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愛してる、だから、さようなら~竜の愛し子の私は、最愛の王太子を救うため悪役令嬢を演じ続けた~  作者: 硝子細工の森


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月光の果て、透明なる翼

 その時、天を埋め尽くすほどの聖霊たちが集結し始めた。


 火の聖霊は冷たい青に、水の聖霊は白銀に色を変え、彼女の周囲を旋回する。

 彼らは歌い始めた。


 それは主であるセレスティーヌが、この数年、胸の奥に閉じ込め、押し殺してきた悲痛な愛の独白。


 言葉にならない慟哭が、風を震わせ、クリスタルのグラスを鳴らすような高く澄んだ音となって響き渡る。


「……聞こえる。これが、君の心か」

 アルフレートは涙を流しながら、その歌を聴いた。



『愛している』


『あなたを殺したくない』


『私を憎んで』


『どうか、生きて』



 聖霊達が奏でる鎮魂歌は、あまりにも純粋で、あまりにも哀しい彼女の本音を夜空に響かせていく。


 そして、聖霊たちは主人の最後を悟り、自分達が消滅するかも知れぬのに浄化の歌を歌いだす。


 聖霊達のセレスティーヌを救いたいという純粋な願いが歌になり光になる。

 光が浄化の力になりセレスティーヌの周りを優しく巡りだす。



 セレスティーヌ大好き


 愛してる


 僕達が助けてあげる


 泣かないで


 泣かないで


 竜の力は世界の力だよ


 怖がらないで


 巡り巡れば世界に還る


 大好きなセレスティーヌ


 君の為に歌うよ


 浄化、浄化、浄化


 竜の力よ世界に還れ


 大好きな君の為に浄化の歌を歌うよ




 声とは違う、想いがそのまま響きになった歌が世界に響く。聖霊達は自分達の存在そのものを力に変えて歌う。



 光あれ



 光に包まれてセレスティーヌから「竜の呪い」が剥がれ落ていく。呪いが銀色の光る花弁となって空へ舞う。

 それは、とても美しく神々しい光景だった。


「……アル、フレート様……」


 透明な翼が大きくはためき、彼女の体から更なる光の粒子が溢れ出す。


 セレスティーヌは、震える手でアルフレートの頬を包み込んだ。


「ダメだ! 行かせない! お前がいない世界を、俺に守れと言うのか!」


「愛してる、アルフレート様。……あなたを、そして、あなたが愛するこの国を、私は空から見守っていますわ」

 彼女が微笑むと、透明な翼が粉々に砕け、さらに眩い光が広がった。



「愛してる、だから、さようなら」



 群青の夜空が一瞬だけ昼間のように明るくなった。

 そして、国中に煌めく花弁と光の粒子が広がり、柔らかく降り注ぐ。


 アルフレートの手の中には、彼女の翼の欠片か、涙の結晶か。

 柔らかく煌めく小さな宝石が残された。



 白銀の粒子がゆっくりと地上へ降り注ぐ中、聖霊たちの歌声は、遠い、遠い子守唄のように消えていった。




「……愛してる、なんて。最後に言うのは、卑怯じゃないか」

 夜空を見上げる王太子の声は、静かな風に溶けて消えた。



 そこにはもう悪役令嬢も、竜の愛し子もいない。



 ただ、世界で一番優しい嘘をつき通した少女が遺した、美しい夜が広がっているだけだった。






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