盗まれた写し
エルマが作った回答案は、その日のうちにフレデリックの確認を通った。
魔導局へ返すのは、事故原因、旧式排風路の役割、学生二人が行った緊急対応、そして成人側へ引き継いだ事実まで。
アトカやカインの能力を推測するための情報は、回答しない。
回答しなかった理由も残す。
さらにエルマが提案した、目的の違う記録を勝手に重ねないための横断照合制限も、正式な検討へ回されることになった。
翌日の夕方。
エルマは返却用の封筒を胸に抱え、特等枠ラウンジで立ち上がった。
「一般記録保管室へ行ってきますわ」
アトカが焼き菓子を分けていた手を止める。
「僕も行きますか?」
「必要ありません」
エルマはすぐに首を横へ振った。
「貴方自身への追加確認はありませんもの。回答案の保管手続きに、当事者だからというだけで付き合う必要はありませんわ」
「分かりました」
アトカは素直に頷いた。
ギルベルトも古い懐中時計の蓋を閉じ、立ち上がる。
「俺は行く。照会経緯の確認票も一緒に回す」
「お願いしますわ」
二人がラウンジを出る直前、バルトロがソファから声を飛ばした。
「紙置いてくるだけだろ?」
「その紙の置き場所を決める話を、ここ数日ずっとしているのですけれど」
「やっぱ面倒だな」
「貴方は一生魔石だけ噛んでいなさい」
「それはそれで悪くねぇな」
背後でリリシアが小さく笑った。
エルマは呆れながら扉を閉める。
それが、事件の直前に聞いた最後の穏やかな声になった。
一般記録保管室は、本棟北側の奥にある。
授業記録や事故報告、設備履歴、外部機関との照会書などを置く場所だ。
個人保護記録や、昨日エルマだけが閲覧した限定説明票が保管される場所ではない。
受付には管理当番の教師がいた。
「エルマ君、ギルベルト君。預かろう」
エルマが封筒を差し出す。
教師は受領簿を開き、封印番号を確認した。
そこで手が止まった。
「……待て」
声が変わる。
エルマの背筋が伸びた。
「どうしましたの?」
教師は扉脇の開閉記録板を見ていた。
「十二分前に、この部屋が開いている」
「誰が?」
「事務補助印だ。だが、今日は補助事務官が入る予定はない」
ギルベルトがすぐに保管室の扉を見る。
「中にいる可能性は?」
「ある」
教師は記録板の下部へ手を当てた。
淡い光が走る。
廊下の両端へ封鎖膜が下り、同時に学園警備と学園長執務室へ異常通知が送られた。
「二人とも、私より前へ出るな」
教師の声は短く硬い。
「中に人がいても、追跡を優先しない。まず記録を守る。外へ出たら警備へ渡す」
「承知しましたわ」
「分かった」
教師が管理印を認証板へ押す。
保管室の扉がゆっくり開いた。
紙と乾いた革の匂い。
高い棚が何列も並ぶ薄暗い室内。
その奥で、銀色の光が明滅していた。
「そこで手を止めなさい」
教師の声が響く。
棚の間にいた男が振り返った。
若い。
灰色の外套。
片手には薄い記録板。
もう片方には、銀色の道具が握られている。
床には、何枚もの記録紙が広げられていた。
胸元に来訪者札はない。
男は驚いたように目を見開いた。
「失礼しました。魔導局の補助官です」
教師は動かない。
「許可証と照会番号を見える位置へ出しなさい」
「ルガン・フェルナー監査官の指示で、追加資料の所在を――」
「許可証を」
教師は繰り返した。
男の右手がゆっくり外套へ向かう。
教師の前に薄い防護膜が展開される。
「ゆっくりだ」
男の指が外套の内側へ入った。
その瞬間。
左手に握られていた銀色の道具が強く光った。
床に広げられていた記録紙の上を、細い光が走る。
そこからさらに、糸のような光が窓の外へ伸びた。
エルマの目が見開く。
「中継式の印写しですわ!」
その場で紙を複製する道具ではない。
読み取った内容を、別の場所にある受信側へ送っている。
教師が主棚へ防護膜を広げた。
「ギルベルト君、窓側!エルマ君、原本を守れ!侵入者は追うな!」
一瞬だけ。
エルマは男を見た。
捕まえたい。
誰なのか確かめたい。
何を読んだのか吐かせたい。
けれど、その間にも床の紙へ銀色の光が走っている。
エルマは男から視線を切った。
「分かりましたわ!」
風が床を走る。
散らばった記録紙が一斉に滑り、男の足元から離れた。
続いて石床が低く盛り上がる。
紙を囲うように細い縁を作り、誰かが踏み込んでも直接踏みつけられない形にする。
男が銀色の道具を振った。
小さな火花が散る。
エルマは即座に水滴を飛ばした。
一つ。
二つ。
三つ。
火花を空中で包み、そのまま消す。
紙には触れさせない。
男が舌打ちした。
外套の中から白い紙片を掴み、棚の間へ放る。
紙片が空中で折れ曲がった。
鳥。
十数羽の白い紙鳥が一斉に羽ばたき、棚の間へ散る。
視界が白く埋まった。
エルマは追わない。
風の向きを変える。
紙鳥だけを壁際へ押しやり、原本を囲う土の縁はそのまま残す。
男の銀色の道具が床へ叩きつけられた。
光が走った。
棚に付けられた番号札が、一斉に明滅する。
「目録を乱していますわ!」
記録そのものを書き換えたのではない。
どの棚に、どの資料が置かれていたか。
その対応だけを一時的に狂わせた。
何を抜いたのか、すぐには追えなくするためだ。
「原本優先!」
教師の声が返る。
「はい!」
エルマは歯を食いしばった。
目の前で、記録を盗もうとした男が逃げようとしている。
それでも追わない。
今、自分が守るべきなのは人影ではない。
ここに残された紙だ。
男が部屋の奥へ走った。
正面の出口は教師が塞いでいる。
向かったのは窓。
ギルベルトが動く。
男の進行方向、その少し前。
指先が空間を撫でた。
小さな魔力の種が置かれる。
すぐには何も起きない。
男が一歩。
二歩。
棚の角を抜ける。
次の瞬間。
足元の横で、空気が弾けた。
局所的な衝撃。
床も棚も壊さず、男の踏み込みだけを横へずらす。
「っ!」
男の肩が棚へぶつかる。
だが倒れない。
片手をつき、すぐ体勢を戻した。
「遅延術式か」
吐き捨てる。
ギルベルトは答えない。
男が窓枠へ黒い札を押し当てた。
封鎖術式が一瞬だけ揺らぐ。
外壁補修用の狭い足場が見えた。
さらに、その下へ細い紙帯が垂れている。
エルマの顔が強張る。
「逃走経路を最初から用意していましたの……」
偶然入り込んだ人間ではない。
準備している。
ギルベルトが二つ目の種を置く。
今度は窓の手前。
男が片足を外へ出す。
ギルベルトは窓へ突っ込まない。
種が発動するまでの三秒を待つ。
男の身体が外へ出ようとした瞬間、窓際で衝撃が弾けた。
肩が大きくぶれる。
灰色の外套が窓枠へ引っ掛かり、裂けた。
手にしていた薄い記録板が床へ落ちる。
だが、男自身はそのまま外へ身を投げた。
下に垂らされた紙帯が身体を受け、外壁の補修足場へ引き下ろしていく。
ギルベルトが窓へ寄った。
「追うな!」
教師の声が飛ぶ。
ギルベルトの足が止まった。
窓から身を乗り出さず、外壁を走る影だけを見る。
「北西の補修足場へ下りた。外套を捨てた」
廊下の向こうから警備担当の足音が近づいてくる。
教師が位置を伝えた。
「北西外壁。補修足場。下層出口を封鎖!」
エルマは窓を見なかった。
男が落とした記録板へ膝をつく。
表面には、複写途中の細い線と数字が焼き付いていた。
端には、小さな印がいくつも並んでいる。
送信済み。
一部は、もう外へ出ている。
「……間に合いませんでしたわ」
声が低くなる。
教師が振り返る。
「何が送られた?」
「確認します」
エルマはまず床の原本を見る。
昨日、自分だけが読んだ限定説明票は、ここにはない。
旧式排風路に残った拍。
周期一致。
キルウェスタの私的判断。
それらは別の場所に封じられている。
アトカやカインの身体・装具に関する保護記録もない。
だから、核心は盗まれていない。
だが。
記録板に残った参照痕を追う。
一枚目。
改修前の中継塔測量図。
二枚目。
事故後、修繕班が作った結晶欠損区域の概略図。
三枚目。
公開範囲へ整理された水路圧の時刻表。
さらに。
任務班の到着時刻。
管理人が水膜を目撃した区域。
エルマの喉が乾いた。
昨日、自分が危険だと指摘した組み合わせだった。
「……重ねていますわ」
ギルベルトが横へしゃがむ。
「何を?」
「一つの資料を盗んだのではありません」
エルマは測量図を指した。
「改修前の塔の形と、事故後に結晶が欠損していた区域。それから水路圧が変わった時刻」
次の記録。
「任務班がどこへ到着したか。どの辺りで水膜が目撃されたか」
ギルベルトの目が細くなる。
「横断照合か」
「ええ」
昨日、自分が制度として止めるべきだと提案したこと。
侵入者は、まさにそれをしていた。
エルマは記録板を見つめる。
「旧式排風路の正確な位置は分かりません。ですが、改修前後の図面を重ねれば、現在設備とは違う空間があった方向は絞れます」
「アトカについては?」
「名前までは、この板にありません」
エルマは水路圧の時刻表を見る。
「ですが、任務班の移動時刻と水膜の目撃区域を合わせれば、水制御がどこまで届いていた可能性があるかは推定できます」
「カインは」
「破断位置そのものはありません。ただ、事故後に結晶が欠けていた区域と、設備が残った区域を比べれば、何を壊さなかったのかまである程度見えます」
そこで、足音が近づいた。
フレデリックが二人の警備担当とともに保管室へ入ってくる。
長い銀髪の奥で、琥珀色の瞳だけがいつもより冷たく澄んでいた。
最初に見たのは侵入者の残したものではない。
教師。
エルマ。
ギルベルト。
「負傷者は?」
「いません」
管理当番の教師が答える。
「侵入者は北西の外壁足場から逃走。警備が追跡しています。一部の一般記録が外部へ転送された可能性があります」
「エルマ君、ギルベルト君は?」
「無事です」
「はい」
二人の返事を確認してから、フレデリックは床の記録を見る。
「封印側は?」
エルマが答えた。
「触れられていません。昨日の限定説明票も、個人保護記録も無事です」
「分かった」
そこで初めて、フレデリックは落とされた記録板へ視線を向けた。
「流れたものは?」
「周辺記録ですわ」
エルマは一つずつ示した。
改修前測量図。
結晶欠損区域。
水路圧の変化時刻。
任務班の到着時刻。
水膜が目撃された区域。
「一つずつなら、一般記録保管室にあって不自然ではない資料です」
フレデリックが静かに聞く。
「重ねると?」
「旧式排風路らしき方向。カインさんが選択的に処置した可能性のある区域。そして、現地の水制御がどこまで届いたか。その程度までは推定できます」
フレデリックは頷いた。
「核心には届いていないね」
「はい」
エルマははっきり答えた。
「周期一致については分かりません。セレナ・エイルウィンドとの関係も分かりません。アトカ君やカインさんの身体・装具に関する保護情報にも届いていません」
「それでも、何かを試すための材料にはなる」
ギルベルトが低く言った。
エルマは返事をしなかった。
その可能性を、自分も考えていた。
フレデリックは記録板へ触れず、警備担当へ顔を向けた。
「これを証拠として保全。認証札、印写し、外套の破片、開閉履歴、棚の参照履歴も全部残してほしい。一般記録保管室は確認が済むまで閉鎖する」
「はい」
「それから、侵入者はルガンの名を使ったそうだね」
管理当番の教師が頷く。
「魔導局の補助官だと名乗りました」
「それ以上は?」
「確認できていません」
フレデリックはすぐに結論を出さなかった。
「なら、今分かっているのは、侵入者がルガンの名前を使ったことだけだ」
エルマが顔を上げる。
「ですが、魔導局の印写しを――」
「それも正規品とは限らない」
フレデリックの声は穏やかだった。
「盗品かもしれない。偽造かもしれない。事務補助印も同じだ。魔導局内部の協力者がいる可能性も、外部の人間が監査手続きを調べた可能性も残る」
エルマは唇を結ぶ。
「ルガン本人の関与も、今は分からない」
「……はい」
嫌いだと思った。
警戒もしている。
だからこそ、そこを事実へ変えてはいけない。
エルマは自分から言い直した。
「侵入者がルガン監査官の名を使用した。そこまでですわね」
「そうだ」
フレデリックは小さく頷いた。
「魔導局へは通常の監査回答とは別経路で照会する。監査課責任者とルガン本人、それぞれに確認を取ろう」
ギルベルトが落ちた記録板を見る。
「横断照合制限は?」
「今日から暫定運用にする」
エルマが目を上げた。
フレデリックは続ける。
「君が昨日提案したものだ。位置を示す設備資料、時刻記録、個人別任務記録、目撃記録を横断する場合、利用目的と閲覧者を明示させる」
「一般記録まで全部封じるのではなく?」
「それでは事故検証ができない」
「……そうですわね」
「記録は残す。ただ、誰が、何のために、何と何を重ねたのかを残す」
エルマは床に置かれた記録紙を見る。
書かなければ、事故を振り返れない。
全部閉じれば、次の事故を防げない。
けれど正しい記録でも、重ね方一つで人の輪郭を作れてしまう。
昨日は紙の上で考えた危険だった。
今日は目の前で、それを使った人間がいた。
「……もっと早く運用できていれば」
言葉が漏れた。
フレデリックがエルマを見る。
「エルマ君」
「はい」
「君は今日、正式な保管手続きの途中で異常を見つけた」
「見つけたのは先生ですわ」
「君は侵入者を追わず、原本を守った」
エルマは黙る。
「火花を止めた。散らされた紙を守った。落とされた板から、何が外へ出たかも分けた」
フレデリックの声は変わらない。
「今やることは、昨日の制度が今日まで間に合わなかった責任を十三歳の君一人へ背負わせることではない」
エルマの指が、僅かに緩む。
「成人側で警備と管理を改める。その上で、君には記録者として続きを手伝ってほしい」
「……承知しましたわ」
少し離れたところで、ギルベルトが窓の外を見ていた。
「逃げた男は、何を欲しかったと思う?」
フレデリックはすぐには答えない。
「まだ分からない」
「事故記録そのものかもしれない」
「そうだ」
「設備の弱点かもしれない」
「それもある」
エルマは記録板を見る。
「でも、別の可能性もありますわ」
二人の視線が向く。
「盗まれた資料だけでは、昨日わたくしが見たものへは届きません」
限定された風の拍。
周期一致。
セレナに関する私的判断。
そこは守られている。
「それでも、蒼風高原で何が起きた場所なのか、外側だけは作れます」
エルマは改修前の測量図を指した。
「風が溜まる場所。古い経路があるらしい方向。結晶が増えた区域。水路圧が変わった時刻。そして、水が使われた範囲」
ギルベルトが言う。
「条件を似せることはできる」
「完全には無理です」
エルマは即答する。
「旧式排風路に何が残っていたのか、相手は知らない。だから蒼風高原と同じものは作れません」
そこで言葉が止まった。
同じものを作る必要がないとしたら。
「……ですが」
胸の奥が冷える。
「似た状況だけ作って、アトカ君がどう動くかを見ることはできます」
ギルベルトの表情から笑みが消えた。
「本人に答えさせるのか」
「可能性ですわ」
エルマはすぐに付け加える。
「まだ何のために盗んだのかも分かりません。そうすると決まったわけでもありません」
フレデリックが頷く。
「そこは分けよう」
事実。
侵入者が一般記録を横断して複写した。
一部を外へ送った。
送られたのは、設備、時刻、目撃区域などの周辺情報。
推測。
それを使えば、蒼風高原に似た条件を部分的に作ることができるかもしれない。
そして、その中でアトカの反応を観測することも、理屈の上では可能。
「備えは必要だね」
フレデリックが言った。
「当面、特等枠へ外部から直接届く任務要請や設備確認依頼は受けない。学園を通した正式要請でも、発信元を別経路で確認する」
「アトカ君を任務へ出さないのですの?」
「そうは言っていない」
フレデリックは静かに首を横へ振った。
「危険があるから閉じ込める、では本人から選択を奪うことになる。確認手順を増やすんだ」
エルマは僅かに息を吐いた。
守ることと、閉じ込めることは違う。
ずっと続いている話だった。
ギルベルトが窓の外から視線を戻す。
「ラウンジへ戻ったら、どこまで話す?」
「確認できた事実まで」
フレデリックは答える。
「一般記録保管室へ侵入があったこと。一部の周辺情報が外へ送られたこと。個人保護記録と限定説明票は守られていること」
エルマは黙って聞く。
「それから、外部要請の確認手順を一時的に強化すること。理由も説明する」
「盗まれた資料から、アトカ君を試す場を作れるかもしれないという話は?」
「推測として伝える必要はある。ただ、起こると決まったようには言わない」
「はい」
フレデリックはエルマを見る。
「昨日、君が読んだ限定情報の内容は?」
エルマは迷わなかった。
「話しません」
「うん」
「今回の侵入とは分けます。相手もそこへは届いていませんもの」
「その通りだ」
警備担当が、床の記録を一枚ずつ保全袋へ移していく。
エルマも立ち上がった。
侵入者を捕まえることはできなかった。
送られた情報も、すべて止められなかった。
それでも。
原本は残った。
限定情報は守られた。
何が流れたのかも、ある程度まで特定できた。
そして、自分たちが昨日気づいた危険が、ただの心配ではなかったことも分かった。
「エルマ君」
「はい」
「ラウンジへ戻ろう」
フレデリックの声に、エルマは頷いた。
保管室を出る前に、一度だけ振り返る。
高い棚。
土の縁に囲われた紙。
壁際へ吹き寄せられた白い紙鳥。
水滴の中で消えた火花。
ギルベルトの衝撃で落とされた記録板。
そのどれもが、数分前まで静かな保管室には存在しなかったものだった。
昨日、エルマは空白にも理由を残そうと決めた。
今日分かったのは、その先だ。
秘密を直接盗まなくても、秘密の周りを集めることはできる。
ならば、守るべきなのは一枚の紙だけではない。
紙と紙の間にある道もだ。
エルマは胸元の封筒を抱え直した。
「……本当に、面倒ですわね」
隣でギルベルトが懐中時計の蓋を閉じる。
「やめるか?」
エルマは即座に睨んだ。
「冗談ではありませんわ」
ギルベルトの口元が少し上がる。
「なら、続きをやるぞ」
「当然です」
二人はフレデリックの後を追い、保管室を出た。
廊下の封鎖膜の向こうでは、まだ警備担当が走っている。
事件は終わっていない。
侵入者が誰なのか。
誰へ情報を送ったのか。
何のために集めたのか。
まだ何一つ確定していない。
ただ一つ。
封じた記録そのものを守るだけでは足りない。
その事実だけは、もう疑いようがなかった。




