↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠者の系譜《ハーミッツ・ライン》~~師匠を亡くした獣人医師は、それでも巡回医療の旅を続けます~~  作者: shin


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/88

満月の夜に⑦

 突然、僕は真上へとほっぽり出された。


 おもちゃがばねで、弾かれたみたいだった。とんでもない速さで僕自身が跳ね上げられる。

 しかもその勢いが止まらない。ほとんど一瞬で木々の樹冠を飛び超えた。驚愕で頭が真っ白なまま、ぐるぐると視界が回り、何回も地面と夜空が入れ替わる。その視界の隅に一瞬、僕を見上げる先生の姿が見えた。その腕の中に、くたりと力を失くした子供が受け止められている…。


 …?!


 …あれは、僕だ!

 …何がどうなってる?!


 でもすぐにその二人の姿は林の木々に掻き消された。僕は天に向かって、まっさかさまに落ちていく!

体を支えようにも、手も足も何もとっかかりを見つけらず、ぐるぐると回る。自分でも意味不明のわめき声を上げながら、ぐるぐる、ぐるぐると視界が回る。地面がどんどん遠くなる。その代わり、月明かりに照らされた柔らかい雲が近づいてくる。大混乱の中で、僕は何度も悲鳴を上げる。地平線が現れては消え、現れては消えて、空と地表が交互に入れ替わる。低い雲の群れを一気に突き抜けた。目の端を通り抜けた街の姿は、もう手のひらに収まりそうなくらい小さい。月明かりに照らされた雲海は、はっと息を呑むほど美しかった。


 “あ…”


 冷や水を飲んだように、すっと体の中を何かが通り抜けた。

 途端に余裕が出てきた。

 僕の目は悪い方じゃない。先生に鍛えられてる。こんなぐるぐる回ってても、その気になれば、周りの風景をちゃんと把握することができる。



 満月に照らされた雲海は、地表とは全く別の、静かな世界だった。



 深い青い色の濃淡だけで、柔らかい雲に波間が出来ている。

 雲の波頭。文字通りの雲の海。

 真下の波の合間には、町の灯がか細く、小さい蜘蛛の巣のような模様を作っている。

 町に比べるとこの海は圧倒的に雄大で、いつでもその灯を簡単に呑みこんでしまいそうだった。

 でもそれにも負けず、町の灯は小さくても、しっかりと輝いている。


 淡い灯の蜘蛛の巣が浮かぶ、群青と青藍と紺、青色だけでできた、不思議な深い海。


 その蒼い海を見おろして、僕はくるくると回りながら、中天へと落下していく…。

 くるくる、くるくると、空に向かって、落ちていく…。

 まんまるな月へと、引き寄せられてるみたいだ。

 でも、心はずっと、眼下の光景に奪われている。



 空がとても広い。

 月に照らされた雲が、ゆっくりと流れている。

 夜の表情を見せる彼らは、恥らいつつも、すこしお月様に顔を向けて、挨拶しているみたいだ。

 実際は、すごく速く動いていると思うのに、その大きさから、もうゆったりとした動きにしか見えない。

 ほんものの海の波よりも緩やかに、吹きすさぶ風をものともせず、全てを包み込むように、ゆっくりと流れていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと…、藍色の海を、流れていく…。


 街の灯が、もう豆粒よりも小さい。それが藍色の海に、波間に、呑まれていく…。


 なぜだか、いつまでも目が離せなかった。




 どれくらい上昇したんだろう?

 地表の果ての、山々の起伏が平たくなり、はるか向こうの地面が…平らじゃない…、丸っこく見える。

天と地の境目、水平線と地平線。もう、そのどちらかも分からない。

 大気に包まれたそれらが、その全部が、月の光を受けてぼんやりと輝いていた。

 その向こうに、月明かりに負けない星々が、輝いている…。

 …きれいだった。



 唐突に、視界の端に何かが閃いた。

 疑問に思い、確かめようとする間にその光は大きくなる。

 すさまじい勢いで、流れ星のようなものが、こちらに直進してきた!

 真っ白い閃光が迫ってくる!避けようもない。目の前で光芒が膨れ上がった!まぶしい!目が焼かれる!反射的に腕で目をかばった。ぶつかる!と思った矢先、僕は固く目を閉じ、体を縮こまらせて衝撃に備えていた。


 何もかもが真っ白に塗りつぶされ、全てが白い闇に包まれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。