第3話 見えない線
進軍3日目。
ニコライの所属する第56師団は、コッラ川に向けて進んでいた。
先頭を行く偵察隊が、突然停止した。
「どうした?」
後続のニコライたちが顔を上げる。
道の上に、一本の丸太が置かれていた。
ただの倒木ではない。明らかに人の手で置かれたものだ。
「どかせ! 罠かもしれんぞ!」
曹長が叫ぶ。
数人の兵士が丸太に駆け寄り、持ち上げようとした、その時。
ドォォォン!!
爆音が森を震わせた。
丸太の下に仕掛けられていた地雷が起爆したのだ。
兵士たちの体が、ボロ布のように宙を舞った。
「敵襲! 敵襲!」
パニックに陥る隊列。だが、敵の姿は見えない。
どこだ? どこから攻撃してきている?
タンッ、タンッ、タンッ。
森の奥から、乾いた銃声が響く。
サブマシンガンの音だ。
道路上に立ち尽くしていた兵士たちが、次々と薙ぎ倒されていく。
「撃ち返せ! 森へ向かって撃て!」
ニコライは雪の中に伏せ、闇雲に引き金を引いた。
手応えはない。
木々を撃っているだけだ。
数分後、銃声はぴたりと止んだ。
残されたのは、うめき声を上げる負傷者と、赤く染まった雪だけだった。
襲撃者は、雪のように現れ、霧のように消えた。
これが、フィンランド軍の戦い方だった。
正面からぶつかることはせず、森を利用し、罠を張り、精神を削り取っていく。
死んだ戦友の顔を見て、イワンが吐いた。
ニコライは震える手で、自分の水筒を握りしめた。中身は凍りついていて飲めなかった。
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