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幽囚葬列  作者: 或鏡α
第一章 軌道と言う名の鎖

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第二話 束の間の休息の終わり

「お姉さん、名前は?」

唐突な問いかけだった。

少女はレモンの味の酸っぱさに目を細めている。

「……。橘蒼よ、アンタは?」

私は喉の震えを必死に抑えて問い返した。

少女は飴をガリッと力強く噛み砕き、ジッと私の方を見る。

栞音しおんいかづち栞音。雷に栞と音」

そうやって空に字をなぞった。

「名前は好きだけど苗字は嫌い。過去に囚われてるから」

言い終わると手を止め、下ろした。

「ま、橘にそんなこと関係ないか」

空に目を向けていたが私に視線を戻した。

そして後ろにあった棺桶をコンコン、とノックするように叩く。

「葬儀屋として見守るよ。自称だけどね」

私はワナワナと震えた。

そして我慢ならなくなって叫んだ。

「何が『葬儀屋として見守る』よ!アンタ、栞音って言ったっけ?頭おかしいんじゃないの!?」

今までの人生の中で一番感情を込めて叫んだ気がする。

「頭おかしいとはよく言われる」

平然とそう言われてポカンとした。

え、自分でそれ言う?

思わぬ返事に私は戸惑いを隠せなかった。

そして、そんな私の後ろにそっと栞音は指を指した。

「あー、橘。後ろ」

まるで汚物ゴミを見るような目で私の後ろを見ている。

正直、振り向きたくなかった、なかったけれど振り向いてしまった。

私は更なる恐怖でその場から動けなかった。

息の仕方も忘れてしまう程に。

だって、だってそこには肉の輪郭を失い始め、眼球があらぬ方向に向いている生物がいたから。

異常ではあったが、さっきまで確かに人の形をしていた。

それなのに、今はまるでゾンビのような姿に。

混乱と恐怖で上手く息をできずにいた。

息、息、息、息!

必死に自分の体に言い聞かせた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

生物はその間にボドボドと肉を溶かしてよだれを垂らしている。

溶けた肉はスマホの画面に落ちる。

怖い。

息ができても体が動かない。

もはや、手と言っていいのか分からないものに私の肩を掴まれる。

熱い。

熱湯をかけられたみたいに熱い。

私、この生物なのか分からないヤツに殺されるのか、そう思った瞬間だった。

「だから言ったじゃん『あんまり大きな声を出さないほうが良い』って」

栞音は「ハーッ」とわざとらしくため息をつく。

「後ろ、見ないほうがいいよ」

その瞬間、生物の首は飛んでいた。

え?

声も出せずに状況を理解できなかった。

白い襟の制服は返り血で赤く染まっている。

生物の頭からは血が止まることなく噴き出ている。

「うっ……」

吐き気がしてきた。

口を押さえ、しゃがみ込む。

「私は言ったからね?『見ないほうがいい』って」

吐き気を催してる私も見下ろしながらそう言った。

すぐに動けるわけない。

たとえ、首だけでも。

頭がおかしい。

何で人の形をしていたのにゾンビみたいな姿に変貌しているの?

何でそんな躊躇いなく首を飛ばせるの?

この閉鎖的空間は何もかもおかしい。

「はい、コレ」

私に黒いハンカチを差し出してきた。

「顔、返り血がベッタリと付いてる」

顔を指差しそう言われた。

震える手でハンカチを受け取る。

そしてゆっくり顔を拭う。

……今は栞音の言う事を聞いた方がいい。

さっきの件で嫌というほど分かった。

動かないハズの体を本当無理に動かして立つ。

「次から感情を込めすぎて叫ばないほうが良いよ起きるからさ」

体の震えが収まらない。

「ま、私の言い方も悪かったかな」

頭を掻きながらそう言う。

クスクス、クスクス。

笑い声が響く。

あの子供達の声だ。

不自然な位同じタイミングで、同じ音程で。

 直後、天井から重いモノが降ってきた。

死神だ。

見るからに死神だった。

ボロいマントを身に纏い、身の丈程に大鎌を手に持っている。

栞音との違いは「生きている」か「死んでいる」か、か身なりが「綺麗」か「そうでないか」位の違い。

雰囲気がとても似ている。

でも、どこか決定的に違うところがある。

だって、目の前の死神が救いの神に見えるのだから。

私は魂が震えるほどの安息を覚えた。

フラフラとした足取りで死神に近寄る。

私を助けてくれ。

それだけだった。

「痛っ」

額がジンジンする。

「駄目だよ、あんなのに惹かれちゃ。でも、デコピン程度で正気に戻るなんてやっぱり橘は()()()()()だね」

普通の人間?

この言葉に引っかかったが今の私に確かめる方法はなかった。

そして、我に返った私はもう一度死神を見る。

そこには救いの神などはおらず、嫌悪するほどの死臭を放つ死神だけがいた。

……私、どうかしてたな。

こんなものに惹かれたのかと思うとゾッとする。

「いっち、にっ、さんっ……しっ」

そんな私の隣で呑気にストレッチする栞音。

突然ピタッと動きを止め、後ろに背負っていた鎌を手に取る。

そして一言言った。

「葬儀開始――」

その言葉で空気に重みが一気に増した気がした。

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