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淡い名札と、海を渡る団扇  作者: 乾為天女


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14/45

第14話 裕子の厳しい声

 翌日の午後、尾路町商店街の集会所には、潮紙堂から借りた折りたたみ机が三つ並んでいた。


 窓の外では、港へ下りる坂道に白い日差しが残っている。路面の隙間にたまった雨の跡はほとんど乾き、魚箱を積んだ軽トラックが一台、ゆっくり通りすぎた。集会所の中には、団扇で首元をあおぐ音、古い椅子が床をこする音、紙コップに麦茶が注がれる音が、ばらばらに重なっていた。


 祐は入口近くの机に、名札返却簿の写し、本人確認の手順書、待合所の簡単な見取り図を置いた。見取り図には、名札棚、長椅子、団扇の置き場所、暑い日に窓を開ける順番まで、鉛筆で細かく書き込んである。昨日の鞆の浦の記録は、まだ新しい紙の匂いを残していた。


 文香は一番端の席で、補修済みの名札を入れた箱を膝にのせていた。箱の蓋に指をかけているだけで、開けようとはしない。裕子はその隣に座り、赤いペンのキャップを外したり閉めたりしている。キャップが小さく鳴るたび、壮翔がちらちらと見る。


 「その音、三回目から怖いんだけど」


 「怖くて結構です」


 「まだ誰も怒られてないのに」


 「怒られる準備がある人は、だいたい怒られることをします」


 壮翔は口を閉じ、麦茶の紙コップを両手で包んだ。祐は笑いそうになったが、今日の集まりがただの雑談にならないよう、資料の角をそろえた。


 今日の集まりは、淡名渡船待合所を残すための話し合いだった。正式な町の説明会ではない。けれど、商店街の人、渡船を使う島民、近くの宿の主人、古い待合所の前を毎日通る人たちが集まっている。八月上旬の説明会へ出す前に、反対や不安を先に聞いておく場だった。


 信清は壁際に立ち、窓から港の方を見ていた。天気は穏やかだったが、風の変わり目を確かめる癖なのか、何度もカーテンの揺れを見ている。愛衣子は入口で来た人の名前を聞き、明純は麦茶を配っていた。麦茶を配る声が大きくなりすぎるたび、裕子が赤いペンを一本、机に置く。明純はそのたびに声の高さを一段下げた。


 集会所の時計が二時を指した。


 祐は立ち上がり、まず頭を下げた。


 「今日は、淡名渡船待合所をどう扱うかについて、八月上旬に町へ出す前の確認をさせてください。残したいという気持ちだけでなく、危ないところ、困ること、費用のことも書きます。ここで出た意見は、名前を出してよいか確認したうえで、資料に入れます」


 言い終えると、前列に座っていた惣菜屋の店主が腕を組んだ。


 「つまり、残す方向で話が進んどるんじゃろ」


 裕子の赤いペンが、紙の上で止まった。


 「違います」


 声が、部屋の空気を一枚切った。


 惣菜屋の店主は眉を上げた。祐が口を開くより早く、裕子は続けた。


 「残したい人が資料を作っている、という段階です。町が残すと決めたわけではありません。安全基準も費用もまだ通っていません。『進んどる』と言うと、反対の人が置いていかれます」


 部屋が少し静かになった。


 祐は裕子の言っていることが間違っていないと分かっていた。けれど、言葉の角が、畳の縁に引っかかった釘のように見えた。惣菜屋の店主は腕を組み直し、口を結ぶ。明純が麦茶のポットを持ったまま、入口で固まった。


 文香は箱の蓋に添えた指を動かさなかった。


 次に、船着き場の近くに住む年配の男性が手を挙げた。


 「わしは、残すのはええと思う。ただ、最近は知らん人も来るじゃろう。夜に若いもんが騒いだり、火を使ったりしたら困る」


 「夜は開けません」


 裕子がすぐに答えた。


 「開放時間を朝と昼の短い時間に限定します。鍵管理者も決めます。火気厳禁。宿や商店街の宣伝物も置きません。そこまで決めないなら、開けません」


 「それは、まあ、そうじゃが」


 「まあ、ではなく、紙にします」


 男性は、喉の奥で小さく咳をした。祐は議事録へ「夜間利用への不安」「火気」「鍵管理」と書いた。裕子の言葉は必要な項目を正確に拾っている。だが、書きながら、祐は人の声まで赤い線で囲われていくような気がした。


 商店街の若い女性が、おずおずと手を上げた。


 「あの、名札を見に来た人が増えたら、うちの店にも寄ってくれるかもしれないので、少し案内札を置けたらいいなと」


 「案内札は置きません」


 裕子の返事は、女性の言葉が机に落ちる前に届いた。


 「待合所は商売用の棚ではありません。名札を見せ物にして、ついでに店へ回す形にはしません」


 女性の頬が、少し赤くなった。


 「そういうつもりでは」


 「そう見える置き方になるなら、同じです」


 明純が麦茶のポットを置き、何か言いかけた。祐は視線だけで止めた。ここで声を重ねれば、余計に絡まる。


 女性は膝の上の鞄を両手で押さえ、椅子の背から背中を離した。


 「じゃあ、いいです」


 その声は小さかったが、部屋の隅まで届いた。


 裕子の赤いペンが、紙の上を一度だけ走った。「商店案内不可」と書かれた文字は、まっすぐだった。


 文香が、箱の蓋をゆっくり撫でた。


 祐はその指の動きを見て、次の発言を促す前に、深く息を吸った。


 「今の意見は、待合所を商売に使いたいというだけではなく、商店街とのつながりをどう作るかという話でもあります。案内札を置くかどうかは別として、待合所へ来た人が困った時に、どこで水を買えるか、どこで休めるかは必要です」


 裕子の目が祐へ向いた。怒った目ではなかった。けれど、赤いペンの先が、机を軽く叩いた。


 「それは交通案内として別紙にします。店名の掲載基準を決める必要があります」


 「うん。そう書こう」


 祐は議事録に「来訪者の利便」「商店名の扱い」「掲載基準」と足した。


 若い女性は、まだ俯いていた。文香は箱から白い紙を一枚取り出し、半分に折り、その女性の前へそっと置いた。


 女性が顔を上げる。


 文香は、短く言った。


 「困る人の紙」


 「え?」


 「困ること、書いてください」


 それだけだった。


 女性は少し迷い、紙を受け取った。鞄から鉛筆を出し、何かを書き始める。裕子はその様子を横目で見たが、何も言わなかった。


 そのあとも、意見は続いた。


 古い建物に子どもが入るのは危ない。名札に書かれた名前を勝手に読まれたくない。掃除を誰がするのか。暑い日はどうするのか。台風前に誰が閉めるのか。寄付箱を置くのか。町外から来た人が写真を撮るのを止められるのか。


 裕子は答えた。


 短く、早く、間違いを残さないように。


 「掃除当番は名前で決めます」


 「寄付箱は置きません。金額と管理者が曖昧になります」


 「写真撮影は名札棚不可です。棚から離れた場所に案内を置きます」


 「子どもだけの入室はできません。大人の同伴が必要です」


 「台風時は信清さんの判断基準を資料化します。『なんとなく危ない』ではなく、風速、警報、欠航情報を見ます」


 どれも必要だった。祐はそう思いながら、議事録を書き続けた。


 けれど、話す人の数は、最初より少しずつ減っていった。手を挙げかけて下ろす人がいる。隣の人と小声で話し、そのまま黙る人がいる。壮翔は椅子の背もたれにかけた手を握ったり開いたりし、何度も口を開きかけた。


 最後に、淡名島から来た千代が手を挙げた。最初の返却で名札を待合所へ戻すと決めた、蜜柑畑の千代だった。今日も小さな籠を膝に置き、その中には青い蜜柑が数個入っている。


 「わたしは、裕子さんの言うこと、ありがたい思うよ」


 裕子の手が止まった。


 「古い場所を残すいうんは、夢だけじゃ済まんけえね。鍵も、掃除も、雨の日も、だれかがせにゃならん。そういう紙を作ってくれる人がおらんかったら、わたしらは懐かしいだけ言うて帰る」


 部屋の空気が、少し緩んだ。


 千代は籠の中の蜜柑を一つ、机に置いた。


 「じゃけど、怖い顔で言われたら、思い出まで叱られた気がする人もおる」


 裕子は、赤いペンのキャップをゆっくり閉めた。


 音は、さっきより小さかった。


 千代は笑わなかった。責める顔でもなかった。ただ、麦茶の紙コップを両手で持ち、少し冷めたお茶を飲んだ。


 裕子はすぐには答えなかった。


 祐は議事録に「思い出まで叱られた気がする」と書こうとして、手を止めた。この言葉をそのまま記録してよいか、千代に確認する必要がある。祐が顔を上げると、千代は小さく頷いた。


 「書いてええよ。わたしの名前も出してええ。蜜柑畑の千代で通じるけえ」


 裕子が、机の上の紙を見つめた。


 「すみません」


 その声は、会議用の声ではなかった。


 集会所の蛍光灯が、昼間なのに少しだけ白く光った。窓の外を、港から上がってきた風が通る。団扇の端が一枚、机の上で震えた。


 裕子は顔を上げ、部屋を見た。


 「必要なことを、必要な形で言ったつもりでした。でも、言い方で、言いたいことを引っ込めた人がいたなら、今のままでは資料になりません」


 若い女性が、折った白い紙を握った。


 裕子は続けた。


 「次は、先に反対や不安を書く紙を配ります。名前を出したくない人は無記名でいいです。話したい人だけ話してください。私がその場で切らないようにします」


 壮翔が小さく息を吐いた。


 「切らない裕子、見られるの?」


 「必要なら切ります」


 「戻った」


 「枝を整えるくらいにします」


 千代がそこで初めて笑った。数人もつられて笑い、部屋の固さがほんの少しほどけた。


 文香は箱の中から、修繕した名札を一枚だけ取り出した。名前のところは白い紙で覆ってある。彼女はそれを机の中央に置いた。


 「名前は、強く持つと破れます」


 部屋が静かになった。


 「でも、持たないと、落ちます」


 文香はそれ以上言わなかった。けれど、その二つの短い文で、今日の話し合いに必要なことはほとんど置かれたように見えた。


 祐は議事録へ書いた。


 強く持ちすぎない。けれど、落とさない。


 話し合いが終わると、参加者たちは椅子を戻し始めた。明純は空の紙コップを集め、愛衣子は書かれた白い紙を種類ごとに分ける。若い女性は、帰り際に祐のところへ来て、さっきの紙を差し出した。


 そこには、こう書かれていた。


 待合所へ来た人が迷った時、商店街へ聞きに来ると思います。店ごとに答えが違うと困るので、共通の案内紙がほしいです。


 祐は両手で受け取った。


 「ありがとうございます。これは、名前を出していいですか」


 「店名はまだ出さないでください。でも、内容は使ってください」


 「分かりました」


 裕子が横から来て、少し頭を下げた。


 「さっきは、言い方が悪かったです」


 女性は驚いたように瞬きをした。


 「いえ、名札を商売に使いたいと思われても仕方ない言い方をしたので」


 「商売も、町の暮らしの一部です。それを全部悪いものみたいに言いました」


 裕子は言い終えたあと、唇を少し結んだ。まだ慣れない言葉を、落とさないようにしているようだった。


 女性は紙の端を指で撫でた。


 「共通の案内紙、作る時、うちも手伝います。水を買える場所とか、日陰の道とか、店の人の方が知ってることもあるので」


 「お願いします」


 裕子はそう言って、赤いペンではなく、黒いペンでメモを取った。


 集会所の片づけが終わるころ、祐は議事録の紙束を鞄に入れた。今日の紙は厚かった。賛成の声だけで作る資料より、ずっと重い。けれど、その重さは邪魔ではなかった。


 外に出ると、坂道には夕方の影が落ち始めていた。


 淡名渡船待合所へ戻ると、陽が西へ傾き、窓ガラスに海の色が薄く映っていた。集会所から持ち帰った椅子の一部を、明純と愛衣子が待合所の脇へ運んでいる。壮翔は古い看板の傾きを直していた。


 いや、直しているというより、直している姿を必要以上に大きく見せていた。


 金槌を振るたび、こん、こん、と大きな音が港へ響く。


 「うるさい」


 裕子が言った。


 「看板が寂しそうだったので」


 「看板は感情を申告していません」


 「でも、俺の背中は語ってるだろ」


 「作業に集中してください」


 壮翔は背中を向けたまま、また大きめの音を立てた。祐はその背中を見て、少しだけ分かった。彼は裕子と文香の方を見ないようにしている。二人が話すなら、聞こえないふりをするための音を作っているのだ。


 待合所の中では、文香が古い名札台を布で拭いていた。裕子は入口で立ち止まったまま、しばらくその様子を見ていた。


 名札台は、まだ棚として使えるか分からないほど傷んでいる。角は欠け、木目は灰色に沈み、昔の画びょうの跡が黒く点々と残っていた。文香は水を含ませすぎない布で、跡の周りを避けながら少しずつ拭く。


 裕子は鞄から新しい布巾を一枚出し、文香の横へ置いた。


 文香はそれを見て、短く言った。


 「ありがとう」


 裕子は、すぐには返さなかった。窓の外で、壮翔の金槌がまた鳴る。少し大きすぎる音だった。


 「文香さん」


 「はい」


 「今日、怖かったですか」


 文香は布を畳み直した。質問に答える前に、名札台の端をもう一度だけ拭いた。


 「少し」


 裕子は目を伏せた。


 「すみません」


 「必要なこともあった」


 「でも、強かった」


 「うん」


 短い返事だった。逃げ道のない返事でもあった。裕子はそれを受け取るように、足元を見た。


 祐は入口の外で足を止めた。中に入れば、二人の会話を急がせてしまう。愛衣子も明純も、いつの間にか黙っていた。信清は港のロープを結び直しながら、こちらを見ない。


 文香は新しい布巾を手に取り、裕子へ半分を差し出した。


 「ここ、お願いします」


 裕子は布巾を受け取った。


 「はい」


 名札台の左右を、二人で拭き始めた。


 作業音は小さかった。布が木を撫でる音、窓の隙間を風が抜ける音、遠くで船のロープが軋む音。壮翔の金槌だけが、ときどき大げさに響く。


 「裕子さん」


 文香が言った。


 「はい」


 「言い方を直すなら、紙も変えたほうがいい」


 「紙?」


 「話す前に、書ける紙」


 裕子は手を止めた。


 「無記名の不安票ですか」


 「うん」


 「反対意見用紙、という名前だと、書いた人が反対の人みたいになりますね」


 文香は頷いた。


 「困ることの紙」


 裕子は少しだけ口元を動かした。笑ったのではなく、言葉を試したのだと思う。


 「困ることの紙」


 祐はその名を、心の中で繰り返した。分かりやすい。責めない。書く人が戻ってこられる。


 裕子は鞄から罫線入りの紙を出し、膝の上で書き始めた。


 困ることを書いてください。


 名前は書かなくてもかまいません。


 すぐに答えを出さず、まず読みます。


 文香は隣から覗き込み、一行目の「困ること」の文字を指でなぞった。


 「いい」


 裕子は赤いペンを持ちかけ、やめた。黒いペンで、ゆっくり丸をつける。


 「次の説明では、最初にこれを配ります」


 「うん」


 「その場で切らないようにします」


 「枝は?」


 「整えるくらいにします」


 文香が、ほんの少し笑った。


 外で聞いていた壮翔が、金槌を持ったまま振り返った。


 「いま笑った?」


 「見てません」


 裕子が即座に言う。


 「見た気がする」


 「看板と会話していてください」


 「はい」


 壮翔は素直に看板へ向き直った。けれど、肩が楽しそうに揺れていた。


 祐は待合所へ入り、議事録の紙束を机に置いた。


 「今日の意見、全部写します。名前を出していいか確認してから、資料に入れます」


 裕子は頷いた。


 「私が切った分も、拾い直します」


 「うん」


 「次は、話す人より先に紙を置きます」


 文香は、名札台の角を拭き終え、布巾を畳んだ。


 「名札と同じ」


 祐は文香を見た。


 「名札と?」


 「先に置く場所があれば、落ちにくい」


 その言葉に、祐は議事録の余白へ小さく書いた。


 声にも、置き場所がいる。


 夕方の光が、待合所の床を斜めに照らしていた。古い木の傷の中に、埃ではなく、細い金色の線が入っているように見える。名札台はまだ完全にはきれいになっていない。それでも、拭いたところだけ木目が少し明るくなっていた。


 信清が入口に顔を出した。


 「西の風が少し出る。今日は早めに閉めたほうがええ」


 「分かりました」


 祐は時計を見た。閉鎖時刻までは少しあったが、無理に開ける理由はない。今日の話し合いで何度も出た言葉が、すぐそばに立っている。危ない時は閉める。声が硬くなる前に紙を置く。名前は強く持ちすぎず、落とさない。


 明純が外から椅子を運び込み、愛衣子が白い紙を束ねた。壮翔は看板の傾きを直し終え、少し離れて眺めている。


 「どう?」


 看板には、淡名渡船待合所、という古い文字が残っていた。傾きは直ったが、右端が少し上がっている。


 裕子はそれを見上げた。


 「右が三ミリ高いです」


 「三ミリくらい、希望で上がってるんだよ」


 「希望は水平にしてください」


 明純が吹き出し、愛衣子が紙束で口元を隠した。文香は名札台の前で、声を出さずに笑った。


 祐はその笑いを急いで拾わなかった。消えないように、ただそこへ置いておいた。


 帰る前、裕子は入口の机に「困ることの紙」を一枚置いた。まだ正式なものではない。手書きで、線も少し曲がっている。


 けれど、その紙の前では、さっきまで閉じていた言葉も座れそうだった。


 祐は灯りを消す前に、名札棚と名札台を見た。名札は、返されたものも、残されたものも、これから返すものも、同じ暗がりの中で静かに並んでいる。誰かの厳しい声だけでは守れない。誰かの優しい沈黙だけでも守れない。


 必要なのは、言葉が戻ってこられる場所だった。


 裕子は最後に、入口の鍵を閉める祐の横で言った。


 「言い方を直します」


 それは昼間よりも、ずっと小さな声だった。


 祐は鍵を回し、待合所の戸が確かに閉まったことを確認した。


 「次の紙、明日一緒に作りましょう」


 「はい」


 裕子は返事をしたあと、すぐに付け足した。


 「はいは一回でいいんでしたね」


 祐が笑うと、裕子は赤いペンのキャップを、今度は音を立てずに閉めた。


 港には夕方の風が降りていた。淡名島の方へ向かう船の灯りが、海の上で小さく揺れている。待合所の戸の内側には、今日置いたばかりの白い紙が一枚、机の上で夜を待っていた。


 困ることを書いてください。


 その一行は、誰かを黙らせるためではなく、次に来る声のために置かれていた。



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