第七話 軌道という名の鎖
「おい!橘に何してる!」
「何もしてないわよ、強いて言うなら二択を与えているだけ。栞音こそ、自分が嫌っている雷を使っていいの?自分が辛いだけでしょう?」
本当に可哀そうだと言わんばかりに首を傾げている。
こういうところ、私は本当に姉妹だなって思う。
栞音はイラついているのか、下を向いてワナワナと拳を震わせている。
まるで、私がそうしたみたいに。
って、そうじゃなくて……。
「栞音、どうしてココにいるの?あの場から動けなかったハズじゃ……」
「うん、それはそう」
キッパリと顔をガバっと勢いよく上げ、そう言った。
「え、えぇ……」
私は若干困惑してしまった。
「何困惑してんの?ちなみにだけど自力でどうこうしたんじゃないから」
そこまでハッキリと言うんだ……。
「まぁ、風邪なら一日あれば治るケドさ」
何かサラッとトンデモ発言聞こえたような……。
うん、聞こえなかったことにしよ。
「ちなみにだけれど、自力であの麻痺は流石に治らないわ。というか、私が解除したからね。言霊を」
だろうな、といった感じで凶魔さんを睨む。
「で、どういう二択強要してんだよ」
「単純な事よ。出るか報復するか。後者なら一生私の下につくっていう」
「いい性格してんな、どっちに転んでも思惑通りじゃねぇか」
ヤレヤレと呆れている。
「栞音は助けなくて良いの?橘さんを」
暫しの沈黙。
私は密かに期待してた。
どっちを選べばいいか分からない私を助けてくれるって。
それにさっきの「どっちに転んでも思惑通り」っていう言葉の意味もわからないし。
「別に、私は橘が助かろうが助からまいが知ったこっちゃない。つーかそれ。私に全責任押しつけようとしてるだけじゃねぇの?」
プツン。
私の頭の中で何かが切れた音がした。
なんでこんな好き勝手に言われなきゃならないんだ?
決めた。
「私、この列車から降りる」
意外、といった感じで私を見る凶魔さん。
だって、ココで私が凶魔の下につくことになったら栞音に知らしめられない。
降りても、栞音に私は責任を押しつけるような人間じゃないって嫌というほど分からせてやるんだ。
「じゃあ、そこのレバーを引きなさいな」
レバーを指差す。
レバーに向かう。
「ああ、待って橘さん。これはご褒美。約束通り、車掌室に来てくれたからね」
額に手を当ててそう言った。
栞音が目を見開いて「おい!引くな!」って言ってた気がするけどどうでもいい。
レバーをグッと力強く引いた。
光、ゴメン。
自分勝手な理由で報復をやめてしまって。
私は頭の中で光に謝った。
ギィィィィィィ――。
高い音が響いた後、私は意識を失った――。
目が覚めたら、私ら自室のベッドの上で寝ていた。
使い古した物の匂いで部屋が埋め尽くされている。
夢?
それにしては妙にリアルな感覚が……。
そんな事を考えていたら、部屋の扉がゆっくりと開いた。
母だ。
母は私を見るなり、目から涙が溢れた。
急いで私に近づき、ギュッと抱きしめてきた。
「母さん……?」
私は訳がわからず混乱した。
「良かった……本当に良かった……」
泣きながらそう言っている。
「蒼、あなた、如月駅の前で急に倒れて……。三日間昏睡状態だったのよ……、
お医者様に見せてもわからないって言われて、死ぬほど心配したわ……」
振り絞るような声で説明してくれた。
「お母さん、心配かけてゴメン」
「蒼が謝ることないわ。今、ホットミルク持ってくるわね」
そう言い、キッチンへと消えていった。
私はゆっくりと起き上がり、ふと、机の上に置いてあったメモ書きに目がいった。
そこには――「乗客が逃げてはならない」と。
メモ書きを見た瞬間、私の視界はブラックアウトした。
そして、その直前に全て思い出した。
私、こうやって何度も繰り返してたんだ。
何度も出て、何度も死んで、何度も忘れて。
結局あの列車に戻ってる。
あの車掌室前にあった死体は、全部私のだ。
あの石像に殺されてたんだ。
でも、今回だけは違ってた。
栞音も、凶魔さんも、前までは関わらなかった。
あの時、報復する選択をしていたら、少なからず列車からは降りられたのかな。
引き戻されなかったのかな。
でも、どうせ忘れてしまうから関係ないか。
そう思いながら、私はブラックアウトした。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
規則正しい振動音が私の意識を揺らす。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
私はしばらく揺られていた。
が、「ガタン!」と一際強い揺れで私の――橘蒼の意識は浮上した。
……。
「覚えてる……」
私は自分の手を見て確かにそう言った。
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!
前も、横も、首が飛んだ死体。
通路には元死神の死体。
全部忘れて、何も知らないまま繰り返されるから、私の精神は保たれていたのに。
私は、この老いることが許されない異空間に、忘れることもできないまま、永久に囚われることとなった。




