第十一話 夢中遊泳
――夢中。
ゆらり、ゆらり、と何かに纏わりつかれているような感覚。
この感覚を、私は知っている。
コレで三度目だ。
目をゆっくりと開く。
今回、目の前に広がった景色は宙だった。
浮いていた。
ウツロギみたいに。
「え?へっ!?」
下には、塵のように小さくなった景色だけだった。
「いや、子供みたいに泣いてたよな?」
あまりの光景に、反射で頬をつねる。
痛い。
自分でも結構加減をせずにつねったから結構痛い。
こんな光景なのに、痛かった。
「いや、流石に夢……だよな?流石に」
ウツロギは出張行ったし。
「コッチ」
遠くで小さく手を振る青年。
「あ。これ……夢だ」
確信した。
だって、私がコイツ――クロムに会うのは、夢の中だけだから。
見るからに好青年。
今にも消えてしまいそうな儚げな風貌。
ふわり、ふわり、と慣れないながらにも、グラつきながらも、近寄る。
「クロム、何の用」
首を傾げる。
「用?それはしぃの方。今日は」
……?
「分かってないのか」と言いたげな表情で見てくる。
「僕は君の捌け口」
「はけ……ぐち?」
「あーえっと……簡単に言ったら相談窓口……的な」
「え、でも前までそんな雰囲気じゃなかった……あ、でも前はサキガケ?だったよーな……」
クロムに関してはとりわけ特殊だから混乱する。
「……気にしなくて、いいと思う」
一言だった。
「しぃが今考えるのは、矛盾でしょ。そっち、考えなよ」
ジッと、濁りない目で見つめてくる。
説明口調で淡々としている。
でも、図星……なんだよなぁ……。
「多分、クロムの言う通りなんだよなぁ……。なんか悔しいわ」
「……まずはリラックス、しようか」
私の左手を握る。
温度は、感じない。
温かくもないし冷たくもない。
その手にリードされる。
ふわり、と体が勝手に浮き上がる。
今よりもさらに上空へ行くために。
「いいもの、見せてあげよっか」
左手の人差し指を振り下ろす。
遠くから何かの大群が押し寄せてくる。
目をよく凝らして見てみる。
金魚。
押し寄せるといっても水中を優雅に泳ぐような感じで。
その大量の金魚が、そのまま私たちに突っ込んできた。
美しい鱗の輝きが、掠める。
「キレイ……」
瞳孔を大きく開いて見入った。
今までロクなものを見せてもらえなかった私が、本気でキレイと思えて、本気でずっと見続けたいと思えるものだった。
「顔、明るくなった」
私のことを指差して、心なしか嬉しそうに微笑んだ。
金魚の大群が通り過ぎた後、私は少しばかり悲しい気持ちになった。
祭りが終わった後の余韻というか……。
何とも言えない気持ちになった。
「話、聞くから」
ポン、と目の前に吊り下げ椅子が二つ出現した。
「座ろ」と言いたげな目で私に訴えかけてくる。
私は大人しく座った。
心のわだかまりを解くために。
……他人に話していいものだろうか。
黙って下を向いていた。
「大丈夫だから、時間、あるから」
クロムなりに私に気を使ってくれているのだろう。
私は、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。




