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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第六章 ほどけていく距離

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第七話 逃がさない距離

ラディア公爵邸、応接室。

落ち着いた空間。


整えられた調度と、無駄のない配置。

窓から差し込む光が、やわらかく広がっている。


セレスティナは、静かに座っていた。


「――急な来訪ですまない」


低い声が落ちる。

レオニスだった。

視線が、自然と向く。


「……いえ」


静かに返す。

だが――

ほんのわずかに、間がある。

レオニスは、それを見逃さない。


「顔色が違うな」


何気なく言う。

だが、逃がさない。


「……そうでしょうか」


整えて返す。

だが、完璧ではない。


「以前なら、もっと早く否定した」


淡々と指摘する。

逃げ場を、塞ぐように。


「……」


セレスティナは、わずかに視線を逸らす。

図星だった。


「……変わったな」


低く、続ける。


「……はい」


小さく、認める。


「何があった」


間を置かず、踏み込む。

逃げられない。


「……分かったのです」


ゆっくりと、言う。


「……自分の状態が」


レオニスは、黙って聞く。


「……これは、恋だと」


静かに、告げる。

沈黙が落ちる。


「……相手は」


低く、問う。


ほんのわずかに、間が落ちる。


「……陛下です」


はっきりと、告げる。

空気が、止まる。


「……そうか」


静かに、受け止める。

一歩、踏み込む。

距離が、確実に変わる。

近い。

呼吸の間が、分かる距離。


「ならば、答えは出ている」


低く、言う。


「俺は、逃がさない」


はっきりと。

セレスティナは、息を呑む。

視線が、逸らせない。


「お前が受け入れたなら」


ほんのわずかに、間が落ちる。


「もう止まらない」


静かに、告げる。


「……はい」


小さく、答える。


その瞬間――

距離が、さらにわずかに縮まる。

レオニスの手が、上がる。

一瞬だけ、ためらいなく指先が、頬に触れる。

ほんのわずかに、確かめるように。


「……」


セレスティナの呼吸が止まる。

熱が、そこから広がる。

触れられた場所が、消えない。

レオニスは、すぐに手を離す。

それ以上は、踏み込まない。


「……なら、いい」


低く、落とす。

距離を戻す。


「今日は、それだけだ」


あっさりと告げる。

踵を返す。

迷いはない。


扉へ向かい、開く。

光が差し込む。

そのまま、出ていく。

静かに、扉が閉まる。


「……」


残された空気が、わずかに揺れる。


セレスティナは、その場に立ったまま動けない。


指先が、ゆっくりと頬へ触れる。

さきほどの場所。

まだ、残っている。


「……」


息を吐く。

落ち着かない。

それでも――

嫌ではない。





廊下の奥。

ディオンが、壁にもたれていた。

腕を組んだまま、目を閉じている。

扉が閉まる音で、ゆっくりと目を開く。


「……終わったか」


小さく、呟く。

軽くノックする。


「セレス」


「……どうぞ」


中から、静かな声。

扉を開ける。

視線が、すぐにセレスティナを捉える。


「……」


ほんの一瞬、言葉を失う。


「……顔が違うな」


セレスティナは、わずかに目を逸らす。


「……そうかしら」


否定しきれない。

ディオンは、ふっと息を抜く。


「……そうだな」


短く、肯定する。


「……兄様」


「なんだ」


「……大丈夫みたい」


小さく、言う。

ディオンは、わずかに目を伏せる。


「……そうか」


それだけだった。

だが――

声音がやわらかい。


「……寂しくなるな」


ぽつりと、落とす。


「……え?」


「いや、何でもない」


それ以上は言わない。

セレスティナは、少しだけ考えて――

ほんのわずかに、口元をやわらげた。


「……兄様」


「なんだ」


「……ありがとう」


ディオンは、一瞬だけ動きを止める。

それから、ふっと笑う。


「今さらだな」


軽く返す。

だが、声音はやわらかい。

外の光が、静かに差し込んでいる。

すべては変わらない。


それでも――

確かに、何かが変わっていた。

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