表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛してる、だから、さようなら~竜の愛し子の私は、最愛の王太子を救うため悪役令嬢を演じ続けた~  作者: 硝子細工の森


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/24

哀しい命と共犯の誓い

 学園の片隅、リリアーヌが毎日慈しむように育てていた花壇は、その日、無残な光景へと変わり果てていた。


 そこに植えられていたのは、数年に一度しか開花しない、瘴気を浄化する力を持つ貴重な薬草達。


 いつか殿下や皆さんの役に立ちたいと、リリアーヌが育ててきた希望の象徴だった。


 しかし、その可憐な茎は無残に折られ、白く清らかな花弁は、まるで悪意を叩きつけたかのように土の中に埋もれている。


「……そんな、どうして……。あんなに元気に咲き始めていたのに……」

 リリアーヌは花壇の前に崩れ落ちた。

 溢れ出す涙が溢れ落ち、彼女の震える手は、折れた薬草の茎を拾い上げることしかできない。

 彼女には心当たりがなかった。なぜ、こんな事をされなければならないのか。


「……何をしているのです、リリアーヌ様」

 背後から突き刺さるような冷たい声がした。

 リリアーヌが驚いて振り返ると、そこには輝く銀髪を揺らし、扇を片手にしたセレスティーヌが立っていた。


「あ……セレスティーヌ様、これは……」


「言い訳など聞きとうございません。平民上がりの聖女様は、地面に這いつくばって。花の愛で方もご存じないのね」

 セレスティーヌは取り巻きの令嬢たちが見守る中、リリアーヌの正面に立つと見下ろした。

 周囲からはクスクスと、蔑むような笑い声が漏れる。

「そんなにが土が好きならば、膝まづき這いつくばりなさい?」

 冷酷な言葉と共に、セレスティーヌは聖霊の力を使い、リリアーヌの足元に冷たい水を撒いた。

 リリアーヌはバランスを崩し、泥の中に手をついてしまう。


「ひどい……」


 野次馬たちが満足して去って行くと、セレスティーヌもまた、踵を返して去ろうとした。


 ――だが、誰もいなくなったのを確認した瞬間、彼女は立ち止まった。

 (……泣かないで、リリアーヌ様。この薬草には、竜の目覚めに呼応した、地脈の毒が溜まり始めていたの。

 このまま育てれば、あなたは浄化の時に、その毒で死んでいたでしょう……)

 セレスティーヌが薬草を荒らしたのは、土壌に染み出した目に見えぬ呪いを、自身の月の魔力で相殺し、地ごと浄化するためだった。


「……リリアーヌ様。立ちなさい。誰も見ていないわ」

 その声には、先ほどまでの刺々しさは微塵もなかった。


 セレスティーヌはリリアーヌに背を向けたまま、自身の絹のハンカチを落とした。

「そのハンカチを使いなさい。泥に含まれる瘴気を浄化するすべを、あそこに置いてきた本に記しておきました。……それから、それを飲みなさい」


 リリアーヌが驚いて顔を上げると、目の前に小瓶が一つある。中身は、セレスティーヌが自らの月の加護を込めて作った、強力な魔力回復薬が入っている。


「……セレスティーヌ様。どうして、私をいじめるふりをして、いつも助けてくださるのですか?」


 リリアーヌは気付いた。

 セレスティーヌがわざと踏みにじった花は、実は強力な呪いを吸い込んだ魔草になりかけていた。

 リリアーヌが知らずに触れて呪われないよう、彼女が先んじて踏みにじっていたのだということを。


「勘違いしないでちょうだい。聖女が無様に倒れて、アルフレート様に影響が出るのが煩わしいだけですわ」


 セレスティーヌは振り返らずに、震える声で続けた。

「いい、リリアーヌ様。この国を、殿下を……これから守れるのは、私ではない。月の加護を持たない、けれど温かな光を持つあなただけなの」


「……セレスティーヌ様、あなたはまさか」


「次に会う時は、もっと酷いいじめをしますわ。……殿下の前で、私を軽蔑しなさい。私を、救いようのない悪女だと思い込みなさい。それが、私からあなたへの命令よ」

 セレスティーヌは、込み上げる涙を隠すように、強く扇を開いた。

 リリアーヌはその背中が、まるで今にも消えてしまいそうなほど細く、震えているのを見た。


「……畏まりました。私は、あなたの望む通りの聖女になります」


 リリアーヌは、ハンカチを握りしめ、去り行く背中に向かって、誰にも聞こえない声でそう誓った。


 これが、二人の少女の悲しい共犯関係の始まりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ