10 - 二度目の厳しい叱責にて
「で、今度は『更生の呪い』も無効化して、洗脳使って連中の一人を拘束して連れてきたってわけか?」
「……まぁ、報告書の通りだ」
で、地下水路から数時間後。刑事局庁舎まで戻ってきた俺はまたもやトルネルに詰められている。要するに今日二回目だ。
「というか『更生の呪い』が掛けられた者が万一スキルを再び使用すると刑事局に通報が行くことも知ってるよな? 堂々と再犯するとは見上げた根性じゃないか」
「だから言ってんだろ、そもそもこっちは生命の危機でそれを避けるために必死だったんだって。この場合は犯罪認定にならないから再犯じゃねェし」
不満特盛りイヤミたっぷりなトルネルの態度に俺も事情説明に余念がない。
まぁ当然、説明をせっつかれてこっちの喋りも若干言い訳がましくはなるが。
「つか前提部分から思い出してみろよ、あの呪いの発動条件は“頭の中に悪意がある時点で”スキルが使えなくなるって話だったろ? あん時は悪意が無かったからこそスキル発動したんだって、つーかスキルの悪用が罪なんであって単純な所持・行使自体は罪に問えねェって法律のハズだ。だからこっちも武装解除させた以外には何もやってないし、それはスンドグレーンが見てる。ちゃんと保護した上で刑事局まで連れてきてんだよ」
「そういう問題じゃない、理念の問題だ‼︎ 刑事局の人間が法に背いていては話にならんだろうが! 王都市民にどう顔向けするつもりだ⁉︎」
「おいおい融通効かねェな、そもそも俺は捜査協力してるだけの浮浪者だぞ。顔向けもクソもあるかっての。だいたいスキル使用の通報がそっち行ったってだけで違法性自体は無いんだろ? 何でこんな目くじら立てられてんだ。それに、こういう職業ってのは『事態を治めるための“清濁併せ飲むバランス”』ってのが大事なんじゃないのか? ンな尻の青いド新人みてェなことホザいてんじゃねェよ」
「誰が新人だ、歳下の分際で! たかが二十五、六の青二才が‼︎」
「差つってもたかだか数年だろ! 三十路越えのオッサンが‼︎」
とまぁ、こんな感じの応酬だった。もはやガキの口喧嘩じゃねェか、我ながらみっともない。
捜査本部の会議室は、現場から帰ってきた騎士たちやら新たに作られた書類やらでゴッタ返している。俺がさっき書いて、いまトルネルのヤツが手に持ってる報告書とかな。ただし、その中で大声を張り上げていたのは俺とトルネルの二人だけで、他は気マズそうに小声で最低限の会話をするのみ。
……そんなに声デカかっただろうか?
「……すまんトルネル、いきなりコイツが無茶しだすから止められなかった……転移者特有のスキルっぽい力で暴れる小娘の相手で手一杯だったのもあるし。ただ取り敢えず、現場が土壇場の土壇場で余裕が無かったってのだけは一応本当だ」
スンドグレーンのヤツまでもが相当言いづらそうにフォロー(にもギリなっていない感じの一言)を挟んでくる。にしてもコイツ、こんな顔できたのか……という謎の感慨を抱いた。ものの。
「あー、おいスンドグレーン? 俺がああしてなかったらどうなってたかも分かんなかったろーがよ……せめて助け舟くらい出してくれって……」
とにかく俺は形式上だけでもこういう態度をとっておく。
せめて情けなく振る舞っといた方が良さそうに思って。
「でもどうするのよ、この子のこと。刑事局に連れてきたってどうこうなるモンでもないでしょ。何? ここで拘束して逮捕者一号として公表でもするつもり? 連中相手の見せしめってことにでもして」
さらに捜査本部にまで戻ってきていたイルヴァも苦言を呈してきた。もっとも、こっちは最初からこういうこと言ってきそうな雰囲気だったから別段何とも思わないというのはそう。
こっちはこっちで部屋の真ん中でボーッとした顔で椅子に座らされている英語小娘の様子を見ている最中だ。トルネルの秘書もすぐ脇で無言のまま小娘の擦り傷にガーゼを貼ったりして手当てしている。ちなみに俺が顔の真正面に貼り付けた翻訳札はそのまんま触らないようにされていたので若干シュールな光景ではあった。なんだっけホラ、中国産のゾンビっぽい化け物みたいな。
……まぁ、当の小娘自身は微動だにせず上の空だったりするが。
小娘は予想していた通りの色素薄めな印象だ。金髪ではないにしても亜麻色に近い明るい茶髪で白色人種的な容姿、そして背は相当小さめ。東洋人に比べて老けるのが早い白人って考えてもかなり若いというか、どっちかというと幼い印象すら覚える。それを言ったら俺は白人の老け方についての専門家じゃないし、そもそも“向こう”と“こっち”の人間の老け方に差があるのかについても何も分かってないんだけどな。
……つーかここが異世界だってんなら、何で“元の世界”の西洋にここまで似る必要があるんだ? ここで脳裏にポツリと疑問が浮かぶ。そりゃ転移者から“向こう”の情報が伝わってるおかげで、本物の中世ヨーロッパともだいぶ違うことになってるってのは分かるが、これじゃまるで……。
「まぁ……なぁところでだ、前科モン。その小娘にかけたお前の洗脳ってまだ効いてるよな? いっそのこと、これを機に色々情報とか引き出せないか?」
ふと気でも取り直したみたいな口調でスンドグレーンは言った。少なくともトルネルよりはまだ話が通じるらしい。
けどひとまず、俺は形式上だけでも一応尋ねておく。
「上司が納得してるみたいには見えねェけどいいのかよ?」
「本人の前でこういうのもアレだが気にしなくて良い。これでも地位の上での副団長はオレなんだ、つまり問題あったら責任くらいオレが負えば良いだけだろ? オレが飛ばされても変わらず騎士団長はトルネルなんだし」
……コイツ、思ったより肝が据わった男だったようだ。ぶっちゃけトルネルとスンドグレーンの立場が逆だった方が俺にとっちゃ都合がよかったのに、とか思ってしまったってのはまぁ余計か。黙っとけば何も言われまい。
俺は雑念を振り払うみたいに体の向きを変えて小娘に向き直った。相変わらず翻訳札は張り付いたままだ。つまり、言葉はまだ伝わる。
「おい聞こえるか、質問だ。まずお前の名を教えてくれ。ついでに年齢と出身国……あぁ、お前が“元いた世界”での国名な? それから持ってるスキルとか、とにかくお前に関することを洗いざらい吐いてくれ」
小娘は一瞬驚いたように身を硬直させた。しかし宙に漂ったままの視線も動かさないまま、すぐにレジスターから吐き出されるレシートみたいに抑揚のない声を淡々と吐き出す。
「名前……名前はヴァイオレット、ヴァイオレット・キンケイド。歳は十六、英国のマンチェスター出身でスクラップ屋の娘。職業が職業だから、イジメに遭ったこともある。英国って身分階級厳しいから。スキルは磁力操作で、つまり磁力を使って金属を操ったりとかそういう能力。“あの部屋の男”には——
「待て、“あの部屋の男”? 急に誰だよそりゃ、ちゃんと説明してくれ」
「そ、それは…………」
唐突な謎の語句にスンドグレーンからツッコミが入る。
ただ、『謎』と言いはしたものの俺にはそれが不思議と誰のことか直感的に分かっていた。俺も会ったことのあるあの尖った耳にクソ派手スーツを着た男……メフィ何とかだ。まぁ名前はうろ覚えだけど。
「いや、俺には誰のことか分かるが今は関係ないヤツだ。そこの説明入れたら余計ややこしくなっちまうしな。後で俺が説明するから一旦スルーしてくれ。それにコイツの顔見てみろ、明らかに強張ってて怯えてる。つーか俺だってあんま思い出したくない人間なんだ、そこは触れないでやってくれ」
「あぁ? ま、まぁ良いが……」
話の腰を折ったスンドグレーンは俺の言葉を聞いて、ついでにイルヴァからも睨まれて口を閉じた。質問もそろそろラストスパートだ、俺は小娘……ヴァイオレットに再び向き直る。
「おし、じゃあ質問の続きだ、つってもあの男のことは別に良い。むしろこっからが質問の本番だ。お前のいた異世界転移者の盗賊団について聞かせてくれ。連中の総員数は? 構成は? そして何より、リーダーはどんなヤツだ? 正確じゃなくて良い、雰囲気だけでも重要な鍵になる。教えてくれ」
「待ってくれ。今のを見て、一つ思いついた」
今度はトルネルが俺の尋問へ割って入るように声を上げる。……“思いついた”?
「今の質問は確かに有用だ、しかしこれから状況が変わって盗賊団の内部にも変化が生じるかもしれん。新たな助っ人・兵器の導入とか、今回とは逆にこちらの内部情報が漏れたりとかな。……そこでだ」
「ちょっとトルネル!」
イルヴァが何かを察したように鋭く叱責の声を上げた。というか、ここまで話題が分かりやすければいくら俺だってトルネルの意図は手に取るように分かる。つまり……。
「その少女を我々の手勢として使うことが出来れば、我々は継続的に盗賊団の内部情報を盗み取ることができるワケだ。クサカがさっき『清濁併せ飲む度量』が必要とか言ったな? ならばその言葉に従わせてもらう。どうせこの場で監獄に放り込むことにしてたとしても一度しか情報は得られん、なら監獄行きの前に有効利用すれば良い。……要するに、この少女をスパイとして訓練しろ」




