第2話 泥の足を持つ巨人
11月30日。進軍開始。
国境を越えた瞬間、世界が変わった。
舗装された道路は途切れ、泥と雪が混じり合った悪路が続いていた。
「なんだ、この道は!」
戦車兵の怒号が飛び交う。
誇らしげに行進していた戦車の列が、渋滞を起こして止まってしまったのだ。フィンランド側の道路は狭く、森に囲まれており、重戦車がすれ違うことさえできない。
歩兵であるニコライたちは、動かない戦車の脇をすり抜けて歩くしかなかった。
雪は深く、足を取られる。
軍靴の中まで冷たい水が染み込んでくる。
「おい、誰かスキーを持ってないのか?」
小隊長のボリス曹長が叫んだが、誰も持っていなかった。
上層部は「雪が深く積もる前に戦争は終わる」と判断し、スキー部隊の編成を後回しにしていたのだ。
ズボッ、ズボッ。
膝まで埋まる雪。重い背嚢。モシン・ナガン小銃の冷たい感触。
行軍のペースは見る見る落ちていった。
「寒いな……」
イワンが青い顔をして震えている。
支給された軍服は、秋用に近い薄手のものだった。
夜になると気温はマイナス20度を下回る。焚き火をしようにも、薪が湿っていて火がつかない。
ニコライは、ふと森の奥を見た。
鬱蒼とした針葉樹林。黒々とした木々が、まるで壁のように立ちはだかっている。
鳥の声もしない。風の音だけがヒューヒューと鳴っている。
(何かがおかしい)
花束を持って出迎える市民など、どこにもいなかった。
村はもぬけの殻で、家畜一匹残されていない。井戸には毒が投げ込まれ、家屋は焼き払われていた。
歓迎どころか、徹底的な拒絶。
俺たちは、招かれざる客なのだ。
その事実が、冷たい雪のように兵士たちの心に降り積もっていった。
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