第六話 原点回想
私の視界に飛び込んできたのは、あの時の殺人鬼だった。
六年前。
私がまだ、小学校三年生だった時の事。
当時の親友、氷室光君が生きていた時。
私達はとても仲が良かった。
この頃は皆性別で別れて遊ぶ子供たちのほうが多かったけれど、私達は違った。
お互い絵を描くのが好きで、よく光君の家に遊びに行って絵を描かせてもらった。
私の家に来ることもあった。
「蒼ちゃんは絵が上手だねぇ、好きっていう気持ち、伝わってくるよ」
「へへへへ、ありがとう。光君。光君こそ、楽しそうに描いてていいじゃん」
こんな会話を繰り返してた。
光君は「男子なのに、絵を描くのが趣味とか気持ち悪い」ってよく言われてたけど、その度に怒って言い返してた。
気弱ではあったけれど、ちゃんと言い返せてたのは今でも凄いと思える。
「言いたいことをハッキリと言う」っていうのは、大人でも難しいから。
そんな感じで仲が良かった私達。
あの時、あんな事件さえ起きなければ、今も親友でいられたハズなのに。
七月一日。
暑い夏の日。
悲劇が起きた。
事件当日、私は光君の家に泊まることになっていた。
七月一日は光君の誕生日で、お祝いするという話だった。
私は光君を驚かそうと、約束よりも早く家へ向かった。
窓から家の様子を覗いた時、私は見た。
見てしまった。
三十代位のおじさんが返り血で顔が真っ赤になっていたのを。
光君を、お母さんを、お父さんを、滅多刺しにしているところを。
怖かった。
必死に息を殺して物陰に隠れた。
やがて、男は慌ただしく出ていった。
それを見た私は、急いで近所の人に伝えて、通報してもらった。
私は必死に犯人を見たことを伝えた。
けれど、大人達は真剣に対応してくれなかった。
「きっと、気が動転しているんだね」とか。
「ショックでアニメの内容と混じってるんだね」とか。
特に警察がそうだった。
だから、子供扱いされるのが嫌い。
私の話を真面目に聞いてくれたのは母だけ。
同級生に話しても、揶揄われるだけだった。
唯一の救いといえば、光君の妹である灯ちゃんが殺されずに済んだこと。
この時ばかりはうちの学校が休日に遠足がある事を感謝した。
事件の後、灯ちゃんは親戚に引き取られた。
だから、その後は分からない。
私が大嫌いな警察によると、金品を狙った無差別殺人だったらしい。
母から聞いた。
今思い返すと、自分でもよく無差別殺人とか分かったな、と思う。
なんで光君達が死ななければならなかったのか。
それが知りたかった。
私は犯人を恨んでいたが、警察はもっと恨んでいた。
いや、恨みを通り越して憎んでいた。
だって、まだ犯人が捕まっていないから。
私は何よりその事実に腹を立てた。
そして、小学生三年生でありながらも、必死に犯人について調べた。
絵を描くことを捨てて。
パソコンにかじりついて。
今日までずっと調べてた。
何の情報も得られなかった犯人が、今、私の視線の先――モニターの中にいる。
老いてはいるが、確かにあの犯人だった。
両手両足が椅子に縛り付けられている。
そして時折、「おい!何なんだ!ココから早く出せ!」と叫んでいる。
「橘さん、驚いた?これがプレゼントよ」
ニコリと笑い、そう言う。
「あなたに二つの選択肢を与えるわ」
スッと左手の人差し指を立てる。
「一つはこの列車から出るということ。出たいならそこにあるブレーキを引きなさい」
右手でそう指差す。
そして、右手の人差し指を立てる。
「もう一つはこの男に報復すること。私がそれだけの力を与えるわ。ただし、この選択をするなら一生私の下につくこと」
それは、駒へと成り下がることを意味していた。
どちらか一方のみ。
私は必死に悩んだ。
この列車から降りたい、ただそれだけ。
この気持ちはたった今吹き飛んだ。
私以外の人ならきっと、迷わず出るだろう。
でも、私は違う。
この六年間、男について、本当に必死に探した過去がある。
ここで降りたとして、日常が戻ったとしても、報復のために生きてきた私の人生はどうなるの。
光の敵を討とうと頑張ってきた私はどうなるの。
私は――。
言いかけた瞬間。
ドォォォォォン!
大きな落雷でもしたかのような音にかき消された。
「あら、このタイミングで着いてしまったの」
困り果てたように顎に手を当てる。
そして、ブチ破られた車掌室の扉の奥から、黒煙の中から、栞音が現れた。




