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【完結】告白したら振られたのに、クールな先輩が俺の資産管理を始めた  作者: 木風


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17/20

第17話 クリスマスプレゼントは経費にならない

 クリスマスイブの朝、俺は家計簿アプリを開いたまま、ベッドの上で固まっていた。


 買うべきか。

 買わないべきか。

 いや、買うこと自体はもう決めている。

 問題は、何を買うかだ。


 相手は氷室怜奈さん。

 俺を振った人。

 俺に家計簿アプリを入れた人。

 サブスクを七つ切り、副業収入を収入として認識させ、還付金でタブレットを買おうとした俺を止め、風邪を引いた俺を病院に連れていき、ふるさと納税で米を選ばせた人。


 そして、クリスマス前の夜に、自分の弱さを少しだけ見せてくれた人。


 何かを贈りたかった。

 恋人でもない。

 まだ、先輩と後輩だ。

 だから重すぎるものはだめだ。

 でも、適当なものもだめだ。


 俺はスマホの検索履歴を見た。


 ブランド ネックレス クリスマス

 女性 プレゼント 社会人

 高すぎない アクセサリー

 クールな女性 贈り物

 手袋 上質 レザー

 冷え性 プレゼント


 前半の検索履歴が、あまりにも俺だった。

 好きな人に何かを贈るとなった瞬間、俺はすぐ「高いもの」「映えるもの」「一発で特別感が出るもの」に飛びつこうとした。

 でも、昨日の夜、家計簿アプリを見ながら止まった。

 これ、氷室さんが喜ぶものじゃなくて、俺が「喜ばせた気になれる」ものだ。


 そう気づいた瞬間、購入ボタンから指が離れた。

 氷室さんは、高いアクセサリーを突然もらって喜ぶタイプではない。

 むしろ困る。


 たぶん、価格を調べる。

 そして「この支出は予算内?」と聞く。

 その顔まで想像できる。

 俺はベッドの上で、深く息を吐いた。


「……手袋、かな」


 思い出すのは、氷室さんの手だ。

 風邪を引いた日に、額に触れた冷たい手。

 給湯スペースでマグカップを包んでいた手。

 エントランスで、ホットの紅茶缶を両手で持っていた手。

 いつも資料を正確にめくる、細くてきれいな指。


 その手が、よく冷えていることに俺は気づいていた。

 気づいていた。

 なら、そこを見て選びたい。

 俺は予算を確認した。


 今月の自由費。

 クリスマス用に残しておいた分。

 サブスクを切って浮いた分のうち、生活防衛資金に回さなかった小さな枠。


 無理はない。

 背伸びもしすぎていない。

 でも、安く済ませたいわけじゃない。

 ちゃんと考えて、ちゃんと選ぶ。


 俺は昼休みに会社近くの百貨店へ行った。

 平日の昼なのに、売り場はクリスマス前の熱気でいっぱいだった。

 アクセサリー売り場、コスメ売り場、マフラー、バッグ、財布。

 少し前の俺なら、この空気に簡単に飲まれていたと思う。


 せっかくだから。

 今だけだから。

 好きな人へのプレゼントだから。

 そう言い訳して、予算を一段も二段も上げていた。


 でも今日は、家計簿アプリを開いた。

 予算を見る。

 深呼吸する。

 売り場のきらきらに負けない。


「すみません。女性用の手袋を見たいんですけど」


 店員さんに案内され、革手袋の棚を見る。


 黒。

 グレー。

 深いネイビー。

 内側がカシミヤ混のもの。

 スマホ対応のもの。


 リボンがついたかわいいものもあったが、氷室さんには少し甘すぎる気がした。


 俺が選んだのは、チャコールグレーの革手袋だった。

 形はすっきりしていて、飾りは小さな金具だけ。

 内側はやわらかく、指を入れた瞬間に暖かい。

 値段は、安くはない。

 でも、払える範囲だった。


 これなら、たぶん困らせすぎない。

 それに、氷室さんのコートにも合うと思った。


「プレゼントですか?」


 店員さんに聞かれて、俺は一瞬詰まった。


「あ、はい。……いつもお世話になってる先輩に」

「素敵ですね」

「いや、まだそういうあれではなく」

「そういうあれ、なんですね」

「いえ、本当に、そういうあれでは」


 俺がしどろもどろになっている間に、店員さんは綺麗に包んでくれた。

 小さな紙袋を受け取った瞬間、胸が少し重くなった。


 怖い。

 喜んでもらえなかったら。

 重いと思われたら。

 余計なことをしたと思われたら。


 でも、買った瞬間の高揚感だけで突っ走っているわけではない。


 ちゃんと考えた。

 ちゃんと予算内に収めた。

 ちゃんと、氷室さんを見て選んだ。

 だから大丈夫。


 たぶん。


 午後の仕事は、ほとんど手につかなかった。

 紙袋はロッカーに入れている。

 それなのに、やけに存在感がある。

 会議中も、デザイン修正中も、社内チャットの返信中も、頭の片隅にずっと手袋がいた。


 夕方、クリスマスイブだからか、社内はいつもより少し早く人が減っていった。

 俺はデスクでタイミングを計っていた。


 氷室さんはまだ席にいる。

 今日中に片付けたい資料があるのだろう。

 タブレットとノートPCを並べ、淡々と作業している。


 声をかけるなら、今しかない。

 俺はロッカーから紙袋を取り出し、深呼吸した。

 プレゼンより緊張する。


 告白した時よりは、少しだけマシかもしれない。

 いや、嘘だ。

 同じくらい緊張する。


「氷室さん」


 声をかけると、氷室さんが顔を上げた。


「何?」

「あの、少しだけいいですか」

「業務?」

「業務では、ないです」


 この台詞、前にも言った。

 たしか、告白した夜だ。

 氷室さんも覚えていたのか、一瞬だけ目を細めた。


「……わかったわ」


 俺たちは、誰もいない小さな打ち合わせスペースに移動した。


 ガラス越しに、エントランスのツリーが見える。

 白いライトが、夜のオフィスに淡く滲んでいた。

 俺は紙袋を両手で持ったまま、数秒固まった。

 氷室さんが静かに待っている。


「これ」


 俺はようやく紙袋を差し出した。


「いつもお世話になっているので」

「え?」

「その、家計簿とか、サブスクとか、確定申告とか、生活防衛資金とか、ふるさと納税とか。いろいろ面倒見てもらってるので」

「それは、あなたが必要だったから」

「はい。でも、俺は助かってます」


 氷室さんは紙袋を見たまま、すぐには受け取らなかった。


「高瀬くん」

「はい」

「高いものではない?」


 来た。

 予想通りだった。


「予算内です」

「本当に?」

「本当です。家計簿アプリにも入れます。生活防衛資金には手をつけてません。サブスクを切って浮いた分も、ちゃんと大半は貯蓄に回してます」

「そこまで聞いていないわ」

「聞かれると思って準備してました」


 氷室さんが、少しだけ笑った。


「成長したわね」

「監査報酬です」

「監査報酬にしては、現物支給なのね」

「あと、来年も継続契約でお願いします」


 言ってから、心臓が跳ねた。

 冗談のつもりだった。

 でも、本音でもあった。


 来年も。

 その次も。

 俺は、この人に自分の生活を見られても恥ずかしくない人間になりたい。


 氷室さんは、ゆっくり紙袋を受け取った。


「開けてもいい?」

「はい」


 包装紙が丁寧にほどかれる。

 箱が開く。

 チャコールグレーの革手袋を見た瞬間、氷室さんの表情が止まった。


 失敗したか。

 重かったか。

 不安が一気にこみ上げる。


「あの、もし趣味じゃなかったら」

「違う」


 氷室さんが、俺の言葉を遮った。


「そうじゃなくて」


 彼女は手袋をそっと持ち上げた。

 指先で革の表面を撫でる。


「……どうして、手袋?」

「先輩、手が冷たいので」


 言った瞬間、氷室さんがこちらを見た。


「風邪の時、額に触れた手も冷たかったし。給湯スペースでも、よくマグカップを両手で持ってるし。前にエントランスで紅茶渡した時も、指が冷たかったので」


 口にすると、思ったよりずっと見ている人みたいで恥ずかしくなった。

 いや、見ている。

 俺はこの人を、かなり見ている。


「だから、その。高いアクセサリーとかより、使えるものがいいかなと思って」


 氷室さんは、何も言わなかった。

 ただ、手袋を見つめている。

 沈黙が怖い。


「すみません。やっぱり重かったですか」

「重いわね」


 即答だった。

 俺は撃沈した。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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