表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪馬台国叙事詩―神代建国譚―  作者: 月見


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/86

四章 出雲王国 四話 出雲騒乱

 春の海は穏やかだった。

 筑紫の港を離れた一隻の船は、白い帆を膨らませながら北東へ進んでいる。船倉には干した魚や米俵、水甕のほか、勾玉や丹、絹布、そして酒樽まで積み込まれていた。出雲への旅がいつ終わるかは分からない。そのため那岐は、出航前から必要になりそうな物をできる限り集めていたのである。

 船倉を見回っていた那岐は積荷を一つひとつ確認し、満足そうに頷いた。


「うん、これだけあればしばらくは困らないかな」


 そう呟いて甲板へ戻ると、船首には腕を組んだ須佐之男が立っていた。海風に長い髪を揺らしながら、苦々しい顔で水平線を睨んでいる。


「どうしたの?」


 那岐が声を掛けると、須佐之男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「追放とはな」


 その一言に、那岐は思わず苦笑した。


「日巫女も立場があるからね。末盧国の王子を死なせてしまった以上、何らかの処分を示さないと周りが納得しない。大倭壱国は多くの国々と手を取り合って成り立っているんだから、表向きだけでも筋を通す必要があったんだよ」


「俺はわざとじゃない。向こうが喧嘩を売ってきたんだし、本気を出したら危ないとも言った。それなのに聞かなかったのは向こうだ」


 悔しさを押し殺すような声だった。

 那岐はしばらく海を眺めていたが、やがて穏やかな口調で答える。


「そうだね。須佐之男が最初から争いを望んでいたわけじゃないことは、私も分かっているよ。でもね、末盧国の人たちから見れば、大切な王子が死んだという事実だけが残る。どちらが悪かったかを冷静に考えられる人ばかりじゃないんだ」


 須佐之男は黙り込んだ。脳裏には、息子の亡骸を抱きしめながら立ち尽くしていた末盧王の姿が浮かぶ。


「……俺は、本当に手加減したんだ。少し押しただけだった」

「うん。でも、それが問題なんだろうね。須佐之男の少しは、普通の人の少しじゃないから。牛くらいなら転んでいたんじゃないかな」

「牛なら転ぶ」

「それなら十分強いと思うよ」


 須佐之男は不満そうに顔をしかめたが、那岐は相変わらず笑顔のままだった。

「自分の力を正しく知ることも大事なんだ。強い人ほど加減を覚えないといけない。力が大きいほど、何気ない行動が人を傷つけることもあるからね」

 そう言って那岐は、大きく成長した末息子の頭を優しく撫でた。


「反省しているなら、それでいい。失敗をしない人なんていないんだから」

「父上は怒らないのか」

「怒ったよ」

「そうは見えん」

「末盧国を出るまで縄で縛ったでしょう」

「あれは形だけだ」

「本気で怒ったら三日は説教するよ」


 その言葉に、須佐之男の顔が引きつる。


「それは勘弁してくれ」

「なら次から気を付けようね」


 那岐は柔らかく微笑みながら続けた。


「お前は強い。でも強いだけじゃ駄目なんだ。人の上に立つなら、その力で何を守るのかを考えなきゃいけない」


 須佐之男は返事をせず、しばらく海を見つめていた。春の陽光を受けた波は眩しくきらめき、その光景を眺めながら、ようやく口を開く。


「……次は気を付ける」

「うん」

「たぶん」


 那岐は思わず吹き出した。


「そこは言い切ろうよ」


 須佐之男もつられるように笑った。末盧国を出てから初めて、その表情からわずかに険しさが消え、張り詰めていた肩の力も少しだけ抜けていた。


 それから数日間、船は穏やかな海を東へ進み続けた。空はどこまでも晴れ渡り、追い風を受けた帆は大きく膨らんでいる。

 船首に立つ須佐之男は水平線へ視線を向けたまま、大きく伸びをした。


「思ったより退屈だな」

「何事もなく着くのが一番なんだけどね」


 那岐が苦笑しながら答えた、その時だった。


「船影です」


 水夫の声が響き、全員の視線が海上へ向く。指差された先には、小さな黒い点が一つ浮かんでいた。最初は漁船ほどの大きさにしか見えなかったが、こちらへ向かって進むにつれて徐々に輪郭がはっきりしていく。

 那岐は目を細めた。


「……妙だね」

「何がだ?」

「漁船なら魚を追うはずだよ。こちらへ向かってくる理由がない」


 そう話している間にも船は急速に接近し、その姿がはっきり見える距離まで迫っていた。細長い船体には余計な荷がなく、帆の扱いも巧みで、波を切る動きに無駄がない。だが甲板に並ぶ男たちの手には、網ではなく槍や刀、弓が握られていた。


 那岐の表情が険しくなる。


「須佐之男」

「ああ」


 二人はほぼ同時に相手の正体を悟った。


「海賊だ」


 那岐が静かに告げた直後、相手の船から鬨の声が上がった。

 海賊船は帆をいっぱいに広げ、獲物へ飛びかかる獣のような勢いで迫ってくる。やがて船体が横付けされると、次々に鉤縄が投げ込まれ、船縁へ絡みついた。荒々しい怒号が海上に響き渡り、刀や槍で武装した男たちが甲板へ雪崩れ込んでくる。


「荷を置いて死にたくなければ従え!」

「抵抗すれば皆殺しだ!」


 だが、須佐之男は慌てるどころか、面倒そうに立ち上がっただけだった。金棒を肩へ担ぎながら一歩前へ出ると、海賊たちを見回して低い声で告げる。


「今なら見逃してやる」


 一瞬だけ甲板に沈黙が落ちた。しかし次の瞬間、海賊たちは腹を抱えるように笑い出す。


「聞いたか!」

「一人で俺たちを相手にするつもりだぞ!」

「図体だけの馬鹿じゃねえか!」


 嘲笑が広がる中、須佐之男は呆れたように肩をすくめた。


「そうか」


 次の瞬間だった。

 轟音とともに須佐之男の金棒が唸りを上げて横薙ぎに振り抜かれる。先頭にいた海賊たちはまとめて吹き飛ばされ、人間の身体が宙を舞ったかと思うと、悲鳴を上げる暇すらなく海へ叩き落とされた。さらに金棒が甲板を掠めただけで厚い船板は砕け散り、飛び散った木片が雨のように周囲へ降り注ぐ。

 その光景を目の当たりにした海賊たちの笑みは一瞬で消え失せた。


挿絵(By みてみん)


「ば、化け物……!」


 須佐之男は何も答えず、獣が獲物へ迫るような重々しい足取りで前へ進む。二撃目が船縁を粉砕すると、もはや海賊たちに戦意は残っていなかった。


「逃げろ!」

「死ぬぞ!」

「人間じゃねえ!」


 誰かの叫びを合図にしたかのように、海賊たちは我先に海賊船へ飛び移り始めた。先ほどまでの威勢は跡形もなく消え去り、仲間を押しのけ、転び、怒鳴り合いながら、生き延びるためだけに逃げ戻っていく。


 須佐之男は敵船へ飛び移ろうとした。賊の正体や出雲の現状を知るためには、生きた証人を確保する必要があったからだ。


 しかし海賊たちも命懸けだった。乗り込んできた仲間を見捨てるように鉤縄を切り捨てると、帆を一気に張り、風と潮流を巧みに利用して船を走らせる。接舷していた船体は軋みを上げながら離れ、海賊船は波を蹴るように加速していった。


「逃がすな!」


 須佐之男の怒声に、水夫たちは慌てて帆を張り直し、船首を海賊船へ向けた。那岐も追撃を命じる。だが海賊船の動きは見事だった。風向きを読み、潮の流れに乗り、岩礁の影を縫うように進んでいく。その操船には無駄がなく、海で生きる者たちの経験がはっきりと表れていた。


 こちらも必死に追った。だが距離は縮まらない。むしろ少しずつ引き離されていく。

 やがて海賊船は岩礁が点在する危険な海域へ迷いなく進路を変えた。追う側の船は座礁を避けるため速度を落とさざるを得ず、そのわずかな迷いが決定的な差となった。海賊船は白い波しぶきを残しながら岩場の向こうへ滑り込み、ほどなく船影は見えなくなった。


「くそっ!」


 須佐之男が悔しそうに船縁を拳で叩く。


「あと少しだったのに……!」


 那岐も小さく息を吐いた。


「私たちに落ち度はないよ。向こうは海で生きている人たちだからね。私たちは戦いなら強いけれど、船の扱いは専門家じゃない。専門分野では敵わないこともあるよ」

「力で捕まえられない相手もいるってことか」

「そういうことだね。だから知恵も必要になる」


 那岐が微笑むと、須佐之男はしばらく黙り込んだあと、ようやく諦めたように金棒を肩へ担いだ。


「次に会ったら逃がさねえ」

「うん。その時は捕虜を一人くらい残してくれると助かるかな」

「善処する」


 即答だったが、その返事にまったく信用が置けないことは那岐にも分かっていた。




 翌日、船は出雲の沿岸へ辿り着いた。


 眼前に広がる湾は天然の良港と呼ぶに相応しい景観だった。穏やかな海が大きく入り込み、その周囲には深い森と肥沃そうな平野が広がっている。土地そのものは豊かで、本来であれば数多くの船が行き交い、交易の声と人々の活気で満ちていても不思議ではない場所だった。

 しかし、実際に二人が目にした光景は、その想像とは大きく異なっていた。


「……静かだな」


 船首に立つ須佐之男が眉をひそめる。

 港には船こそ並んでいたものの、その数は少なく、多くは岸へ引き上げられたまま放置されていた。破れた帆は潮風に揺れ、船体には補修されていない傷跡が生々しく残っている。桟橋を見渡しても荷運びの掛け声や魚を売る声は聞こえず、ただ潮騒だけが寂しく響いていた。


 二人は船を降り、そのまま港町へ足を踏み入れる。

 家々は並んでいるものの、壁は傷み、屋根の一部が崩れたまま放置された建物も目についた。道端には雑草が伸び、人の往来も少ない。すれ違う人々もどこか沈んだ表情を浮かべ、旅人である二人に視線を向けても、何かを避けるように足早に通り過ぎていった。

 那岐はゆっくりと周囲を見回し、小さく呟いた。


「おかしいね」

「何がだ」

「出雲は西の海でも有数の大国だと聞いていたんだ。韓との交易も盛んで、鉄も集まる豊かな土地だとね。でも、この様子は違う。活気がないどころか、人々が何かに怯えながら暮らしているように見える」


 須佐之男も改めて周囲を見渡した。

 確かに貧しいだけでは説明がつかない。人々の顔には飢えや疲れだけではなく、明日を信じられない者たち特有の諦めと警戒が滲んでいた。


「何かが起きているな」

「うん。しかも最近じゃない。かなり長い間続いているはずだよ」


 海賊の噂だけで、この荒廃を説明することはできなかった。出雲王国ではもっと根深く、もっと大きな何かが起きている。


 二人はまず情報を集めようと町の奥へ向かったが、人々は口を閉ざし、誰も詳しい話をしようとはしなかった。仕方なく二人は、内陸へ続く街道を進むことにした。


 だが、街道の様子も異様だった。

 かつて多くの人や荷車が行き交っていたであろう道には雑草が伸び、ところどころに放棄された荷車や壊れた木箱が朽ち果てたまま転がっている。人の気配は薄く、聞こえるのは風が草を揺らす音ばかりだった。

 那岐は道端の壊れた木箱を見つめながら足を止める。


「街道がここまで荒れるのは普通じゃないね」

「戦でもあったのか?」

「戦なら理由は分かりやすいんだけれど、これは少し違う気がする。人々が安心して移動できなくなっているのかもしれない」


 那岐がそう呟いた時だった。

 前方の藪が大きく揺れ、怒声とともに十数人の男たちが飛び出してきた。刀や槍を手にした男たちは二人を取り囲み、獲物を見つけた獣のような目を向ける。服装も武具も統一されていないが、その顔つきだけは同じだった。


「旅人か」

「荷を持っているぞ」

「おい、あっちを見ろ。女がいる」


 その言葉に、那岐はわずかに目を瞬かせた。


「……私のことかな」


 賊たちの視線は、明らかに那岐へ向けられていた。細い輪郭、柔らかな物腰、腰まで流れる長い黒髪。その姿を見て、彼らは完全に女だと思い込んだらしい。


「上玉じゃねえか」

「売れば高くつくぞ」

「いや、頭目への土産にした方がいい」


 下卑た笑い声が山道に広がる。那岐は困ったように眉尻を下げた。


「私は男なんだけどね」

「嘘をつけ。そんな顔の男がいるか」

「……困ったね」


 那岐が小さく息を吐いても、賊たちは聞く耳を持たなかった。むしろ怯えを見せない様子が気に障ったのか、頭らしき男が一歩前へ出て刀の切っ先を向ける。


「男の方は殺せ。女は傷をつけるな。連れて帰る」


 その言葉が落ちた瞬間、須佐之男の気配が変わった。

 春の山道を吹き抜けていた風が、急に重くなる。須佐之男はゆっくりと金棒を肩から下ろし、賊たちを見回した。


「今、誰を連れて帰ると言った」


 低い声だった。怒鳴ったわけではない。だが、その声を聞いた那岐は、これはまずいと思った。


「須佐之男、待って。できれば生け捕りにしてほしいんだ。話を聞きたいから」

「父上をさらうと言った連中からか」

「うん。だからこそ、何をしているのか聞く必要があるんだよ」

「面倒だな」

「面倒でも頑張って」


 那岐は穏やかに言ったが、須佐之男の目はすでに賊から離れていなかった。賊たちはその会話の意味を理解できず、むしろ二人を嘲るように笑い声を上げる。


「父上だとよ」

「女みたいな父親だな」

「親子そろって頭がおかしいんじゃねえか」


 その瞬間、須佐之男の額に青筋が浮かんだ。


「もう一度言ってみろ」


 賊の一人が調子に乗って槍を構えた。


「うるせえ。でかいだけの馬鹿が――」


 言葉は最後まで続かなかった。

 須佐之男の金棒が唸りを上げ、槍を構えていた男の身体が宙を舞う。人間離れした勢いで吹き飛ばされた男は、背後の大木へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

 賊たちの笑い声が消える。


「な……」

「何だ、今の……」


 須佐之男は金棒を担ぎ直し、ゆっくりと前へ出た。


「父上に手を出そうとしたんだ。覚悟はできてるんだろうな」


 賊たちはようやく、自分たちが襲う相手を間違えたのだと悟った。しかし、遅かった。

 金棒が再び振るわれる。二人まとめて吹き飛び、続く横薙ぎの一撃では三人が木の葉のように宙を舞った。悲鳴と骨の砕ける音が山中に響く。


「化け物だ!」

「逃げろ!」


 恐怖に駆られた賊たちは、蜘蛛の子を散らすように山道を逃げ始めた。しかし須佐之男は獲物を追う獣のような笑みを浮かべながら、その後を悠々と追いかけていく。


「おいおい、人をさらおうとしておいて逃げるのか」


 金棒が振るわれるたびに鈍い衝撃音が響き、賊たちは次々と地面を転がった。逃げ道を探して右へ左へと散るものの、そのすべてに須佐之男が追いつき、戦いは数分も経たないうちに終わりを迎えた。


 やがて山道に静寂が戻った。

 立っているのは須佐之男だけだった。


 金棒を肩へ担ぎ直した須佐之男は満足そうに振り返り、どこか褒めてもらいたそうな顔で胸を張る。


「終わったぞ。これで文句ないだろ?」


 那岐は倒れ伏した賊たちを順番に見回した。辺りには呻き声すら聞こえず、動く者は一人もいない。その様子を確認すると、静かに目を閉じて額へ手を当てた。


「須佐之男、生け捕りはどうしたのかな」

「父上をさらおうとした」

「うん、それは分かっているよ」

「女と間違えた」

「それも分かっているよ」

「父上を侮辱した」

「それも聞こえていたよ。でもね、できれば一人くらい残してくれると嬉しかったんだけど」


 那岐が困ったように笑うと、須佐之男は気まずそうに頭を掻きながら視線を逸らした。


「……次は気を付ける」

「うん。できれば次は最初の一人を殴る前に思い出してくれると助かるかな」

「難しい注文だな」


 真顔で答える須佐之男に、那岐は思わず吹き出した。

 結局、賊から情報を得ることはできず、二人はそのまま街道を進むしかなかった。


 歩みを進めるにつれ、出雲の荒廃はさらに明らかになっていった。街道沿いには焼け落ちた家屋が点在し、村を囲んでいたはずの柵は崩れたまま放置されていた。田畑も荒れ果てている。本来なら人々が鍬を振るい、青々とした苗が風に揺れている季節のはずだったが、そこに広がっていたのは雑草だけだった。


 たまに見かける住民たちも怯えたような目で二人を見つめると、足早に家の中へ消えていく。子供を抱えた女たちは戸口の陰に隠れ、男たちは手にした武器を決して離そうとしなかった。

 村を離れた後、那岐は荒れた畑へ視線を向けながら呟いた。


「これは想像以上だね」

「何がだ?」

「村の人たちの目だよ。あれは一度や二度賊に襲われた人の顔じゃない。いつ襲われてもおかしくない状況が、長く続いているんだろうね」


 須佐之男は振り返り、遠ざかる村を見つめた。家々の陰からは、まだ何人もの村人がこちらを窺っている。


「そこまで分かるのか」

「長く生きているとね。ああいう顔は何度も見てきたよ。守ってくれる者を失った土地の顔だ」


 さらに半日ほど進むと、街道脇に焼け焦げた荷車が転がっていた。積み荷は根こそぎ奪われ、人骨らしきものまで周囲に散らばっている。

 須佐之男は顔をしかめた。


「出雲は大国じゃなかったのか。これじゃまるで戦乱の最中だ」

「私もそう聞いていたんだけれどね」


 那岐は荷車を見つめながら小さく息を吐いた。


「これほど荒れているなら、単なる海賊被害では説明がつかない。王が無能なのか、力が及ばないのか、それとも別の誰かが実権を握っているのか。今の情報だけでは判断できない。でも一つだけ確かなことがある」


 そこで言葉を切り、遠くの山並みに目を向けた。


「出雲では大きな異変が起きている。それも一年や二年ではなく、もっと長い時間をかけて国そのものが少しずつ蝕まれているんだろうね」


 須佐之男は黙り込んだ。


 末盧国での騒動以来、初めて自分から出雲へ来た意味を考えていた。単なる追放先だと思っていた土地に、今は見過ごせない現実が広がっている。


 海でも陸でも、須佐之男は賊を退けることができた。だが、肝心の情報は何一つ得られていない。倒れ伏した賊たちの姿を思い返しながら、那岐はこの地では武だけでなく慎重さも必要になるだろうと感じていた。


 力だけでは解決できない問題が、出雲には確かに存在している。

 吹き抜ける風の中、那岐は遠く連なる山々を見つめた。その向こうにある出雲王国の中心で、一体何が起きているのか。


 二人は警戒を強めながら、さらに内陸へと歩みを進めるのだった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。『邪馬台国叙事詩―神代建国譚―』は、日本神話や古代史に残された伝承をもとに、「神とは何だったのか」「国はどのように生まれたのか」という問いを、自分なりの解釈で物語として描いている作品です。


 歴史として語られる出来事と、神話として語り継がれる伝承。その境界には、今では失われてしまった多くの人々の営みや想いがあったのではないか。そんな想像を膨らませながら執筆しています。


 本作には史実や伝承を参考にした部分もありますが、多くの独自解釈や創作を含んでいます。一つの物語として楽しんでいただければ幸いです。


 少しでも面白いと感じていただけましたら、感想や評価、ブックマークなどで応援していただけると励みになります。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ