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愛してる、だから、さようなら~竜の愛し子の私は、最愛の王太子を救うため悪役令嬢を演じ続けた~  作者: 硝子細工の森


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優しい邂逅

 王立学園の入学式当日。


 今年は満開の桜の時期と重なり、学園の門をたくさんの淡い桃色が華やかに彩っていた。

 柔らかく、ハラハラと舞う花びらは、とても幻想的で儚く美しい。


「アル様、見てください。あんなに高い場所まで花弁が舞っていますわ」

 セレスティーヌは同じ年の婚約者であるアルフレートの腕をそっと取り、弾むような声で微笑んだ。


 彼女の銀髪は春の陽光を浴びて真珠色に輝き、その瞳は期待に満ちたきらめきを湛えている。


「ああ、本当に綺麗だね、レスティ。君と一緒に見る景色は、本当に美しい」

 アルフレートは優しく微笑み返した。


 彼もまた、セレスティーヌと同じ十五歳。王位継承者としての威厳を備えつつも、まだまだ少年らしさが残っていた。

 そして、その眼差しには幼馴染で婚約者である彼女への、隠しきれない深い慈愛があった。


 二人は、誰の目から見ても完璧な一対だった。名門公爵家の令嬢と、次代の王。彼らの未来は、約束された幸福の道を歩むだけだと、誰もが信じて疑わなかった。



 式典が始まる直前、学院の中庭で騒ぎが起きていた。


 新入生たちの波の向こうで、一人の少女が膝をついている。


「……申し訳ございません。わざとではなかったのです」

 震える声の主は、平民用の質素な制服を纏った少女、リリアーヌだった。

 彼女の足元には、誰かがわざとぶつかったのか、教科書が散乱し、おまけに泥が制服の裾を汚していた。


「平民が、この選ばれし者の学び舎に足を踏み入れるとは。身の程を知りなさい」

 取り巻きを引き連れた上級生が、嘲笑と共にリリアーヌを見下ろす。

 リリアーヌはただ俯き、溢れそうになる涙を必死に堪えていた。


 その時だった。


「――身の程を知るべきなのは、貴方のほうではありませんか?」


 凛とした声が響き、人だかりが割れた。

 現れたのはセレスティーヌ。

 彼女は躊躇うことなく彼女へ歩み寄り、自身の絹のハンカチをリリアーヌに差し出した。

「セレスティーヌ様……?」

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか」

 セレスティーヌの問いかけに、リリアーヌは呆然と顔を上げた。

「ええ、私は……ただ、本が……」

 アルフレートもまた、セレスティーヌの隣に立ち、散らばった教科書を自らの手で拾い上げた。

 王太子自らが泥のついた本を拾う姿に、周囲の貴族たちは息を呑み、先ほどまで嘲笑っていた上級生は青ざめて立ち去った。


「君が、噂に聞く平民の聖女だね。その魔力は国の助けになる。不当な扱いに屈する必要はないよ」


 アルフレートの差し出した手に、リリアーヌが恐る恐る触れる。

 その瞬間、リリアーヌの手のひらから、温かな淡い光が溢れ出した。

 彼女に宿る聖なる魔力が、アルフレートの持つ王家の魔力と共鳴し、周囲に心地よい風を吹かせたのだ。


「……あ、ありがとうございます。アルフレート様、セレスティーヌ様」

 リリアーヌの瞳が感謝と、そして初めて自分を肯定してくれた高位貴族の二人への憧憬で輝いた。

 セレスティーヌは、その光を見て、心から嬉しそうに微笑んだ。

「仲良くしましょう、リリアーヌ様。貴女のような力を持つ方がいれば、この学園はきっともっと素晴らしい場所になりますわ」


 これが、三人の始めての邂逅だった。


 一点の曇りもない、友情と慈愛に満ちた始まり。

 だが、この清らかな出会いこそが、後に続く残酷な運命への最初の歯車となった。



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