29 - 予想済みの急な宣誓にて
「……本当にそうかぁ? 同じチームの人間だったんだ、いくら何でもその言い方は——
さすがに若干違うんじゃないか。
一度喋りかけた言葉をつがえなおして俺は放つ。
だが、ヴァイオレットはというと、
「少なくともここは間違えない。あのリーダーの性格考えたらね」
と、また間髪入れずに言葉を遮って自分の言葉を強調した。余程否定しておきたい事らしい。
「イヤなぁ、そのリーダーの性格がオレらには分かんねぇからなぁ……。何せ顔も名前も知らねぇんだ」
今度はスンドグレーンが溜め息をつきながら答える。
言われたヴァイオレットはきょとんとした顔だ。
「え、わ、分かんないまま地下のアジトにまで踏み込んできてたの? 刑事局ってあの人が思ってたよりは……あ、ごめん、何でもない」
……で、こうやって無自覚に突き刺してくる。
俺は単なるアドバイザーみたいなもんだから実質ノーダメージだけどな? 一応、念の為。
騎士メンツが一気に顔を曇らせる中、ここで俺はふと湧いた疑問を深掘りすることにした。まぁ、軽いジャブみたいな質問のつもりで。
「いま言った“あの人”っつーのは話に出てきてるリーダーか? それとも前の尋問のときに話題に出てた、俺らが自爆に立ち会ったあの男のほうか?」
「えっ、あっ、そ、そうね。ショーゴが後に言ったほうの人。リーダーのことは多分“あの人”なんて呼ばないから覚えといて」
「お? あぁ、分かった」
しかし当のヴァイオレットは面白いくらいに動揺しながら反応を返してくる。そりゃ何かあったとは思ってたが、さては……。
「あの人は、えーと……ビミョーに気にかけてくれた人って感じ。も、もちろん特に何も無かったから変な勘違いしないでよ?」
というこれまたベタな否定の言葉。ンな必死に念押しすんなメンドくせェ。
「……ただ、あたし以外は男しかいないワイルドバンチの中で、というか一〇代の人間すらいなかった中で、ただ一人だけあたしを子供扱いしないで気にかけてきた人なの。あたし長女だからよく分かんないけど、ちょっと鬱陶しい兄代わりって言えば良いのかな」
……ん?
どうもあの自爆男、思ったより雑に扱われてたらしい。
聞いた感じだと対人での態度は紳士的だったらしいが……何というか、ちょっと哀れみを感じた。礼儀正しく振る舞っていたのは好意の証だったのかも知れない。だがその相手への態度に気を遣うだけ遣って、その評価は“ちょっと鬱陶しい”なのか。報われねェな。
内心ではそんな風に自爆男へ手を合わせつつ、俺は切り出す。
「で、そいつの名前は?」
「名前はロラン・ル・スュール、フランス人。異能は発火能力で……あ、それでかな? あたしによく声かけてきてたのって。ほら、フランス男って女相手には見境ないとかいうし」
「そ、それはイギリス人の偏見とかもあんじゃねェの……? ……多分」
まぁフランス人の実情は知らないにしても、ヴァイオレットから見てある程度の親近感があったことは間違いないらしい。それこそさっきから“リーダーなる人物”とこいつを呼び分けることにだいぶ執心みたいだし。
しかし、ここで俺は失言してしまう。
「それで、そのロランってやつは限界が近づいて『人間爆弾』として利用された、と」
「ちょっと、クサカくん! そういう言い方はヴァイオレットちゃんにとっても……」
「待って……いいの。事実は事実だから、言い方を変えても中身は変わんないでしょ?」
頭で状況を整理するつもりで独り言を吐き出してしまっていた。即座に俺はイルヴァに諌められるが、対するヴァイオレットは冷静だ。正直、助かった気がしないでもない。
ヴァイオレットは続けて口を開く。
「ここまでの動きを追ってきててもわかると思うけど、“リーダー”って男は味方も平気で切り捨てるヤツ。周りのことも信用してなくて、だからあたしも異能どころか名前すら知らない」
「…………」
とにかく、ここまでの話を聞いてハッキリした。ヴァイオレットもまた、件の自爆男:ロランと同じく『人間爆弾』として俺たちに投げつけられたのは間違いない。対処されなければ刑事局庁舎内部での自爆を起こして壊滅的な被害を残していたハズである。
ただ、向こうの計算違いは刑事局に『俺たち』という爆弾処理班がいたこと。
つまり今この状況が盗賊団——ワイルドバンチ強盗団だっけ? にとって最悪の状況と言えるのもまた間違いなかった。こうやってどんな内部情報が漏らされるかも分からないんだからな。しかしそうなっても自分の情報は漏れないようになっているあたり、相手は相当喰えないヤツって部分も確定してるのは間違いない。
「ここまで言えばもう否定も出来ないでしょ? あたしは“棄てられた”」
「…………」
「………………」
「…………」
騎士たちは何も言わない。ってよりは、まだ成人もしていないだろう小娘に向かって頷くには残酷すぎた、とも言える。さすが現役の騎士、それくらいの良識はあるか。
しかしそれを気にする様子もなくヴァイオレットは粛々と宣言する。
「でもさ、そう悪いことばっかりじゃないよ? あたしの居場所はあそこじゃなくなった、じゃあやることは簡単。あたしだってワイルドバンチを裏切って刑事局につく!」
「な⁉︎」
そんな突然の宣言に、無言だったトルネルが思わず反応した。大方、境遇的にも保護して貰いたがるとでも思ってたんだろう。まぁ裏を返せば、俺含むそれ以外は全員ヴァイオレットが仲間になりたがってるって既に予想してたワケだが。
一方のトルネルはというとやや慌て気味だ。
「い、良いのか⁉︎ 君が望むなら寄宿制の学校だとか就労支援のための施設とかに推薦状を出すことだって——
「え、ちょっとそれ本気で言ってるー? あたしはせっかく“こっちの世界”であいつに掛けられた呪いから解放されたんだよ? そして一番役立てそうな任務が目の前にある、それであたしに引き下がって勉強してなさーい、って酷いと思うんだけど」
で、それに対するヴァイオレットはというとイタズラっ子っぽくニヤけながら答える。年齢的にも分かってるんだろう。大人が思い描く子供の理想像というモノがどれほど窮屈なのか、そしてそれがどんだけ脆い概念なのか。
「結局こっちの世界の成人って何歳からなのか知らないけどさ、昔なら十五歳で成人とかそんなんでしょ? ならあたしにも協力させて欲しい。異世界転移者の異能はこの世界の魔術師よりも強いんでしょー? あたしにだって役に立てる」
「いや、待て待て待て! ヴァイオレットちゃんがウチの戦闘員になりたいって……そりゃいくらなんでも……」
今度はスンドグレーンが声を上げる。こっちは出し抜けに驚かされたというより予測していた上で反対という感じらしい。……もはや父親かなんかか?
「あのさ、スンドグレーン。前々から思ってたんだがお前、ヴァイオレットに肩入れしすぎじゃないか?」
思い切って聞いてみる。場合によってはさすがに止めとかないとマズいかも知れないし。
「まぁ露骨すぎたか、そうだよなぁ……」
詰問されたスンドグレーンも観念したかのように言葉を絞り出す。……まさか本当に——
「ウチの姪っ子思い出すんだよ、歳はまだまだ嬢ちゃんよりちっちゃいけどな。オレには歳の離れた姉貴がいてなぁ、でその姉貴には十歳くらいの娘がいるんだわ。姪っ子が可愛いとかじゃないけどよ、自分の身近にそんな子がいてるとどうしても気にかけちまってな……」
……思ったよりも健全な理由だった。そりゃ三〇越えるとそういう視座になってくるのも当然っちゃ当然だが、俺はてっきり……。
「あ? おい前科モン、なんだそのなんとも言えん顔」
「え、あ、いや、気にしないでくれ」
「はぁ? 何だよそのリアクションは! よっぽどやましいこと考えてたとかか、あぁ⁉︎」
煮え切らない態度をとってしまった俺に対してスンドグレーンがいよいよキレる。マズい。
「待てって! ここは病院だから騒ぐのは——
「安心しろ騒ぎゃしねぇ、お前が無言で首絞められるだけだ」
「余計にタチが悪——
病室の一角でプロレス技そっくりの締め技が俺の首に仕掛けられかけて、
『おーおー、随分呑気に構えてんなぁ』
……聞き馴染みのない、甲高いが確かに男の声が突如響いた。
「なっ!」
「…………」
「侵入……⁉︎」
「くっそ!」
「誰っ?」
俺たち五人それぞれが反応する中でその声は続ける。自分こそ随分と呑気に、あるいは勝ち誇ったかのように。
『フツーさぁ、こういう話すんのって曲がりなりにも取調室とかそういう奥まったとこでやんじゃねーの? それをこんな部屋でって、油断も良いとこだろ……だからこうやって襲撃されんだよ』
「マズい、お前ら伏せ——
さっきから遮られまくってる俺が最後に叫んだのもかき消されて。
病室の内部諸共、あのはめ殺しの窓は外から吹き飛んだ。




