第14話 最期の命令
1940年3月5日。
空気が変わった。
上層部から、最後通牒とも言える命令が下ったのだ。
「明日、全軍で総攻撃をかける」
中隊長の声は枯れていた。
「後退はない。予備兵力も全て投入する。どんな犠牲を払ってでも、この防衛線を突破する」
それは、「全滅してこい」という命令に等しかった。
だが、ニコライの心には、奇妙な静けさが宿っていた。
(やっと、終わる)
勝っても負けても、明日で終わる。
この寒さからも、飢えからも、そしてあの視線からも解放される。
ニコライは愛銃の手入れをした。
弾倉に弾を込める。
その中の一発に、彼は禁止されている「炸裂弾」を混ぜた。
「もし、あいつに会ったら……」
ニコライは震える指で弾薬を撫でた。
「俺は死ぬだろう。だが、ただでは死なん。道連れにしてやる」
それは勇気ではなかった。
極限まで追い詰められた鼠が、猫に噛みつこうとする最後の狂気だった。
夜が明ける。
3月6日の朝日が、雪原を照らし出す。
ニコライは立ち上がった。
運命の時。
神と悪魔が交錯する、最期の戦場へ。
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