第19話 虚ろな勝者
ニコライが一歩、確認のために踏み出そうとした時だ。
森の奥から、数人のフィンランド兵が飛び出してきた。
彼らは倒れた「死神」に駆け寄ると、躊躇なくその身体を担ぎ上げた。
「シモ! しっかりしろ!」
彼らはニコライの方を一瞥もしなかった。
撃ち返すことさえせず、ただひたすらに、倒れた仲間を救うことだけに全力を注いでいた。
彼らはそのまま、森の奥深くへと消えていった。
残されたのは、ニコライ一人と、雪の上に残された大量の血痕だけだった。
ニコライはその場にへたり込んだ。
吐き気がした。
喜びは微塵もなかった。
彼は見てしまったのだ。
マスクが吹き飛んだ後の一瞬の素顔を。
それは、悪魔でも怪物でもなかった。
ただの、自分と同じくらいの年齢の、小柄な若者だった。
「……人間じゃねぇか」
ニコライの声が震えた。
俺たちが「死神」と呼び、恐れおののいていた怪物の正体。
それは、ただ国を守ろうと必死だった、一人の人間だったのだ。
俺は、怪物を倒したんじゃない。
俺は、人間を……あの小さな若者の顔を、この手で吹き飛ばしたのだ。
その事実が、鉛のように重くのしかかった。
遠くで勝鬨のような声が聞こえる。防衛線が突破されたのだろう。
戦争は終わる。
だが、ニコライの中の戦争は、この瞬間、永遠に終わらない呪いへと変わった。
彼は血の滲んだ雪を見つめ続け、涙を流した。
それは恐怖の涙でも、安堵の涙でもなく、取り返しのつかない罪悪感の涙だった。
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