第九話 宵の戯れ
死那と別れた後、私は足早に隠れ家へと向かった。
派手なネオン街から逸れて路地裏に入る。
入る直前にチャラチャラしたチンピラ集団に絡まれた。
「おい、嬢ちゃん。ここはアンタみたいなガキが入るところじゃねぇよ?さっさと帰んな」
嬢ちゃんなのかガキなのかどっちなんだ。
それに、汚らしいし面倒くさい。
それが目つきに出ていたらしい。
チンピラ集団があからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
「つーかこいつ、ハロウィンじゃねぇのに玩具の鎌と棺桶を一丁前に背負ってやがる」
ジロジロ見てきて気持ち悪い。
てゆーか、玩具?
これは特注の鎌と棺桶だっつーの。
これの良さがわからないボンボンめ。
これも目つきに出ていたらしい。
「さっきから何なんだよ、その目つき。生意気なんだよ!」
一人が殴りかかってきた。
それに乗じて後ろで見ていた他の奴らも殴り掛かりに来る。
とりあえず拳で反撃しようとしたその瞬間。
パシッ。
拳を軽々と掴んだ。
チンピラの背後に立っていた人物が。
「何しやがんだっ……!」
バッと振り返ったチンピラが見たのは――私の協力者である東雲五月雨だった。
「しっ、東雲さん!?」
心底驚いたような顔をするチンピラ共。
「一人対多数は関心できないよ。そして決して君たちが触れていい存在じゃない。あのサキガケ君の婚約者だからね」
サーッと見るからに青ざめている顔。
そこにとどめを刺すかのように五月雨が言い放った。
「えーと、君たちは確か岩城さんのとこに入ったばかりの下っ端かな?サキガケ君に言ったら君たちはどうなるかな。明日には名前、消えちゃったりして」
この言葉を聞いた瞬間に「す、すみませんでしたぁ!」と言いながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「五月雨、アイツの名前を出さないでくれる?反吐が出る」
「ゴメン。でもこれが一番手っ取り早くってさ」
そう言い軽く謝る五月雨。
一応、コイツは世界で五本指に入るくらい天才な付与術師なハズなんだけどな。
エリート中のエリート。
そんな奴が裏社会に入り浸ってる。
名乗れば並大抵の奴はビビって逃げる。
そうじゃない奴らは関係を持とうとすり寄ってくる。
五月雨はそういうヤツ。
……なんで私の周りの奴らって天才が多いんだ?
「アイツの名前なんか出さなくても私が返り討ちにしていたし、名乗るとしても五月雨で十分でしょ。だから過度な威圧はヤ メ テ」
完全にスイッチが切れた。
「わ、分かった、分かったからその怖い顔をするのをやめて……」
今にも泣きだしそうな感じで顔を隠す。
父親みたいな発言するときあるのに、こういう押しには弱いんだよなぁ……。
「ハイハイ、分かりましたよー。ヤメルからさっさとこのスーツ仕立て直して。」
無理に雷を使ったせいでボロボロになったスーツを指差す。
「どうせ僕はこき使われる下っ端ですよ」
シクシクと泣くフリをしているが気にせず続けて言った。
「それと大鎌、あと念のため星空のメンテナンスもヨロシク」
泣くフリがピタッと止まった。
「人の話聞かないところ、死那ちゃんそっくりだよ」
「はぁ!?噓でしょ!?」
五月雨が黙った。
何か、嫌な予感がする。
「ふっふっふっ……」と悪い顔をして言いやがった。
「ところがどっこい現実なのさ!大人しく血がつながってること、認めたら?」
「ヤダ」
「……小学生かな?低学年の」
「う、うるさいわっ!対して年齢差ないのに大人振るなっ!」
少し考えこんだ後、サラリと言った。
「でも、高校生から本格的に大人の階段に上り始めてない?っていうか前は死那ちゃんに対してそんなにムキになってなかったよね?急にどした?」
唐突に真面目なトーンになったから言ってやった。
「よそはよそ、うちはうちですー」
舌を出して言った。
「昭和のお母さんが子供を嗜めるときにしか聞いたことがないや」
「五月雨の思考、昭和で止まってない?」
「酷いなぁ……心外だなぁ……。直すの、やめちゃおっかなー」
チラリ、チラリとわざとらしく見てくる。
嘘だってわかってても懇願しなきゃいけないやつだな。
「ちょ、お願いだからそれはヤメテ!」
必死に懇願した。
「アハハ、冗談だって。こっちだって栞音がキヲクノカケラを集めるのやめられたら流石に困るし」
テヘペロ、的な感じで頭に拳を当てて、ウィンクしている。
……わざと乗ってやったのにムカつくな。
何も言わずに五月雨を捕えようとしたら、避けられた。
「アレぇ?フィジカル弱々な僕に避けられるなんて、大丈夫ですかぁ?」
口に手を当てて「ぷぷぷぷぷ」と笑ってくる。
お、大人げない……。
そして無性にムカつく。
「待てやーっ!」
走って追いかける。
「待てと言われて待つ馬鹿はいないよー。犬以外は」
走って隠れ家へと向かう五月雨。
暫く走り続けていた。
が、私のほうが先に限界が来た。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……五月雨……オマエ……自分に俊足とっ……体力増加……付与したろ……」
疲れた。
息が上がって、うまく呼吸ができない。
「おー、よくわかったね。体力増加はバレるとして、体力増加は本っっっ当に少しの倍率しかかけてなかったからバレないと思ったんだけどなぁー」
手を叩いて感心している様子。
「つーかっ……オマエはっ……私よりも少しだけ足が速いだろうが!」
半ギレ状態で言った。
「そういえばそうだった」
またもやテヘペロ。
「んなこと、どうでもいいからサッサと隠れ家に帰る」
ヨロヨロとした足取りで向かう。
「あ、僕を捕まえるのは諦めたのね」と言わんばかりの視線。
……逆になんで諦めないと思った?
付与してる相手に元から多少疲弊してる体で勝てるワケないでしょーが。
そう叫びたい気持ちを抑えながらイライラを溜め込んでいた。
「どした?何か嫌な事でもあった?」
大半はオマエのせいだよ!
これは喉元まで出かかった。
「なーんて、流石にやりすぎた。ゴメン」
手を合わせて謝ってくる。
「じゃあ、さっさと結界解いてよ」
目の前にあるただの壁を指差す。
「え、別に解かなくても通り抜ければ……」
「解いてね?」
「ハイゴメンナサイ、トキマス」
スッと札を出し、唱える。
「付呪、解」
そう言った途端、目の前の壁が立派な邸宅へと続く道に早変わり。
「帰ろっか]
私たちは歩いて行った。




