第9話 505人目の恐怖
焚き火を囲めない夜、兵士たちは身を寄せ合って体温を分け合った。
その中で、ある噂が囁かれ始めた。
「おい、知ってるか。第6中隊の小隊長がやられたらしい」
「またか? 昨日は通信兵がやられたばかりだぞ」
「ああ……しかも、全員『眉間』だ。一発で」
兵士たちの声が震えている。
「『白い死神』だ」
誰かがその名を口にした。
「聞いたことがある。身長は子供みたいに小さいが、姿が見えないんだ。雪の中に溶けて、数百メートル先から心臓を撃ち抜く。スコープも使わずに」
「馬鹿な。スコープなしで当たるわけがない」
「本当だ! 俺は見たんだ、奴がいた場所には、薬莢一つ落ちていなかったって……」
ニコライは、その話を聞きながら背筋が凍る思いがした。
単なる敵兵ではない。
何か、人知を超えた存在がこの森にいる。
そいつは俺たちの恐怖を食って生きている。
森の奥から、風の音が聞こえた。
ヒュオーー……。
それはまるで、死神が口笛を吹いているように聞こえた。
「来るな……」
ニコライは心の中で祈った。
「俺を見ないでくれ。俺はただの工員だ。誰かを殺したいわけじゃない。頼むから、俺を見逃してくれ」
だが、死神の足音は、着実に近づいていた。
ニコライの所属する小隊が、次の標的リストに入っていることを、彼はまだ知らない。
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