第一話 目覚めと現実
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
規則正しい振動音が私の意識を揺らす。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
私はしばらく揺られていた。
が、「ガタン!」と一際強い揺れで私の――橘蒼の意識は浮上した。
「んー?ココどこ?」
私は眠くて目を擦った。
視界はぼんやりとしている。
しかし私は確かに視界の端、つまり隣の座席に「ナニカ」を見た。
ゆっくりと横を見てみる。
――そこには電源のついていないスマホをただひたすらにスクロールしている成人男性がいた。
しかも、画面には赤黒い液体がベットリとついている。
うん、寝ぼけてるな……私。
頬を思いっきりつねる。
痛い。
頬が赤く腫れる。
そして今一度見てみるがそこには変わらず成人男性がいた。
前を見てみる。
そこには二人の子供がいた。
大きな絵本を広げて楽しそうに読んでいる。
普通……。
であってほしかったなぁ……。
絵本を逆さまにしてる時点でダメなのよ……。
まるで当たり前みたいに。
時折、不自然な位同じタイミングで同じ音程で笑っている。
助けを求めるように外を見た。
内側が異常ならきっと外は正常……。
そんな私の浅はかな考えも虚しく散った。
いつもの明るい街並みはどこにもなく、そこには淀んだ赤い景色のみが広がっていた。
「あ、コレ詰んだわ」
私はただ現状を受け入れるしかなかった。
それでも、私はこの列車から降りたいと願った。
その直後、後ろの席から「クチャッ」と場違いな咀嚼音が聞こえてきた。
「……起きた?語彙力ないね、お姉さん」
姿は見えない。
ただ、背後から鈴を転がすような少女の声が静かに響いた。
私が恐る恐る振り返ると――そこには整った黒いスーツに身を包み、巨大は鎌と棺桶を傍らにハンバーガーを頬張る少女が佇んでいた。
見るからに完成された「死」だ。
ハンバーガーを頬張ってさえいなければ。
「あ、コレ本当に終わった」
期待を裏切るさらなる絶望に、私はニ度目の独白を漏らす。
「あーそうそう、その『詰んだ』や『終わった』っていう感覚は正しいよ。ここ、死ぬ順番待ちの列だから」
彼女はにっこかと、残酷な慈悲を込めて笑った。
「あ、安心して?最後までちゃぁんと見届けてあげるからさ」
「なっ……死ぬ順番待ち!?何それ、冗談でしょ!?っていうか何でアンタはこんな時にポテトとハンバーガーなんて食べてるのよ!」
私の必死な叫びを少女はパチクリと瞬きをして受け流した。
「お姉さん、うるさい」
口元についたケチャップ。細い指で無造作に拭うと、それをペロリと舐めとった。
「何よその言い方、子供扱いならやめてよ!」
恐怖を紛らわすようにもう一度声を張り上げた。
「あーもう、うるさいって言ったじゃん」
少女はわざとらしく耳を塞ぐ。
「私、極端に大きな音とか高い音。無理だから」
不満気な顔をしている。
「後、あんまり大きな声、出さないほうが良いと思うよ」
そして、あやすような手つきで棺桶の隙間をゴソゴソと漁り始めた。
「お姉さん、ハンバーガーかポテトいる?それとも甘い物欲しい?それならジュースと飴ちゃんあるよ」
「……。は?」
差し出されたのは少ししなびたポテトと、どこにでも売ってるようなレモンの飴玉。
地獄真っ只中でピクニックに誘われているような感覚。
目の前の少女には、悲哀も恐怖も通じない。
「……いらない。っていうか、今そんなの食べられるわけないに決まってるでしょ!?」
「あーそう?残念。美味しいのになぁ」
少女は本当に残念そうに眉を下げると、透き通った黄色い飴玉を口に放り込んだ。
コロ、コロ、コロ……。
鉄の臭いが漂っている中、場違いなレモンの匂いが混ざる。
「酸っぱ……。」
少女は満足げに目を細め「葬列」の真ん中で、ただ微笑んでいた。




