第十話 後悔と現実
「で、列車の件はどうだった?」
食い気味で聞いてくる。
私は目をそらした。
左下に無意識で。
どうやらそれで察されたらしい。
「ふーん、そっかそっか。ま、話したくないなら話さなくていいよ」
……こういう時は気遣いできるんだよなぁ。
ムカつくときのほうが多いけれど、こうやって気遣ってくれる。
ムカつくときのほうが多いケド。
「でも、僕かナユタ辺りが付き添えばよかったかな」
ソファにボフッと音を立てながら座る。
「こっち来い」と言わんばかりに手招きしてくる。
私は「ハイハイ分かりましたよー」と言わんばかりの顔をする。
五月雨の真正面に女王様のようにドカッと座る。
「五月雨もウツロギも必要ない。いたって意味無かったろうから」
プイッと目をそらす。
「意味ないかなんてやってみないとわからないじゃないか」
少し私は黙ったがすぐに口を開いて言った。
「分からなかったらどうするわけ?」
五月雨がニッコリ笑う。
「分からないから、やってみるんだよ」
硬直した。
なんだそれ。
「はぁ?」
呆れた。
何言ってんだ?
「何その因果ループ的なやつ。ワケが分かんないんだけど?」
私には本当に訳が分からなかった。
「ま、今は分かんなくていいよ。意味が分かったらきっと、ポジティブになれるだろうから」
さっきと同じようににっこり微笑んでくる。
「って、僕が話したいのはそういう話じゃなくて……。実際は一人で行ったこと、後悔しているんだろ?」
ギクッ。
ず、図星だ……。
本当にわかりやすいんだな、私。
てゆーか、さっきは話したくないなら話さなくていいって言ったのに。
……。
嫌なことを思い出した。
自分の判断ミスで助けられなかったなんて。
これでも私は、雷栞音なのか?
いや、人のことを最低限でも助けられないから雷栞音なのか?
座る体制を普通にした。
そして俯いた。
俯いてしまった。
助けたくても、もう助けられない状態。
ああ、せめてウツロギがいてくれたら、結果は変わってたのかな。
ポタっ、ポタっ。
閉め切れていない蛇口から零れ落ちてくる水のように、涙が静かに零れた。
「アレ……?」
結露した窓をのぞき込んでいるかのような視界に、すぐさまなった。
自分の膝に斑点ができ始める。
感情が、火山のように噴火しそうになった。
だから、必死に奥歯を噛みしめる。
そして、鋭い痛みが走った。
だが、涙だけは零れ落ち続ける。
蛇口がまだ、閉まりきっていない。
五月雨が心配そうに見てくる。
ああ、クソ……止まれよ……涙。
そう思っている間も涙はボロボロ零れ落ちる。
「ねぇ……五月雨……私って、やっぱり要らない子なのかな」
涙は相も変わらず零れ落ち続ける。
「……正直、僕がどうこう言う資格は……ない。だからね、今はただ……吐き出せば、いいと思うよ」
その言葉で、限界が来た。
「うわぁぁぁん……うわぁぁぁん……ゴメン、ゴメンねぇ皆……もっと、もっともっともっともっともっと寄り添えばよかった……後悔しても仕方ないケド……ゴメン……ゴメンね……」
幼児退行したみたいになった。
それからはただ、何も言わずに黙って見ていた。
黙って、私の話を聞いていた。
「『今更後悔すんなよ』とか皆に……言われちゃうよねぇ……」
五月雨がスタスタ歩いて隣に座った。
チラッと私のほうを見て、何も言わずにそこにいた。
それからは静かに、泣き続けた。
それこそ、涙が枯れるまで。
僕はこういう時、どう声をかけたらいいのだろうか。
ただ、僕は黙って栞音の頭をポン、と軽くで叩いた。
顔は、見なかった。
いや、見ることができなかった
顔を見たら、きっと「泣いて悪かった?」とか「アンタに心配されるなんて末期……」とか涙を拭いながら言って、強がって、泣くの、止めちゃいそうだった。
暫くして、泣き疲れたのか寝てしまった。
僕はそっと毛布をかけ、自室へ向かった。
早速、作業台と向き合う。
「これは……時間かかっちゃうなぁ……」
栞音には申し訳ないけれど、これは正直酷いなんてものじゃない。
特に鎌。
無理やり電気を流し込んだせいで回路がショートしてる。
「戦闘もしてないだろうに、僕の仕事を増やすなよ……と言いたいところだけど……僕はこれが仕事だからな、なーんも言えんわ」
そして他に頼まれた棺桶、星空も隅々まで見た。
「んー……二つは大したことないけれど徹夜コースだな、こりゃ……」
「ハーッ」とため息をつく。
「仕事というか担当というか……やっぱ疲れるねぇ……それに、家は向こうと違って四六時中人手不足だってのに……」
頭をボリボリと搔きむしる。
情報集めるのに情報屋使ってるし。
その情報屋使うには金かかるし……。
あー、ヒヨリさん様様だな。
とはいえヘッドハンティングしたいなぁ……。
ハッカー辺り。
……。
「すっかり裏社会に染まってきてるなー……」
家を出てから早三年。
「自分はこの生き方に後悔してないけど、栞音はどうなのかな」
ポツリと思わずこぼした後、本格的に作業台へと向かった。




