寂莫
アルフレートside
その夜、すべてが終わったあと。
アルフレートはひとり、執務室に立ち尽くしていた。
静かだった。
静かすぎて、胸の奥だけがうるさい。
◇
四歳の春。
王城の庭は広くて、冷たくて、ひとりだとすごく怖かった。
礼儀作法を間違えた。
叱られた。
誰にも言えないまま、逃げるように庭の隅にしゃがみこんだ。
――もう、やだ。
そんなことを思いながら、隠れて泣いていたとき。
足音がした。
「……なんで、ないてるの?」
「だれかにいじめられた?」
顔を上げた瞬間、世界が少しだけ変わった。
そこにいたのは、同じくらいの歳の女の子だった。
さらさらのきれいな髪。
まっすぐ見てくる瞳。
見た瞬間、理由もなく思った。
(この子、好き)
そう確信した。
まだ名前も知らないのに。
話したばかりなのに。
でも、どうでもよかった。
「……ここ、誰にも見つからない場所」
そう言うのがやっとだった。
すると彼女は、少しだけ首をかしげて
「じゃあ、ここにいればいいのね」
当然みたいに隣に座った。
その様子に驚いた。
びっくりして、泣き止んでしまった。
ただ、ひとつだけ思った。
(この子、ずっと隣にいてほしい)
(ずっと、好き)
◇
それからは、あっという間だった。
彼女が来る日が、楽しみで仕方なかった。
姿が見えない日は、落ち着かなかった。
声を聞くだけで嬉しくて、名前を呼ばれると心が跳ねた。
会えるたびに、もっと好きになった。
理由なんていらなかった。
好きだから好き。
それだけだった。
だから婚約が決まったとき嬉しかった。
(ずっと一緒にいられる)
そう思って、嬉しかった。
実はとても泣き虫な君。
君と一緒にいるために、強くなろうと思った。
◇
――なのに。
すべてを失った今なら、意味が変わる。
彼女がそばにいると、嬉しい。
話せばもっと嬉しい。
離れると、息が苦しいくらい寂しい。
ずっとそうだった。
それは恋だと思っていた。
長い時間で愛に変わった一目惚れ。
でも違う。
違うのに、子供の頃は全部“好き”で説明できてしまっていた。
(なんで、気がつかなかった)
アルフレートは胸を押さえる。
思い出の中の彼女が、笑っている。
庭の隅で、当然みたいに隣に座った少女。
あのときの自分は、もう知っていた。
この子がいないと嫌だって。
この子がいると幸せだって。
理由はない。理屈じゃない。
世界がそう決めているみたいな感覚。
アルフレートの喉が震える。
(ああ……そうか)
気づいてしまう。
恋よりも甘くて、愛よりも絶対的で。
ただ君だけがすべて。
それは。
――番。
◇
「……セレスティーヌ」
名前を呼ぶと、声がふるえる。
もういない。
もう届かない。
あの庭の隅で初めてあった時から、好きだった。
ずっと、最初から。
愛してる。




