第10話 音のない減員
本作は、前作で描いた、
シモ・ヘイヘの戦いを描いた物語と対を成す物語です。
『白き死神の挽歌 ——極寒のコッラ、五〇五の墓標』
https://ncode.syosetu.com/n4792ls/
1940年1月、ある晴れた昼下がり。
ニコライの小隊は、コッラ川に近い森林地帯での偵察任務についていた。
空は突き抜けるような青さだったが、気温はマイナス35度。鼻毛が凍りつき、呼吸をするたびに肺が悲鳴を上げる。
「いいか、少しでも怪しい動きがあったら撃て。ためらうな」
ボリス曹長が低い声で指示を出す。
ニコライは小銃を構えながら、雪に埋もれた林の中を進んだ。
静かすぎる。
風の音も、鳥の声もしない。ただ、自分たちが雪を踏む「ギュッ、ギュッ」という音だけが響く。
その時だった。
先頭を歩いていた機銃手のアレクセイが、ふと立ち止まった。
「……ん?」
彼が何かを見つけたように首を傾げた、次の瞬間。
パシュッ。
雪玉を壁に投げつけたような、湿った音がした。
アレクセイの身体が、操り人形の糸が切れたように崩れ落ちる。
「敵だ! 伏せろ!」
全員が雪の中に身を投げ出す。
「アレクセイ! おい!」
衛生兵が這って近づく。だが、すぐに首を振った。
アレクセイの側頭部には、小さな穴が開いていた。反対側は吹き飛んでいる。即死だ。
「銃声が……しなかったぞ」
イワンが震える声で言った。
そう、音がなかった。風下だったせいか、それとも距離が離れすぎていたのか。
マズルフラッシュ(発砲炎)も見えない。
どこだ? どこから撃ってきた?
ニコライは恐怖で視界が狭まるのを感じた。
360度、全ての雪景色が敵に見える。
白い雪。白い木。白い空。
その「白」の中に、死が溶け込んでいる。
更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!
「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




