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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
地に堕ちた鳥。
20/20

3no.3


「ん…ゔっ、…」



浮上してきた月の意識に、またぞわぞわと内側から擽られる感覚が襲う。



起きたいのに起きれない。

自分の意識を他者に押さえつけられてる状況に冷や汗が溢れ出る。






やっと見つけたーーーーどこに隠れていたのだーー……見るがいいーー残酷をーーーー……こちらに来い、こちらに来いーーシノムンよーー我が元に下ればーー命は救われるーーーー。




バケツいっぱいの血を浴びる図が頭をよぎる。





「イヤッ!!!!っ…はぁはぁ」



バチンと術を跳ね返す様に身の回りに氷のベールを纏うと声は止んだ。




はらり、



「なにッ!?」


はらり、はらりと舞って落ちる一枚の紙を手に取る。




「ッ!!!なんてことをッ!!!」



見るも無残なミチルの姿が映し出された紙は魔法でできているのか動き出し、ミチルの小さな体は床に投げ捨てられ流ように動く。



「ミチルちゃん!!!ウォ、ウォルターさん!ウォルターさんッッ!!!!!!!」



金切り声で取り乱す月の周りを、血糊のついた花びらが大量に落ちる。



『おねえちゃんにお花のかんむりさんプレゼントする!』



「ーーーー!!!!!!!!!!」




フラッシュバックしたミチルの笑顔に、月の精神は崩壊した。

声にならない悲鳴を上げた。




ボンッッッッ!!!!!


月の胸から爆発するようにスノーダストが巻き上がる。



「月!?」



駆け付けたスコルが目にしたのは、心の臓に氷の華が咲いた体が宙を浮いている月だった。


目は虚ろで手足はだらしなく投げ出されていた。





「!!」


手に握られたミチルの映る紙と血糊の花びらを目視したスコル。



「かの者を護りたまえ…」



スコルが月に手をかざすが、高音と共に月のベールに跳ね返される。


シュルシュルと音を立て、月の周りから氷の矢が出現すると危機を感じたスコルが後ろに飛んだ。



先ほど立っていた場所に矢が刺さる。





「しっかりしろゆえ!!!!!」



スコルの怒鳴り声と同時に、月めがけて烈風が襲うとグルンとターコイズの瞳が烈風を捉え爆発音と共に月の体が建物の外へと逃げる。



「能力が主導権を…!」



相変わらず目は虚ろ。

本能的にしたがって能力が発動されてる月に、スコルの肝が冷えた。




「団長ッ!!!」


「ッウォルター!」


「どういう事です!?」



部屋の入り口に姿を現したウォルターは、破壊されてる壁の向こうに浮き続ける月の姿を発見する。


未だその手に握られてる紙と花びらも。




「急いで戻って来て正解でした」



飛ぶようにその場で跳躍すると、月の近くでウォルターも宙に浮く。



「月さん、聴こえますか?」



静かにかけられるウォルターの声でさえも月は虚ろな目で返した。



「月さん、こちらに来なさい」



差し出したウォルターの手に、纏っていたベールを身から離し、ウォルターと自分との間に置く事で拒絶した。



「私なんです…」



虚ろなターコイズがゆっくりとウォルターに視点を合わせる。



「…私が、殺したんです……私ガァア!!!!」



その声に応える様に、地から氷の針が無数に出現し、月の周辺を針の筵にする。



「ーー。」



月が小さく呟くと、晴天の空が怪しく唸りながら暗黒としていく。



「雲が…」



スコルは急速で渦を巻く雲を見上げる。




「ッ!!」



ゴオオオオォと唸りに下から巻き上がる冷気にウォルターの息が詰まる。


氷の針が宙に浮きベールを超えて月に針先を向けて囲む。



透明感のある水色の無数の針に囲まれ、目を閉じている月の姿は幻想的で…それだけで魅了される。




「その氷、邪魔ですね…月、よく聞きなさい」



低く告げたウォルターが次に姿を現したのは、ベールを超えた氷の針と月の間だった。



「っ!?」



突如の急接近。

暖かかったブランケットと同じ匂いが鼻を掠め、月が息を呑んだ。



「針を退けなさい」



感覚の狭い針と月の間に滑り込ませたウォルターの体には、針の先端が幾つも当たり血を滲ませる。



「ウォルターさんッ!!」



反射で透明のベールをウォルターに纏わせようとするが、弾かれてしまう。



「どうして!血が!!!」



慌てて針を引いてウォルターを見上げる。



「落ち着いて、ミチルさんは助け出しました」


「!」


「確かに外傷は酷いですが、私が治しました。今は眠っています」



見開いた月の目が徐々に下を向く。



「………あたしに関わったことで死にかけた。そんな思いしなくても良かったのに…あたしがそんな思いをさせた」


「あなたのおかげですよ」


「!」


「敵があなたに直接接触して来たのを、あなたが無理やり術を解いたおかげで居場所を掴めたんです」



目を見開いてウォルターを見つめる。


そっと月の後頭部に、手が回る。



「すみません…遅くなりました…」



トンッと額がウォルターの胸に当たる。



「なんで…違う、ウォルターさんが謝ることなんてっ…あたしが、あたしが受け入れていれば!拒んで無ければ!」


「…こうなる事を伏せげなかった。あなたじゃない、私を恨め…」


「違うっ、あたしが…」


「右も左も分からないあなたに、そんな思いをさせたのは私です」


「!」



先ほど自分で口にした台詞と同じ台詞。


真っ直ぐに見つめられるウォルターの青の目が、後悔の色に揺れてるのが伝わる。


グッとウォルターの胸に額を押し当てる。



「ずるい…ずるいですよ…。ウォルターさんは何も悪くない。十分過ぎるほどしてくれてるじゃないですか!!今回だって!!…なのに、ずるいですよ…」




月の目から落ちた涙が、結晶となって地に落ちた。




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