↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/31

30 - 祝福の鉄線の花の下にて

 爆発の威力は想定よりも大したことはなかった、……ってこれはさすがに強がりだと思われるか? まぁ、窓ガラス越しで爆発喰らったワケだしな。


 窓のちょうど脇のところにベッドがあったからヴァイオレットはまだ良い、位置的にも爆風は直接当たらないだろう。問題なのはフツーに部屋の中で突っ立ってた面会人(おれたち)のほうなのは言うまでもない。



「ぐぁっ、クッ……ソ?」



 けど実際のところ爆風が大したことないらしいのは事実だ。

 苦し紛れに呻(うめ)いたつもりだったのが、思った以上に苦もなく発音できて自分で困惑してしまう。息に混じった埃が口に入るようなことすらない。

 起こったことを端的に言えば、俺を襲うハズだった爆発の勢いはせいぜい強めの風くらいの威力で吹き抜けていった。……それだけだった。



「お、おい何だ……?」



 隣のスンドグレーンからも困惑した声が上がる。こっちも無事らしい。

 俺たちは思わず窓を、つまり爆心地のほうへ視線を動かしてから、それから反射的に全員がベッドのヴァイオレットを見た。



「…………あんまナメないでよね」



 ギギギ……と金属製の“何か”が軋(きし)む音。


 さっきまで病院着で、ベッドの上で上半身だけを起こしていたヴァイオレットは右手を掲げている。いつも周囲に浮かべているあの涙型の盾は刑事局庁舎内に押収済み。だからといってヴァイオレットがお得意の磁力(スキル)を使えない道理はなかった。

 そして彼女の指の延長線上にあるのは鉄製の窓枠だ。



「窓枠だけじゃない、病院の窓っていったらふつー簡単に割れないようにガラス板に鉄線が張られてる……なら簡単、磁力で鉄線を変形・固定できれば幾らでも補強できちゃうわけ」



 そう続けるヴァイオレットの言葉通り、よく見ると窓ガラスの表面には格子状に編まれた黒い線が縦横無尽に走っている。確かにガラス自体はほぼ粉々だが、“こっちの世界”なりにワイヤーを真似ようとしたらしいケーブルみたいな太さの鉄線はまだまだ健在だ。

 何度も言っているように、俺らの“元いたほうの世界”から技術は山ほど伝わって来てる。

 つまり、イザってときに現代の知識を活かす発想力も俺たち転移者の専売特許みたいなところがあった。



「それでもガラス自体の強度は保(も)たなかったみたいだけど、それも好都合!」



 隙間風が吹き抜ける病室でヴァイオレットはニンマリ勝ち誇る。



「鉄線を操れるってことは——



 笑顔の小娘がそういうと同時に鉄線はギュルギュルと弓を引き絞るような音を立てて窓枠から網は引きちぎれた。



「鉄線使ってあんたを捕まえられるってわけ、チャウ!」



 ”チャウ”とはさっき聞こえた声の主のことだろうか? たぶん中国系か、向こうはかなり多国籍な集団らしい。

 窓枠から大きく咲いた鉄線で出来た巨大な花は放射状にツルを伸ばして……しかし、そこから虚(むな)しく空を切った。窓の外には誰もいない。



『おいヴァイオレットぉ、相変わらず脳筋のクソガキみてーだな! 俺らは「札」で異能(スキル)を自由に受け渡せるの忘れたかァ⁉︎ よぉ⁉︎』



 どうにもかなり血の気が多いらしいチャウとやらの煽りはどこからともなく聞こえてくる。



『ま、これは宣戦布告って名前の威力偵察(いりょくていさつ)、もとい単なる嫌がらせだ。ヴァイオレットよぉ、ワイルドバンチを敵に回したツケはしっかり払って貰うかんなァ……‼︎』



 そんな明け透けな言葉と共に声は遠ざかっていった。しかし相手の意図自体は伝わったが、なんというかその……。



「今の三下は誰だ?」



 トルネルが容赦なく一語で今の声を表現する。あ、お前がそれ言うのね……。

 ヴァイオレットは落ち着いて息を整えつつ口を開いた。



「い、今のはワイルドバンチの使いっ走りっていうか……てっぽーだまっていうの? チンピラ(ギャングスタ)みたいなやつ。名前はチャウっていう男で……元々持ってる異能(スキル)は知らなかったし、今のじゃ丸っきり分かんない」


「ごめんなさい、その“分からない”っていうのは……」


「あいつが言ってた通り、そんであたしが使ってた通り、ワイルドバンチには“札”を使って異能(スキル)を受け渡しする手段があるわけ。あいつ、いま明らかに複数種類の異能(スキル)使ってた」



 事情を整理しようとするイルヴァに応えるようにヴァイオレットが情報を補足していく。……どうにも、相手方は思ったよりも数段厄介な連中らしかった。



「それに今のヤツみたいなのをわざわざ伝言役に使うっつーことは、だ……アイツら相当やる気らしいな」



 スンドグレーンも思わず溜め息を漏らす。

 そもそも、相手方は『ワイルドバンチ強(・)盗(・)団(・)』なんてわざわざ名乗ってる連中だ。団体名からしてゴリゴリの武闘派なのは間違いないだろう。いくら名前が表向きに広まっていなくても、元々の自認の問題で。



「……本当、気が重くなるわね……」



 イルヴァがボソッとこぼす返事が病室に影を落とした気がした。



「し、しっかしヴァイオレットちゃんの磁力がこんなに頼もしい味方になってくれるたなぁ! 正直、オレはちょっと感動してんだ‼︎」


「……だよなぁ! あんだけ咄嗟(とっさ)に動けんだからやっぱ向こうの実力者が協力してくれんのは心強いってこったな」



 空気を重くした責任みたいなものを感じたんだろうか、スンドグレーンは分かりやすく場を取りなそうとした明るい声を上げる。出遅れたが俺も援護射撃だ……ってまぁ、明らかに気を遣おうとして妙な便乗してんのが丸わかりだったが。こういうのにはやっぱある程度の慣れってのが必要なんだろう。

 そんな俺たちを見て脱力したみたいに、イルヴァが心なしかさっきよりも軽い響きの声を上げた。



「ま、お調子者二人が無理してるのはともかく。ヴァイオレットちゃんがいないとどうにもならなかったのは事実かしらね、さすがに未知の転移者相手だと対処が出来なさ過ぎるもの。クサカくんだと相手のこと観察するのが大前提みたいなとこあるし」



 そう、確かに今のは俺じゃどうしようもない。あのチャウとかいうチンピラがどんな異能(スキル)を持ってるにせよ、会話の外から問答無用の襲撃なんてされたんじゃ俺の洗脳とは相性が悪いことこの上なかった。

 早い話、常に無条件で強力な異能を即行使できるヴァイオレットが、うちの騎士団において最高に欲しかったピースに化けるのも無理ないところだ。



「で、でしょ⁉︎ こっちの学校な(・)ん(・)か(・)に無理やり捩(ね)じ込むよりもチームメイトとして置いてくれた方が役立てると思う! いざって時にはショーゴに抑えてもらえば良いし、逆にもしショーゴに何かあったときはあたしが体を張れる! ね、悪くないでしょ……?」


「む……ん、しかしだな……」



 ここぞとばかりにヴァイオレットは加入反対派だったトルネルに畳み掛けていく。父親に何かねだる女子高生みたいなことやってら……イヤまぁ、確かにそもそも年齢的にはドンピシャなワケだが。

 一方で、ヴァイオレットが“学校な(・)ん(・)か(・)”と言ったのには俺だって気がついていた。よっぽど良くない印象だか思い出だかがあるんだろう。それを言ったら俺だって孤児院時代のこととかは思い出したくもない。

 あの悪魔野郎、やっぱそういう過去持ちの連中ばっか“こっち”に放り込んでるらしいな。



「ああもう分かった! クサカと同じ扱いの特例ってことにすれば上にも通るだろう、何せ前例があるからな。個人的には、未成年者にこれ以上体を張らせるのは気に食わな——


「やった! まぁこうなっちゃったからさ、皆よろしく!」



 こうしてトルネルが渋々折れてグダグダ言ってるのも無理やり遮(さえぎ)り、ヴァイオレットは嬉しそうに声を上げる。それからベッドからわざわざ立ち上がってまで恭(うやうや)しくお辞儀までして見せた。いくら回復が早い世界観だからってテンション上げて動き過ぎだろ……。

 で、それを受けて二人以外からも声が上がる。



「いやオイ待てって! オレぁやっぱ納得しねぇぞ、そりゃ本人たっての希望なのはそうだけどよ……」


「ちょっと、独身男が一丁前にどこぞの父親みたいなこと言わないの! それとも、この子の親戚にでもなったつもり?」



 若干ムキになったスンドグレーンの意見表明と、それとは対照的なイルヴァの軽口も、何となくヴァイオレットのチーム加入を祝福しているように聞こえた。

 何にしても戦力としてかなりデカいのは間違いないしな。




 と、明るくなった雰囲気の中で、取り残されてたみたいに俺の頭の片隅ではまた何かが繋がる気配がした。


 イヤ……どちらかというと本当はもっともっと前から分かってはいたことだ。“そう”なることはずっと理屈の上では承知の上というか当然の話で、でもだからこそ理解はしていても無意識にワザと気を逸らし続けていた部分があることは否めない。

 ……俺の異能(スキル)は『洗脳』だ。そして俺もまた異世界転移者なら、いざタイムリミットが来たときの自爆はどうなるのか?

 イヤ違う、もっとそもそもの問題と言える。

 俺の限界はいつ来るんだ? 俺自身の有効期限はあ(・)と(・)ど(・)れ(・)だ(・)け(・)残(・)さ(・)れ(・)て(・)る(・)?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ショウゴのスキルって結構チートですが頭使いますよね。ヴァイオレットちゃん加入でよかったです。タイムリミットの自爆は気になっていました。ショウゴはどうにか切り抜けられるのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。