けられてた‼︎ 撃退したが第四進入口が半壊状態になった上にありゃ囮だ! “本命”が街中で爆発したらしい‼︎」
しかしこちらもトルネルの勢いに萎縮なんてしていられない。負けじと大声で伝令札に向かって捲し立てる。おかげで会話内容にはかなりの緊迫感が漂っていた。
『刺客だと⁉︎ 見張りを置くタイミングが漏れていたということか⁉︎』
「多分そうだがそれは後だ! 王都中に刑事局の警備とかが散らばってんだろ、はやく現場に——
『とっくに指示は出した! お前たちも早く向かえ‼︎』
相変わらずの怒鳴り声がそう指示を出すと同時に、伝令札からは何も声が聞こえなくなる。
“元の世界”の無線なんかよりもずっと軽くてかさばらなくて、しかもガチャガチャと操作しなくて良いぶん、こっちの方が遥かに便利かも知れない。
「こっちにまで指令聴こえてたぞ、無理もないが。行こう」
不信感騎士(仮)はそのまま俺を置いていきかねない勢いで言った。……が、その前に。
「あんたの名前、スンド何とかってのか? いい加減名前くらい教えろって」
「はぁ⁉︎ この期に及んでで何を言って——……まぁ良い、ステファン・フィリップ・スンドグレーンだ。気は済んだか? それと先ほどの刺客のこともある、無いとは思うがまた襲撃されて共倒れになっては話にならん。一旦別々に行動して現場に向かうぞ」
こんな感じでようやく不信感騎士(仮)改め騎士・スンドグレーンに手早く要件を済ませ、俺たちは二人別行動で王都の街角へと潜っていくことになった。
半ばパニックで音のしない方へと殺到する王都住民たちの流れに逆らうのに、先ほどスンドグレーンに差し出されたボロきれマントはだいぶ役立っている。若干腹立たしいが。……どうもヤツの言っていた通り俺の風体にこのマントだと本当に乞食か何かにしか見えないらしかった。
おかげで僅かばかりの効果とはいえ、群衆が向こうから避けてくれるのはだいぶ画期的だ。
(あんだけデカい爆発音だったんだ、屋内で引きこもってた連中も外に炙り出されてんな……)
俺は状況をそんな風に分析する。
今日は金曜日、盗賊団(というよりやってることは強盗団つったほうが自然だが)の襲撃がある曜日の片っぽだ。いま逃げてるような大量の住民がまだ外を出歩いてたとは考えにくい。要するに、王都というにふさわしい高さと階層を持つ建造物でできた街並みから、人の波が一気に吐き出されてるワケか……そりゃこのパニックにもなるわな。
しかし、だとすれば単純にデカい爆発ってだけじゃないのか?
単に身近で爆発があった程度でわざわざ住民ほぼ全員が家を捨てて逃げ出すか……?
殺気立った人混みを縫って俺は流れを遡っていく。足を踏まれるのも気にせず突き進んで、そしてその人の群れもとっくにいなくなった大通りの“爆破現場”に何とか辿り着いた俺は、
「あー……こんななったらそら逃げるよな……」
何でこんなことになってるのか納得した。
穴だ。
端的に言えば大通りの路面、そこのド真ん中に巨大な穴が空いていた。
直径で言うなら十数メートルほどだろうか、ヒビ割れすらほぼ無くいきなり大穴が出現している。つまり、明らかに地下水路から地上の石畳を爆破して“下”から街を襲撃していた。更に言えば盗賊団のヤツらはとっくに地下から地上へ既に這い出した後らしい。“クレーター”の周りにはもちろん誰もいなかった。
つまり強力なスキルを使う無法者たちがもう街に放たれていることを意味している。それこそ逃げるしかないハズだ。盗賊団からすれば、人がいなくなった跡を好きに物色すれば良いだけ。
というか、最初の爆破だけでも被害は相当だろう。物の破壊具合だけでなく死傷者だってたぶん多い。地面についた血痕と煤の黒ずみが、もう見るからに……。
「これは、酷いな……」
別れてここを目指していたスンドグレーンもここまで来れたようで、大通りから伸びた右側の細い脇道からあいつはこっちへ駆け寄ってきてそう吐き出した。声の中に何と言うか、とても言語化しきれないような感情を含んだ『やるせなさ』が滲んでいる気がする。
コイツだって刑事局所属の騎士という身分で、だから街がこんな風に破壊されてるのを見るのは我慢ならないんだろう。
「……見張りに出てた人員はどうしてる?」
そうやって気を取り直した風な声色を作って呼びかけてみたものの、スンドグレーンの苦虫を噛み潰したような顔は晴れないままだ。眉間のシワ一本一本にありありと苦い感情が刻まれているように見える。
「オレはさっき一人会ってるぞ。多くは周辺住民の避難誘導とかで駆り出されてるらしい……にしても完全にしてやられてんだろうが、クソっ」
「————いや、なぁおい待て。まだそんなテンションになってる場合じゃない、気がする」
そんな目の前の男の想いだとかを想像しようとして、俺は気がついた。
「こんなことになって街に盗賊団の転移者が大量に出てきたっぽいのはもちろん問題だけどさ、お前……ここに来るまででヤツらっぽい人間見かけたか? ここまで何も無く俺らがあっさり辿り着けてること自体何かおかしくないか……?」
曇り顔だったスンドグレーンの表情に明らかな警戒の色が混ざる。
「どういうこったよ、何があるってんだ……?」
「この爆破って本当にそんな計画的な内容なのか? これが計画されたことだってんならそれこそ、もっと大掛かりな被害になっててもおかしくないだろ。盗賊団が集団で暴れまわってたりしてても変じゃない。そうなったら俺らなんて袋叩きにされてるんじゃないか? 人の流れに逆行して、いかにも“刑事局の人間です”って言ってるようなモンだったんだからよ。だいたい穴を見てみろ、そんな大人数が這い出てきたみたいな痕跡どこにもない。ハシゴとかロープとかそういうヤツ」
自分の感じた率直な違和感を口にしていく。素人の勘繰り過ぎなのかも知れない。でも違和感は拭いきれない。
「皆して素手で這い上がってきたとかか? それこそ変だろ。そもそもヤツらがいるのは地下なのに、地上に上がるための道具を何も用意してないって? そんな、幾らなんでも……」
あまりにも場当たり的な。
「……分かったクサカ、これは偶発的な事故か何かって言いたいのか? なら何で金曜日の“予定通り”の日程でそんな事故が起きるんだよ」
「例えば、もともと計画してたことはしてたけど予定外のことが起きたとか。それで何かの理由で爆発が起きて、計画もご破算になって、連中は散り散りに地下へ逃げ出した……って考えると今の状況は自然になる。……気がする。」
「自然になるかぁ? ならその『爆発が起きた理由』ってのを提示できるか? そりゃあまりにも事態を甘く考え過ぎだろう、それこそ“事なかれ主義”っていうヤツだ」
……確かにそれは否定できない。
いくら天然ボケの気がコイツにあるからって、それでも元の世界で言うなら本職の刑事みたいな地位にある人間の意見だぞ。俺みたいな素人がそれを無視して突っ走って大丈——?
ふと、足を引きずる音。
スンドグレーンが来たのとは逆の左の道から俺以上にボロボロの見た目の男が歩いてくる。
思い詰めたような表情で、服には焦げ跡と煤汚れ。手は擦り傷だらけで足にも怪我もしてるらしく、左の踵を引きずっていた。それこそ大穴から無理矢理這い出てきたみたいな。
そして焦げてこそいるが、現代的なジッパーのくっついたどう見ても“あっちの世界産”のジャケット。
あからさまなまでに転移者だった。コイツも盗賊団の一員とみて間違いない。




