第5話 砕かれた行軍
本作は、前作で描いた、
シモ・ヘイヘの戦いを描いた物語と対を成す物語です。
『白き死神の挽歌 ——極寒のコッラ、五〇五の墓標』
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12月中旬。コッラ川流域へ向かう一本道。
それは、行軍というよりは、巨大な墓場のようだった。
数キロにわたって伸びたソ連軍第56師団の車列は、完全に停止していた。
理由は単純だ。先頭の車両が地雷で吹き飛ばされ、最後尾のトラックが倒木によって道を塞がれたからだ。
前にも後ろにも進めない。道路の両脇は、背の高い松の木と、胸まで埋まる深い雪。戦車でさえ、道路から一歩でも外れればスタックして動けなくなる。
「クソッ、いつになったら動くんだ!」
戦車兵がハッチから顔を出して怒鳴る。
だが、誰も答えない。答えられる者がいないのだ。
ニコライは、故障したトラックの影に身を潜めていた。
寒さで感覚のなくなった足指を、必死に軍靴の中で動かす。
気温はマイナス30度を下回っていた。吐く息は白い粉になり、まつ毛が凍りついて目が開けにくくなる。
「おい、ニコライ……」
隣でうずくまっているイワンが、青ざめた唇を震わせていた。
「腹が減った。パンはあるか?」
「石みたいに硬くなってるぞ」
ニコライは懐から黒パンを取り出した。カチカチに凍りついていて、ハンマーで叩かなければ割れそうにない。
二人はそれを銃剣で削り、氷のかけらのようなパンくずを口に含んだ。体温で溶かすしかないのだ。
これが、フィンランド軍の罠だった。
彼らは森の中に潜み、補給線を寸断し、大軍を「細切れ(モッティ)」にして孤立させた。
食料も、燃料も、弾薬も届かない。
あるのは、寒さと、飢えと、見えない敵への恐怖だけだ。
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