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第八話 残る温度
ラディア公爵邸、セレスティナの私室。
午後の光が、静かに差し込んでいる。
「……」
セレスティナは、窓辺に立っていた。
外を見ている。
だが――
何も、見ていない。
「……」
思考は、追いつかない。
言葉も、浮かばない。
ただ、胸の奥が落ち着かない。
「……」
ゆっくりと、息を吐く。
そのまま――
指先が、頬に触れる。
ほんの一瞬、
あの感触をなぞるように。
「……」
何もないはずなのに。
まだ、そこに熱がある。
触れられた記憶が、消えない。
「……」
目を閉じる。
呼吸が、わずかに乱れる。
言葉にする必要はない。
分かっている。
もう――
戻れない。
「……お嬢様」
後ろから、声がかかる。
ミアだった。
振り返らない。
「……何かしら」
静かに返す。
ミアは、少しだけ間を置く。
「……いいえ」
やわらかく、笑う気配。
「お呼びではありませんでしたね」
それだけ言って、下がる。
セレスティナは、何も言わない。
ただ――
窓の外を見ている。
風が、葉を揺らす。
同じ景色。
同じ時間。
それでも――
すべてが、少しだけ違って見える。
「……」
ほんのわずかに、口元がやわらぐ。
理由は、考えない。
ただ、そこにあるものを、そのまま受け取る。
それで、十分だった。




