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赤き星の震える指 ——死神を撃った男の告白  作者: beens
第2章 緑の地獄

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第5話 砕かれた行軍

本作は、前作で描いた、

シモ・ヘイヘの戦いを描いた物語と対を成す物語です。

『白き死神の挽歌エレジー ——極寒のコッラ、五〇五の墓標』

https://ncode.syosetu.com/n4792ls/

 12月中旬。コッラ川流域へ向かう一本道。

 それは、行軍というよりは、巨大な墓場のようだった。

 数キロにわたって伸びたソ連軍第56師団の車列は、完全に停止していた。

 理由は単純だ。先頭の車両が地雷で吹き飛ばされ、最後尾のトラックが倒木によって道を塞がれたからだ。

 前にも後ろにも進めない。道路の両脇は、背の高い松の木と、胸まで埋まる深い雪。戦車でさえ、道路から一歩でも外れればスタックして動けなくなる。

「クソッ、いつになったら動くんだ!」

 戦車兵がハッチから顔を出して怒鳴る。

 だが、誰も答えない。答えられる者がいないのだ。

 ニコライは、故障したトラックの影に身を潜めていた。

 寒さで感覚のなくなった足指を、必死に軍靴の中で動かす。

 気温はマイナス30度を下回っていた。吐く息は白い粉になり、まつ毛が凍りついて目が開けにくくなる。

「おい、ニコライ……」

 隣でうずくまっているイワンが、青ざめた唇を震わせていた。

「腹が減った。パンはあるか?」

「石みたいに硬くなってるぞ」

 ニコライは懐から黒パンを取り出した。カチカチに凍りついていて、ハンマーで叩かなければ割れそうにない。

 二人はそれを銃剣で削り、氷のかけらのようなパンくずを口に含んだ。体温で溶かすしかないのだ。

 これが、フィンランド軍の罠だった。

 彼らは森の中に潜み、補給線を寸断し、大軍を「細切れ(モッティ)」にして孤立させた。

 食料も、燃料も、弾薬も届かない。

 あるのは、寒さと、飢えと、見えない敵への恐怖だけだ。

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