第15話 肉の波
本作は、前作で描いた、
シモ・ヘイヘの戦いを描いた物語と対を成す物語です。
『白き死神の挽歌 ——極寒のコッラ、五〇五の墓標』
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午前9時。地獄の釜の蓋が開いた。
「ウラーーーッ!!」
何千、何万という叫び声が重なり合い、大気を震わせる。
第56師団を含むソ連軍の大部隊が、一斉にコッラ川の防衛線へとなだれ込んだ。
ニコライもその波の一部だった。
思考は停止していた。
ただ前の人間の背中を追い、転ばないように足を動かす。転べば、後ろから来る友軍の群れに踏み潰されるからだ。
ドォン! ドォン!
敵の迫撃砲が着弾する。
人間が吹き飛び、赤い霧になる。だが、波は止まらない。
一人が死ねば、後ろから二人が湧いてくる。これがソ連軍の戦術、「人海戦術」だ。兵士の命を弾丸と同じ消耗品として扱い、敵の弾薬が尽きるまで肉の壁を押し当て続ける。
ニコライの視界の端で、昨日までパンを分け合っていた新兵が、上半身を失って倒れるのが見えた。
悲しみはなかった。
ただ、(ああ、あいつはもう寒くないんだな)という、羨望にも似た乾いた感想だけが浮かんだ。
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