↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/31

24 - 突如湧き上がる疑念にて

「ショー、ゴ……ぃ、今まで何処いってたの?」



 俺の顔を視界に捉えてから、ヴァイオレットは開口一番にそんなことを聞いてきた。

 コイツの元知り合いとかいういつかの自爆した男の暴発直前と同じく、いくら精神がすり減らされても自爆するその時まで会話は可能らしい。



「お前を助けるために必要なものを取りに行ってた、気にしなくて良い」



 俺はなるべく短く、相手を気遣った感じの返答する。が、内心ヒヤヒヤだ。頭の中ではさっき思い出したばかりのあの自爆した男との会話をさらに詳細に思い起こそうとしている。

 まだ一週間と経っていないハズなのに、もう随分前のことのような気分だったが。



「私、のため……?」


「そうだ。だから“そ(・)う(・)不(・)安(・)に(・)感(・)じ(・)な(・)く(・)て(・)も(・)良(・)い(・)”、気を落ち着けるためにももう一回寝ろ」



 こんな感じで会話を成り立たせつつ命令を口にし、洗脳でもう一度ヴァイオレットを眠らせた。

 先ほどのスキルの効果から考えてまた効果があるか分からなかったが無事に効いてくれたらしい。ヴァイオレットはものの数秒ですうすうと歳相応な感じで再び小さく寝息を立て始める。どうせ貼った札のスキル無効化もすぐには効いてこないだろうし。

 しかし、安心できるような状態とはとても言えなかった。



「……安心するにはまだ早いぞ、もう眠らせるだけでは効果も薄いだろう」



 トルネルも低い声で俺と同じような考えをボソリと呟く。現にさっきも効果時間は短くなってたということは、言い換えれば『眠ってても症状が進行する』ってことに他ならない。

 ……遅らせるのがせいぜいか。



「恐らく、お前の報告書にあった男の今際とも合致している。つまりお前がこのまま小娘を放置することは出来ない、庁舎内で自爆させることは当然阻止せねばならないからな」



 騎士から続けて“ここまで来て逃げようと思うなよ”と念押しが飛んできた。

 腹は立つが指摘の通りではあって、先に思い出していた男との会話内容こそが問題点だ。つまり危険なのは、『幼児退行やら錯乱やらを起こすような状態の相手が、何かストレスを感じてパニックになったら爆発する』という今の状況そのもの。そりゃここからどうなるのかを実際に確かめワケじゃないが、俺からすればもはや九割確定済み・後は実際に確かめるだけって段階に近い。そんな確信がある。


 もし一般の魔法・魔術よりも強力なヴァイオレットの磁力(スキル)がここで暴発したら……そう考えながら眠る小娘を見下ろしている今の俺の顔は正直あまり想像したくない。



「“負の感情”が自爆のカギってんなら、この世界の神サマってやつは相当悪趣味らしいな」



 一方のスンドグレーンも、随分と気に食わなそうな表情でそう吐き捨てた。



「全くだ」



 俺だってうんざりしながらも同意しておく。……イヤまぁ、神サマ云々の部分に関しちゃ実際にこの目で確かめてるってのはそうなんだが。


 ともかく、トルネルが言った結論自体は俺ら全員がとっくに自力で行き着いていて、コイツの言葉は飽くまでそれの再確認に過ぎない。

 幼児退行男は自爆直前のあのとき、何かに対して明らかに怯(おび)えていた。ここで重要なのは“怯(おび)え始めた途端、男は急速に自爆していく状態になっていた”ということにある。あのときスンドグレーンが事件のことを問い詰めたことが幼児退行男を精神的に追い込んだとするなら、あそこで一気に自爆する段階まで到達したことへの説明もつくし。それに、これは今までの俺の推測『転移者の精神状態が引き金となって自爆が起こるのではないか』ってのとも一致していた。

 俺を含めたこの世界の転移者全員が抱える“スキルの自爆現象”の起きるメカニズムがこんなだったとは!


 ただ、こうなってくると気がかりになってくるのは例の“この世界の神サマ”ことあの男だ。メフィ何とかなんて名前がうろ覚えなのをいいことに今まで誤魔化してきたが、そろそろ本腰を入れて考えねばなるまい。


 ——けっきょくのところアイツは一体何者で、一体何故“向こう”からこっちの世界に、しかもわざわざ埒外(らちがい)な『スキル』をそれぞれに持たせた上で人を放(ほ)り込みまくってるのか?




「……クサカ、何か考え込んでるようだが大丈夫か? まさか今さら出来ないなんて言い出すことは——


「あーイヤ、ちょっと頭の整理してた。悪い」



 黙って考え込んでいたところに若干焦れてきたらしいトルネルから急かされ、俺は言葉を濁して誤魔化した。いや、何となくわかる。後半の憎まれ口みたいのは多分“ついうっかり”付け足しただけだ。一応本心から俺を心配しての発言だったんだろう。

 都合が良い受け取り方なのかもだが、目つきがちょっと力なく見えたし。……正直、ちょいキモい。

 そしてそんな上司兼(けん)友人には目もくれず、スンドグレーンはツッコんで来る。



「あ? 今ごろ整理って悠長だなオイ」


「頭の整理は重要だろ、何言ってんだ」



 俺はツッコミの勢いに負けないよう、なるべく“つっけんどん”というか嗜(たしな)めるような口調で返した。

 そりゃ言い訳にはなるんだが、考え込まなきゃならない部分がまだあったからだ。



「大体考えてもみろ。確かにヴァイオレットに洗脳すんの自体は現時点で何回も成功してっけどな、そんな今でも“再犯防止の呪い”ってのはまだまだ俺に効いてんだ。だからちゃんと状況とか考えとかないと、肝心なとこでスキル使えねェんだよ」


「……そういやそんなんもあったな、忘れてたわ」



 俺の解説でトルネルが気の抜けた言葉と共にようやく思い出したらしかった。こっちとしては死活問題なのに、俺からすりゃコイツの方が悠長なリアクションとしか言いようがない。



「ヘッ、他人事だと思いやがってよ……理由とかも頭の中で説明できないと“呪い”発動すんだぞ。ったく、無駄にこういうとこだけ術の精度高ェの腹立つわぁ……」


「……オイ、ちょっと待てクサカ!」



 そう思って言い返した俺に今度はトルネルが言い返してきた。



「ここに来て考え込むってそんなことをか⁉︎ そもそも洗脳というスキルをどう使えば転移者の自爆を止められるんだ、話がそもそも繋がっていないようにしか見えん‼︎ そもそも本当に実現する気あるんだろうな⁉︎ まさかお前、今の今まで口から出まかせだけで……‼︎」



 見ての通り突然である。

 先ほどまでの朗らかな顔から急に青ざめ、トルネルは数分前だか十数分前だかとはまるで違う怒りの籠もった目で俺を問い詰めてくる。何だ、こいつジェットコースターにでも乗ってるのか?

 どうもこの段階になってまでグズグズしている俺を見て、この騎士は気がついてしまったらしい。それはつまり『俺がその場凌ぎの言い訳で流れ流されここまで来ただけで、この場を切り抜ける手段なんて何も持っていないのではないか』という疑念に。

 まぁそう思うのは無理もない……が、俺は言い切る。



「それは無ェから安心しろ、プランはある」


「ならそれをここで説明してみろォ!」



 騎士団長という立場も忘れたようにトルネルは気色ばんだ。裏切られた気分か何かで相当頭に血が上っているらしい。まぁコイツの感情とかを考えればその怒りはごもっともなのだろうが……けど俺から見ればそれは取り越し苦労に過ぎないようにしか見えていないので、ぶっちゃけ早くやめてほしかったってのが本音だ。

 それに、である。



「……んぅ、ぐ……うるさい」



 我が洗脳の拘束力は今や相当下がっているらしく、ヴァイオレットはもはやトルネルの絶叫だけであっさり目を覚ました。叩き起こされたような、具合の悪そうな空気を醸し出す。

 そしてその眠そうな目でこちらを数秒眺めて、



「ッうるさい……うるさいうるさいうるさいっっっ‼︎‼︎‼︎ 何アンタら、さっきからガタガタガタガタっ! フザケんな‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」



 盛大に機嫌を損ねた。

 たぶんさっき見せた情緒不安定な状態が彼女の怒りに拍車をかけたんだろう、それこそ感情の導火線に火を付けたようなもので。

 一方で、怒りで我を忘れてるのは俺もまた同じたった。さっき言ってたことを思い出して欲しい、俺の中にプランはあったワケだ、それなのにコイツ……!



「ああ、ったく! 何してくれてんだトルネル、今ので余計に神経使って対処しないとダメんなったじゃねェかよ‼︎ 状況ややこしくすんな‼︎」


「何だと、俺だけのせいにするつもりか⁉︎ 元はと言えば——


「トルネル‼︎‼︎‼︎ 前科モンもだ‼︎‼︎‼︎ 何やってんだお前ら、真面目にやることやれ!」



 売り言葉に買い言葉で応じようとしたトルネルに対し、見かねたスンドグレーンの一喝が俺たちを襲った。あまりの声量に怒り状態だったヴァイオレットも驚いて目を丸くしてたくらいだ。

 まぁ、驚きだけでは完全に怒りを消火し切れなかったようだが……。

 ヴァイオレットは勢いを削がれたとでも言いたげに不機嫌な顔を作る。



「……グダグダだけど始めんぞ、ここでやらなきゃ文字通り俺らに明日なんて無い」



 何とか気を取り直して、ンで思わず溜め息をつきかけて頭(かぶり)を振ってまた誤魔化し、そんで俺は取り敢えず騎士二人にそう告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。