第27話 ヤサグレ勇者は青ヘビと旅をする。
「主様、魔女キライです?」
「そーいう話じゃねーんだよ」
木々の間を走る。
襲ってくる魔物は片っ端から倒して解体だ。肉も素材も欲しい。
解体するときだけ立ち止まり、あとはひたすら駆ける。距離を稼いでおきたい。
俺の首に尾を巻き付けている青ヘビが、わざとらしいため息を吐いた。
「やっぱり赤髪……」
「ちげーわ」
背後から振り下ろされた斧。
身体を反らして回避する。
ついでに剣も振る。
ゴブリンの上位種であるオークの身体が横にずれた。
(オークは金になんねー)
肉も食えないから、解体は必要ない。
トン、と浅く着地した俺は、また走り出す。
「大丈夫ですよ」
「何が」
深層から中腹、中腹から浅瀬へと。
また大鷲が探し回っていないかと、時々空を確認しながら進む。
魔女を帰してから一気に駆け抜けてきたおかげで、カバンの中身がずいぶんと潤った。上手く捌けばかなりの金額になるだろう。買い叩かれないように小出しにするのがコツだ。素材買い取り先のギルドは慈善団体じゃない。
「主様、話したらモテないですよ」
「おまえ、俺がキライなの?」
この青ヘビはただ単に俺を貶したいだけだ。けっとヤサグレて、追いかけて来る蟻型魔物の大群に火を放つ。
本気を出した俺はわりと速い。
どんどんと過ぎていく景色を見ながら、速度に慣れた青ヘビが口をパカリと開いた。
「キンキラ~イケメン~のぉ、持ち腐れ~ぇ~」
「うるせーよ」
先に道が見えた。
大きく踏み込んで一息に抜ける。
「はらへり~、はらへり~」
ザッと土が鳴った。
抜いていた剣を鞘に納める。
青ヘビからはいつもの催促だ。
黒髪を背に払ってから、カバンの中からクコの実を取り出す。魔女が青ヘビに貢いだものだ。
「オヤツ!」
「汁飛ばすな」
すかさずかぶりついた青ヘビの顔を水で流し、自分が出した水で肩まで濡れた。まだ暖かい季節だ。放っておけばそのうち乾くだろう。
右に、左。
森に沿った街道に出たことは間違いないが、日が暮れてきたせいか人影は見当たらない。ついでに街らしきものも案内の立札もなく、ただ砂利混じりの道がどこまでも続いている。完全にハズレだ。
「今日は野宿だなー」
「テントで寝るです?」
「おう。寝袋も出すぞ」
「寝袋」
ウキウキと揺れる青ヘビの頭を撫でた。
ブーツを前へ踏み出す。
「次はどこ行くです?」
「さぁな。近くに街か村でもありゃいいけどよ。しばらく歩いて見つかんなかったら、また森ん中突っ走んぞー」
「はいです」
返事だけはいい青ヘビの口元へ、二つ目の実を寄せる。食いついた。
橙から藍色へ、下から染まっていく空を見上げる。
俺の脳裏に焼き付いているのは、抜けるような青空。
トゥーリアの腕に包まれて見た、あの青だ。
あの日あの時、俺の世界は確かに終わった。
(でも、まぁ……)
頬に擦り寄ってくるアクティの頭を指の腹で撫でる。心地良さそうに細められた緑色の瞳と目が合った俺は、喉を鳴らした。
「のんびり歩くのも悪くねーか」
「お肉狩り頑張るですよ、主様」
「散々狩ったろ」
呆れ、鼻っ面を指で押し、笑い合う。
俺を殺す次の勇者を探す旅だ。
この青ヘビが成体になるくらいまで持てばいい。
それだけで、いい。




