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【完結】告白したら振られたのに、クールな先輩が俺の資産管理を始めた  作者: 木風


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3/20

第3話 先輩にサブスクを切られる

 月曜日の昼休み。

 俺は社員食堂の隅の席で、人生の終わりみたいな顔をしていた。


 目の前には、定食の唐揚げ。

 隣には、ノートPCを開いた氷室怜奈さん。

 そして俺のスマホには、先週金曜の夜に入れられた家計簿アプリがある。


「では、始めましょう」


 氷室さんは、唐揚げ定食に箸をつけるより先にそう言った。


「いただきます、より先に監査が始まることあります?」

「食べながらでいいわ」

「食欲が消えます」

「家計の現実を見れば、余計な食欲は抑えられるかもしれない」

「ダイエットアプリじゃないんですよ」


 俺は笑おうとしたが、氷室さんは笑わなかった。


 金曜の夜、俺はこの人に告白した。

 そして振られた。

 その直後、限定キーボードとスニーカーを衝動買いしようとしているところを見つかり、なぜか家計簿アプリを入れられた。


 そこまでは、まあいい。

 いや、よくはないが、まだわかる。

 問題は、振られた相手と月曜の昼休みに向かい合い、自分の支出を開示しているこの状況だ。


 気まずい。

 死ぬほど気まずい。

 なのに氷室さんは、普段通りだった。


 今日は耳上の髪だけをすくったハーフアップに、白いブラウスにグレーのカーディガン。

 細いフレームの眼鏡をかけているせいで、いつもより少しだけ仕事モードが強い。


 きれいだな、と思ってしまう。

 振られたばかりなのに。

 本当に俺の情緒はゆるい。


「高瀬くん」

「はい」

「今、何を考えていたの?」

「唐揚げが冷めるな、と」

「なら、食べながら答えて」

「はい……」


 俺は唐揚げをひとつ口に入れた。

 揚げたてでうまい。

 うまいが、これから俺のサブスクが処刑されると思うと、味が遠い。


「まず、固定費から見ます」

「固定費」

「家賃、通信費、保険、サブスク。あなたの場合、特にサブスク」

「なんでそんなにサブスクを敵視するんですか」

「敵視しているわけではないわ。放置されている固定費は、静かに可処分所得を削るから嫌いなだけ」

「十分敵視してます」


 氷室さんは俺の抗議を流し、ノートPCに表を出した。


「昨日の夜までに、契約中のサブスクを一覧にして送ってと言ったわよね」

「送りました」

「見ました」

「はい」

「多すぎる」


 即断だった。


「そんなにですか?」

「動画配信が五つ」

「それぞれ強みがあります」

「音楽配信が二つ」

「片方はプレイリストが優秀で、もう片方は音質が」

「クラウドストレージが三つ」

「仕事用と創作用と、昔から使ってるやつで」

「素材サイト、写真素材サイト、アイコン素材サイト、フォントサービス、AIツール、有料メモアプリ、タスク管理アプリ、英会話アプリ、フィットネスアプリ」

「俺、意識高いですね」

「継続利用していればね」


 氷室さんの指が、表の一行を指した。


「この英会話アプリ、最後に開いたのは?」

「えっと……」

「アプリの利用履歴を見て」


 俺はスマホを操作した。

 最終起動日。

 三か月前。


「……人には、学びたい気持ちだけが先行する時期があります」

「月額千四百八十円」

「切ります」

「次。フィットネスアプリ」

「それは健康への投資で」

「最後に開いたのは?」

「四か月前です」

「月額九百八十円」

「切ります」

「次。有料メモアプリ」

「これは使ってます。小説のネタとか、UIのメモとか」

「使用頻度は高い?」

「高いです。毎日ではないけど、週三くらい」

「なら残す」

「えっ」


 俺は思わず顔を上げた。


「残していいんですか?」

「必要なものまで切るとは言っていないわ」

「氷室さん、意外と優しい」

「意外とは余計」

「すみません」


 氷室さんは淡々と表に印をつけていく。

 切るもの。

 残すもの。

 一時停止するもの。


 同系統のサービスを比較して一本化するもの。

 その判断に、迷いがない。


 けれど、乱暴ではなかった。

 俺が「これは仕事にも使っている」と説明すると、氷室さんは必ず内容を聞いた。

 実際に使っているか、代替できるか、月額に見合う価値があるか。

 ただ金額だけを見て削っているわけではない。

 俺が何を大事にしているかを、ちゃんと見ようとしている。


「このフォントサービスは?」

「残したいです」

「理由は?」

「副業の表紙デザインで使うので。商用利用できるフォントが揃ってるし、買い切りより今は月額の方が助かる時があります」

「使用履歴は?」

「先月も二件使いました」

「収入につながっている?」

「はい」

「なら残す」


 氷室さんがそう言った瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。

 この人は、俺の好きなものを全部否定したいわけじゃない。

 ただ、見ている。

 俺以上に、俺の支出を。


「じゃあ、この動画配信サービスは?」

「それは……」

「使用頻度は?」

「月に一回くらい」

「何を見るの?」

「推しが出た時だけ」

「毎月契約している必要は?」

「ありません」

「切りましょう」

「はい……」


 俺はスマホを操作して、解約ページを開いた。

 だが、そこからが長かった。


 本当に解約しますか。

 今なら三か月割引です。

 あなたへのおすすめがあります。

 この作品が見られなくなります。

 解約理由を教えてください。


「必死に引き止めてきます」

「そういうものよ」

「俺がいなくなるの寂しいんですかね」

「月額料金がいなくなるのが寂しいのよ」

「現実的」


 ようやく解約を押した瞬間、妙な罪悪感があった。

 長年付き合った相手と別れるような。

 いや、月に一回しか会っていない相手なのだが。


「高瀬くん」

「はい」

「今、何を感じている?」

「喪失感です」

「その喪失感に、月額千二百円の価値はある?」

「……ありません」

「なら大丈夫」


 大丈夫とは。

 俺は小さく息を吐き、唐揚げをもうひとつ口に入れた。

 さっきより味がした。


「でも、こうやって見ると、俺けっこう無駄に払ってますね」

「月額は少額に見えるから、危機感が薄くなるの」

「一個一個はコンビニの昼飯くらいですもんね」

「でも、合計すると?」


 氷室さんが表の合計欄を指した。

 解約候補だけで、月一万六千七百四十円。

 年間で、二十万八百八十円。


「うわ」


 思わず声が出た。


「年間二十万」

「そう」

「二十万あったら、かなりいい椅子買えますね」

「そこ?」

「すみません。生活防衛資金にします」

「よろしい」


 氷室さんが、ほんの少しだけ満足そうに頷いた。

 その顔がかわいく見えてしまって、俺は慌てて味噌汁を飲んだ。


 危ない。

 この人は俺を振った人だ。

 俺のサブスクを切っている人だ。

 それなのに、たまに見せる小さな表情の変化で、簡単にこっちの心を持っていく。

 不公平すぎる。


「次、ゲーム関連」

「そこは聖域では?」

「聖域ほど監査が必要よ」

「神社に税務調査入れるみたいなこと言いますね」

「宗教法人にも会計はあるわ」

「勝てない」


 俺は観念して、ゲーム関連の月額パスを開いた。

 毎日ログインボーナスがあるもの。

 限定報酬がもらえるもの。

 推しキャラの衣装が月替わりで手に入るもの。

 気づけば三つ契約していた。


「全部使っているの?」

「使っている、というか、ログインはしてます」

「楽しんでいる?」

「……義務になってるかもしれません」

「なら、一つに絞りましょう」

「でも限定衣装が」

「その限定衣装を見る時間は?」

「月に二回くらい」

「月額は?」

「千五百円」

「一回七百五十円の鑑賞料ね」

「急に高く感じる」

「数字にすると見えることがあるの」


 氷室さんはそう言って、自分の定食の焼き魚をきれいにほぐした。

 俺はその手元を見ながら、なんとなく聞いた。


「氷室さんは、サブスクとか入ってないんですか?」

「入っているわ」

「え、意外」

「動画配信をひとつ、音楽をひとつ、クラウドをひとつ。あと、家計簿アプリの有料版」

「模範解答みたいな構成」

「必要だから払っているだけ」

「じゃあ、趣味にはお金使わないんですか?」


 氷室さんの箸が、少しだけ止まった。

 ほんのわずかだったが、俺にはわかった。

 踏み込みすぎたかもしれない。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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