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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第七章 隠さない想い

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第十話|当然の距離

音楽が、流れている。


変わらない旋律。

変わらない夜。


それでも——

空気が、わずかに違っていた。


「……」


セレスティナは、歩みを進める。


隣には、レオニス。

重なったままの手。


離れない距離。

視線は、ある。

だが——


ざわめきは、起きない。

誰も、言葉を挟まない。


ただ、目で追う。

それだけだ。


「……セレスティナ様」


静かな声。


振り向けば、侍女が一人。

深く、頭を下げる。


「……」


一瞬だけ、間が空く。


すぐに、促されるままに歩き出す。

足取りは、乱れない。


「……」


広間の奥へ。


人の流れが、道を譲るように自然と開く。

誰も、声をかけない。


ただ、避ける。

その先に——


高座。

椅子が、静かに引かれる。

音は、ほとんどしない。


「……」


セレスティナは、足を止めない。


そのまま、歩み寄る。

迷いは、ない。


その動きに、誰も口を挟まない。

挟めない。


「……」


自然な動作で、腰を下ろす。

隣に、レオニス。

距離は、変わらない。


「……」


視線が、集まる。

だが、すぐに逸れる。


長く見続ける者はいない。


「……」


給仕が、近づく。

一礼。


銀の盆が、わずかに揺れる。

まず、レオニスへ。


それから、迷いなくセレスティナへ。


差し出される杯。

同じ高さ。

同じ所作。


「……」


それを受け取る。


指先は、揺れない。

静かに、持ち上げる。


「……」


燭台の灯りが、揺れる。

杯の縁に、淡く映る。


その光が、わずかに揺らぐ。


「……」


視線を落とす。


映り込む、わずかな影。

自分の輪郭。

それが、はっきりと見える。


「……」


ゆっくりと、息を整える。

肩の力が、抜ける。


「……」


隣へ、わずかに視線を向ける。


レオニスは、変わらない。

動かない。

ただ、そこにいる。


「……」


指先に、わずかな力がこもる。

意識して、確かめるように。


「……」


応えるように、指が動く。

強くはない。


だが、離れない。

それだけで、十分だった。


「……」


音楽が、続く。

人の声が、重なる。


夜は、静かに流れていく。

その中で。


「……」


誰も、見ない。

見続けない。

気に留めない。


それが——

当たり前であるかのように。


「……」


セレスティナは、静かに顔を上げる。


まっすぐに、前を向く。


迷いはない。

そのまま、隣に並ぶ。


触れたままの距離で。

——何も言わずに。

そこにいる。

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