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愛してる、だから、さようなら~竜の愛し子の私は、最愛の王太子を救うため悪役令嬢を演じ続けた~  作者: 硝子細工の森


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寂莫

アルフレートside

 その夜、すべてが終わったあと。


 アルフレートはひとり、執務室に立ち尽くしていた。


 静かだった。

 静かすぎて、胸の奥だけがうるさい。




 四歳の春。


 王城の庭は広くて、冷たくて、ひとりだとすごく怖かった。


 礼儀作法を間違えた。

 叱られた。

 誰にも言えないまま、逃げるように庭の隅にしゃがみこんだ。


 ――もう、やだ。


 そんなことを思いながら、隠れて泣いていたとき。


 足音がした。


「……なんで、ないてるの?」


「だれかにいじめられた?」


 顔を上げた瞬間、世界が少しだけ変わった。


 そこにいたのは、同じくらいの歳の女の子だった。


 さらさらのきれいな髪。

 まっすぐ見てくる瞳。


 見た瞬間、理由もなく思った。


(この子、好き)


 そう確信した。


 まだ名前も知らないのに。

 話したばかりなのに。

 でも、どうでもよかった。


「……ここ、誰にも見つからない場所」


 そう言うのがやっとだった。


 すると彼女は、少しだけ首をかしげて


「じゃあ、ここにいればいいのね」


 当然みたいに隣に座った。


 その様子に驚いた。


 びっくりして、泣き止んでしまった。


 ただ、ひとつだけ思った。


(この子、ずっと隣にいてほしい)


(ずっと、好き)




 それからは、あっという間だった。


 彼女が来る日が、楽しみで仕方なかった。


 姿が見えない日は、落ち着かなかった。

 声を聞くだけで嬉しくて、名前を呼ばれると心が跳ねた。


 会えるたびに、もっと好きになった。


 理由なんていらなかった。


 好きだから好き。

 それだけだった。


 だから婚約が決まったとき嬉しかった。


(ずっと一緒にいられる)


 そう思って、嬉しかった。


 実はとても泣き虫な君。

 君と一緒にいるために、強くなろうと思った。



 ――なのに。


 すべてを失った今なら、意味が変わる。


 彼女がそばにいると、嬉しい。

 話せばもっと嬉しい。

 離れると、息が苦しいくらい寂しい。


 ずっとそうだった。


 それは恋だと思っていた。

 長い時間で愛に変わった一目惚れ。


 でも違う。


 違うのに、子供の頃は全部“好き”で説明できてしまっていた。


(なんで、気がつかなかった)


 アルフレートは胸を押さえる。


 思い出の中の彼女が、笑っている。


 庭の隅で、当然みたいに隣に座った少女。


 あのときの自分は、もう知っていた。


 この子がいないと嫌だって。


 この子がいると幸せだって。


 理由はない。理屈じゃない。


 世界がそう決めているみたいな感覚。



 アルフレートの喉が震える。


(ああ……そうか)


 気づいてしまう。


 恋よりも甘くて、愛よりも絶対的で。


 ただ君だけがすべて。


 それは。


 ――番。




「……セレスティーヌ」


 名前を呼ぶと、声がふるえる。


 もういない。


 もう届かない。


 


 あの庭の隅で初めてあった時から、好きだった。


 ずっと、最初から。

 愛してる。




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