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プロローグ
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
「あ、ああ…っ」
喉の奥から出てきたのは乾いた声にならない悲鳴だった。
今、自分が触れているのは冷たい鉄の床ではない。
さっきまで確かに同じ乗客「だった」人達の液体だ。
温かい。
生温かく、ひどく鉄の臭いがする。
肉の輪郭を失い、赤黒いスープに男は塗れている。
助けを呼ぼうにも声は出せないしスマホを使おうにも、指が滑って上手く操作ができない。
クソっ。
画面にはベッタリと赤黒い手形がつくだけで現状は
全く変わらない。
誰か、誰でもいい。
切実な願いだった。
その時、閉鎖された車両の奥。
暗闇の中から滅紫色の、深いフード。
そこから覗く異様に長い髪。
それらを兼ね備えた少女が暗闇の中から現れた。
男は必死に手をのばす。
自分を助けてほしい、ただそれだけだった。
しかし、少女は男の方を見向きもせず、男の近くに落ちていた「何か」を拾い奥の車両に立ち去った。
まるで男の存在など最初からいなかったかのように。
その瞬間、赤黒い液体から無数に手がのび
男の体を絡め取った。
男の視界は赤く染まった。
愛する者の温かみも、心臓の鼓動も、全て、全て忘れてしまい呑み込まれていった。
――これは、生者が絶望し、葬られていく話。




