第七話|ほどけない余韻
回廊を抜ける。
重厚な扉の前で、足が止まる。
先ほどまでの喧騒が、向こう側にある。
音も、光も。
すぐそこに。
「……」
セレスティナは、わずかに視線を落とす。
重なったままの手。
離れていない。
そのことに、今さら気づく。
——離していない。
「……戻る」
レオニスの声。
短く、変わらない。
それでも——
「……はい」
応じる声は、わずかに遅れた。
「……」
扉が開き、光が流れ込む。
音が、戻る。
ざわめき。
視線。
空気。
すべてが、一斉に押し寄せる。
だが——
手は、離れない。
距離も、変わらない。
「……」
何かが違う。
同じはずの広間。
同じはずの視線。
それでも。
「……」
先ほどとは、違う。
理由は、わかっている。
だが——
言葉にする必要はない。
「……」
足が動く。
音楽は、まだ続いている。
次の曲へと移り、空気は少しだけ軽くなっていた。
それでも、二人の間の距離だけは、変わらない。
「……」
視線が、合う。
逸らさない。
逸らさないまま、ほんのわずかに、指先が動く。
触れていることを、確かめるように。
「……」
レオニスの指が、わずかに応える。
それだけで、十分だった。
「……お疲れではありませんか?」
小さく、落とす。
形式を守る声音。
だが——
わずかに、柔らかい。
「問題ない」
短い返答。
変わらない。
それでも。
「……そうですか」
今度は、声の距離が少しだけ近い。
「……」
沈黙が、落ちる。
だが、重くはない。
むしろ——
心地よい。
「……」
視線が、また合う。
今度は、ほんのわずかに口元が、緩む。
自覚はない。
それでも、確かに。
「……どうした」
低く、問われる。
「……いえ」
首を振る。
だが、完全には、戻らない。
「……」
そのまま、並んで歩く。
触れたまま。
距離を保ったまま。
誰も、何も言わない。
言う必要がない。
「……」
ふと視線が、外へ向く。
高い窓の向こうに、夜が広がっている。
静かで、揺るがない。
それと同じように。
「……」
この距離も、揺らがない。
もう崩れることはない。
そう、わかっている。
「……」
指先に、わずかな力がこもる。
無意識に、それでも。
今度は——
離さないと、わかっている。
そう、決めている。
「……」
レオニスの指が、わずかに強くなる。
応えるように、逃がさないように。
「……」
言葉はない。
だが、それで十分だった。
この距離は、このままほどけない。
——続いていく。




