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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第六章 ほどけていく距離

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第五話 線の引き方

庭の一角。

アルヴィスの言葉が落ちた、その少し後。


「――そこまでです」


低い声が、空気を切る。

ディオンだった。

足音は静かだが、迷いはない。

そのまま二人の間に入る。


「陛下が、一度お止めしたはずです」


視線はアルヴィスへ向けられる。

穏やかだが、はっきりとした制止。

アルヴィスは、わずかに目を細めた。


「ええ、承知していますよ」


軽く、笑う。


「ですから、この程度に留めています」


一歩も引かない。

だが、踏み越えてもいない。

絶妙な距離。

ディオンは、その様子を見ている。


「……では、なぜ我が家へ?」


問いは短い。

だが、意図は明確だった。

アルヴィスは、わずかに肩をすくめる。


「確認、でしょうか」


「確認?」


ディオンの視線が鋭くなる。


アルヴィスは、セレスティナへ一瞬だけ視線を向け――

すぐに戻す。


「ご心配には及びません、公爵子息」


穏やかに言う。


「セレスティナ嬢の気持ちに、私はいません」


その言葉に、空気がわずかに揺れる。

ディオンは、何も言わない。

ただ、次の言葉を待つ。


「彼女は、すでに確信されたようだ」


静かに、続ける。

ディオンの眉が、わずかに動く。


「……」


アルヴィスは、小さく笑う。


「陛下が、すでに占めておられるようですね」


それ以上は、言わない。

それで、十分だった。

ディオンは、ゆっくりと息を吐く。


「……安心いたしました」


短く、告げる。


「先程は、失礼を」


アルヴィスは、軽く首を振る。


「いえ」


穏やかな声音。


「こちらこそ」


ほんのわずかに、笑みを浮かべる。


「これほどの令嬢にお会いできたのに――」


一瞬、言葉を区切る。


「実に残念です」


それでも、未練は見せない。

それが、彼の在り方だった。


「では」


軽く一礼し、踵を返す。

そのまま、迷いなく去っていく。


風が通る。


葉が揺れる。


静けさが戻る。


ディオンは、その背を見送る。

しばらくしてから――


「……まったく」


小さく、呟く。

視線をセレスティナへ向ける。


(王に、王子、か)


内心で苦笑する。


(我が妹ながら……とんでもないな)


だが、その目はやわらかい。


(あの件で、どうなるかと思ったが)


ほんの一瞬、影がよぎる。

すぐに消える。


(……杞憂だったようだ)


安堵が、静かに残る。


(寂しくはあるが――)


視線を外し、空を仰ぐ。


(幸せになれ)


それ以上は、言葉にしない。

そのまま、視線をセレスティナへ戻す。


「……セレス」


低く、呼ぶ。

セレスティナは、わずかに顔を上げる。


「はい」


変わらない声音。

だが――

どこか、やわらかい。

ディオンは、一瞬だけ言葉を失う。

それから――


「……戻ったな」


ぽつりと、落とす。

セレスティナは、わずかに目を瞬かせる。


「……?」


意味を測りかねるように。

ディオンは、小さく息を吐く。


「前のように」


それ以上は言わない。

だが、十分だった。

セレスティナは、少しだけ考える。

そして――


「……兄様」


静かに、呼ぶ。

その一言で、ディオンの表情が、崩れた。


「……」


一歩、近づく。

迷いはない。

そのまま――

抱きしめる。

強くはない。

だが、確かに。


「……よかった」


低く、震える声。


「本当に」


セレスティナは、目を見開く。

だが、拒まない。

そのまま、静かに受け止める。


「……兄様」


もう一度、呼ぶ。

それだけでいい。

しばらく、そのままだった。

言葉はないが、十分だった。

その時――


「……何をしている」


低い声が、落ちる。

空気が変わる。

二人が、ゆっくりと離れる。

視線の先に、レオニスが立っていた。


「……ほう」


わずかに目を細める。

状況を見ている。

理解もしている。

だが――


「兄妹で抱き合うとは」


一歩、踏み込む。


「俺の気持ちには気付かないくせに」


静かに、落とす。

ディオンが即座に反応する。


「違います!」


きっぱりと。


「ようやく、セレスが戻ってきたんです」


言葉に、迷いはない。

レオニスは、一瞬だけ沈黙する。

視線が、セレスティナへ向く。


セレスティナは――

動けない。

心臓が、落ち着かない。

さっきまでとは違う。


「……」


視線が、レオニスへ自然と向く。

逃げられない。


「……」


ほんのわずかに、息を呑む。

理解してしまう。

さっきまで曖昧だったものが、形になる。


「……」


言葉は出ないが、確かだった。

――これが。

自分の感情だと。


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