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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第七章 隠さない想い

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第二話|隠さない距離

皇城、大広間。

夜の光が、静かに満ちている。

高く掲げられた燭台。

磨き上げられた床に、光が揺れる。


音楽は、まだ始まっていない。

それでも――

人は、すでに集まっていた。


「……本当に?」


「共に現れると?」


「まさか」


抑えられた声が、わずかに広がる。

誰もが、扉を見ている。

その瞬間を、待っている。


「――陛下、ご入場」


声が落ちる。

ざわめきが、止まる。

視線が、一斉に扉へ向く。

重厚な扉が、ゆっくりと開く。


光が差し込む。

銀が、現れる。

レオニス・ヴァルカ。

その姿に、空気が張り詰める。

――だが。

一歩、並ぶように、もう一つの影が入る。


「……え?」


思わず漏れた声。

淡い光をまとった、金。

セレスティナ・ラディア。

誰も、言葉を続けられない。


ただ、見ている。

二人は並び立ち、距離はより近い。

形式は崩していない。

それでも――

違う。

誰もが、気付く。


レオニスの衣装に、やわらかな蜂蜜色が混じる。

セレスティナの装いには、銀が落ちている。


意図を示している。

言葉にせずとも、明確に。


「……そう来るか」


低く、落ちる声。

理解の上での、わずかな揺らぎ。


「ご一緒、とは……」


別の声が、かすかに重なる。


「公の場においては、少々――」


そこまでだった。

最後まで言い切る者はいない。

言い切れない。


「――何がだ」


低い声が、落ちる。

空気が、止まる。

レオニスは、歩みを止めない。


視線だけが、向く。

それだけで、十分だった。


「……」


誰も、答えない。

答えられない。

それでも――


「距離が近いとでも?」


淡々と、続ける。

責める響きはない。

だが、逃がさない。


「……いえ」


かすかな声。

それ以上は、続かない。

視線が外れる。

それで終わる。

誰も、もう触れない。

触れられない。


「……」


その隣で セレスティナは動かない。

逃げない。

わずかに、息を呑む。

それでも――

離れない。

その場にいる。

それだけで、答えだった。


沈黙が、落ちる。

誰も、動かない。

視線だけが、集まる。

レオニスは、一歩踏み出す。

それだけで、十分だった。


「改めて伝えておく」


広間の隅まで、低い声が静かに届く。


「セレスティナ・ラディアは――」


わずかな間。

視線が、隣へ向く。


「私の婚約者だ」


「……」


息を呑む音が、どこかで止まる。

誰も、言葉を続けない。

続けられない。

視線が揺れ、すぐに戻る。

二人へ。


「……」


セレスティナは、息を整える。

視線を、落とす。

だが――

逃げない。

そのまま、立っている。


差し出された手。

迷いは、ない。

ただ、そこにある。


「……」


ほんの一瞬。

指先が、ためらう。

それでも、触れる。

重なる。

音楽が、流れ出す。

静かに、ゆっくりと引き寄せられる。


思っていたよりも、近い。

だが――

離れない。

そのまま、合わせる。

誰も、口を開かない。

ただ、見ている。


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