15 - 目が覚めた先の病室にて
「は? 土曜のときにまた襲撃があっただぁ⁉︎」
(聞くところによるとだが)庁舎の地下でヴァイオレットを尋問していた土曜日から三日後……ってことは今日は火曜日、つまり定期襲撃が来る月曜の翌日っつーことになるのか。しかし俺が寝ていた、ってよりかは気絶している間に事情は幾分か変わってきているらしかった。
俺は人生での最長連続睡眠記録からようやく目を覚まして、それから起き抜けに聞かされた話で素っ頓狂に叫んでいるところだ。ツンと鼻を突くアルコールの匂いが蚊みたいに頭の周りにまとわりつく感覚がする。
一応言っとくと、場所は俺が寝かされていた病室で、報告は俺が意識を取り戻したのを聞きつけて現場からわざわざ駆けつけたトルネルとスンドグレーンのコンビから。
とにかく、生死の淵から目を覚ましていきなりこれを聞かされる身にもなって欲しい。まぁ何にしても、“何で尋問中に救援があそこまで来なかったのか”の答えを全く意図しない形で教えられた形だ。
「しかも金曜のときの転移者自爆とほぼ同じ手口でだ。忌々しいが」
歯噛みでもするような渋い顔をしつつ、俺の叫びにトルネルは答えた。
「同じ手口っておい……これが最初ってワケでもないんだろ、対策も取れなかったってのかよ」
「予告も何もなしに、これまでと襲撃の周期を変えてきてる。今までの規則性を向こうから外して来やがった……まんまと乗せられたワケだ、オレらは」
傍らのスンドグレーンも相当苦々しい顔をしている。トルネルに関しちゃ知らないが、スンドグレーンが悔しそうな顔を見るのは二回目だ。要するに、騎士たちにとってはそんくらいの屈辱ともいえるような結果なんだろう。タダの協力者に過ぎない俺からすれば、イマイチそこまで入り込めないが。
でも、まぁ。
「……乗せられたも何も、予告とかだって無かったんだろ? そもそも特定の曜日の二日に襲撃タイミング合わせて来てんのも向こうの勝手だ。要するに、まぁその……勝ち負けじゃねェよ。向こうが一方的に決めただけなんだし」
「あ? おい何だ前科モン、その雑なフォ……イヤ、この反応は違うよな。スマン」
慣れてもいないフォローをしようとして、スンドグレーンからはいつもの調子で返……されなかった。それどころか謝られさえする。コイツがそれなりに気位は高いらしいと理解してきた矢先にこれではこちらとしても調子は狂うものの、要するにそれほど向こうは参っているらしかった。
「えーと、あー……イルヴァとかは今日も現場とかか?」
気を取り直してというか、どうしても沈んでいく場の空気感を払拭しようと俺は話題を変えることにする。質問に対してはトルネルが答えた。……割と爆弾発言付きで。
「ああ、あいつも現場の陣頭指揮を執る立場だからな。ここ三日は捜査本部と現場二ヶ所の三角形で行ったり来たりだ。それと、一応言っとくと彼女ならここには来ないぞ。というよりお前の入院生活は今日までだ」
「いや早くないか⁉︎ 目ぇ覚ましたばっかで、つかまだここが何処かすらも聞いてねェんだけど⁉︎」
「まず、ここは刑事局庁舎から区画四つ離れた位置にある医科大学病院だ。ここはそもそも王都だぞ、病院もそう離れてはいない」
「入院期間なんてこんなモンだろ? ってそうか、お前のいたほうの世界っつーのは魔法が無いんだった。すぐに治らないまま我慢するか体を刃物で切り刻まんと治療できないってのは不便なモンだな」
俺のリアクションに、目の前の二人はやれやれとでも言いたげに首を振る。
魔法なんてものがあって、更に“元いたほうの世界”から現代的な医術が伝わって来ているとなれば最早そんなことも可能になるらしい。俺からすればワケ分からん早さだが、実際に治ってるんだからそこは否定しようもない。
それに俺だって別にボーッとしてたとかじゃなくて、ベッドの上で目を覚ましたと同時に穴が塞がってること自体は手で触って確認してはいる。いるんだが、それにしたっておい……。
「退院も当然だろう、セムテシアの医療魔術をあまり舐めてくれるなよ? 我が国は医術でいえば屈指の先進国なんだ、それこそ浮浪者だったお前にとっては知らん話でも無理はないが。何せ異世界から“こちら”に渡ってきた転移者が最も多い。“こちら”と“あちら”双方の知識の最前線とでも言えば分かるか?」
「そりゃ、常識知らず相手にわざわざ何度もどーも」
俺も負けじとイヤミっぽく返してみた。
コイツがいま言った通り、この国は俺が何となく思い浮かべていた中世ヨーロッパ風なんてものとは若干違っている。もちろん、日本人にはイメージの及びづらい現実的な中世ヨーロッパとも別物。
まずイメージしやすいのは知識・文明のレベルそのものだ。
トルネルが言うようにこの世界は、ここよりもかなり文化レベルが進んだ世界から次々転移者が送り込まれてくる環境にある。とりわけセムテシアはといえば、転移者が盗賊団として徒党を組んで悪さを繰り返すくらいには転移者人口が多い国として近隣諸国からも有名らしかった。何でそんな偏ってるのかは知らないが。
まぁ何にせよ元々から魔法というものがあって、そこに現代的な科学技術・衛生観念・文化様式が混ざるワケだ。そんな国ともなれば、“向こうの世界”から伝わってきた『舶来』の知識が根付いてしまってこちらの文化レベルも中世レベルからは跳ね上がる。それも否応なく。
あと多分影響がデカいことといえば“こっちの世界は宗教がいうほど盛んじゃない”ってあたりか。
少なくとも今のところ、俺自身はそういうものをこっちで見たことがない。それとも単にこの国が信心に関心が薄いとか、そういうものを表に出さない文化みたいな話なのか? それこそ俺の元いた日本みたいな。
とりあえず俺みたいな一般的日本人がイメージするみたいなデカい教会が街中にあって……というような光景も見聞きしていなかった。こういうファンタジーな世界観では特にそういうのが絡んでくるというイメージだったが。
この辺りが“元いた世界”とは特に食い違う部分だと勝手に思ってる。
「で、お前らがこの病室に来たってことは俺に何か新しくやらせたいことでもあんのか」
ここで半ば諦めの境地で俺は尋ね、
「察しがいいじゃないか、まぁ今回はお前にやらすだけじゃなくて我々もついていかねばならんが」
トルネルも観念したみたいな溜め息をつきながら返してきた。相変わらずお互いに相手への毛嫌いが止まらない俺たちはこういうところでだけ気が合うらしい。
「お前らなぁ……仲良くなれとは言わんからせめて同僚程度の人間関係は整えてくれ、間に突っ込まれるこっちの立場も考えろよ」
そして次はスンドグレーンのほうが俺たちに続いて見るからにゲンナリしながら溜め息。相当腹に据えかねるものがあったらしく、もはやゲンナリしたどころか妙に老けたようにすら感じる。
「悪かった、悪かったって! まぁ今後に活かせるかは分からんけど……反省はしとくから、な?」
「それ明らかに後で忘れるヤツじゃねぇか、頼むぜホント……」
俺はすかさず軽く謝って、対するスンドグレーンは更に病気みたいな顔色になったような気がした。
「漫才はもういい! それよりもこれから三人でやることだ。これから刑事局の地下、あれから拘束されているあの転移者の少女への尋問を手伝ってもらう。前回よりも厳重に拘束してある上に磁力対策もレベルを上げてある、まぁ前回が急拵えすぎたというのもあるが」
「俺の役割は?」
「そう焦るなクサカ、お前にはスキルで彼女にまた洗脳を使って貰う。お前の洗脳が打ち破られた原因はまだ分からんが、何にせよ先ほど言ったように磁力に対策はしてある。まぁ、物理的にな。とにかく退院の手続きは既に完了しているからな、早く身支度を済ませろ」
「…………」
目ぇ覚まして早速かよ。俺は何度目か分からない溜め息を吐き出しかけて、それをやめて逆に息を吸い込んだ。
……気合い入れとかねェと。




