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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第六章 ほどけていく距離

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第四話 選ばれうる人

ラディア公爵邸の庭は、穏やかな光に包まれていた。


新しい葉が風に揺れ、やわらかな影を落とす。

整えられた空間は、静かで心地よい。

その中に――


「またお会いできましたね」


軽やかな声が落ちる。

アルヴィスだった。

自然な足取りで歩み寄る。

距離の取り方に迷いがない。


「本日は正式な訪問ではありませんが」


軽く笑う。


「少しだけ、お時間をいただいても?」


押しつける響きはない。


「……構いません」


セレスティナは静かに頷く。

アルヴィスは満足したように目を細め、そのまま隣へ並ぶ。

近すぎず、遠すぎない距離。


「こちらは落ち着きますね」


視線を庭へ向ける。


「静かで、整っていて……あなたに似ている」


さらりと言う。

セレスティナは、わずかに視線を動かす。


「……そうでしょうか」


アルヴィスは迷わない。


「ええ。無理がない」


一度だけ、言葉を切る。


「その在り方は、とても魅力的です」


まっすぐに視線を向ける。

セレスティナは、その言葉を受け取る。

不快ではない。

むしろ、自然だ。


「……ありがとうございます」


素直に返す。

アルヴィスは小さく笑う。


「もし」


何気なく、言葉を続ける。


「あなたの選択肢の一つに、含まれていられたら――そう思います」


軽くはない。

だが、踏み込みすぎてもいない。


風が吹く。

葉が揺れる。


セレスティナは、少しだけ考える。


意味は分かる。

意図も理解できる。


「……」


そのはずなのに。

ほんのわずかに、違和感が残る。


「……理解はできます」


静かに言う。


「ですが」


言葉が、止まる。

アルヴィスは急かさない。

ただ待つ。


「……残らないのです」


小さく、告げる。

アルヴィスの目が、わずかに細められる。


「残らない?」


「はい」


セレスティナは、ゆっくりと顔を上げる。


「理解はできます」


繰り返す。


「ですが――」


ほんの一瞬、間が落ちる。


「消えてしまいます」


言葉は淡々としている。

だが、確かだった。

アルヴィスは、しばらく何も言わない。

それから、ふっと笑った。


「……なるほど」


納得したように。


「それは、仕方がないですね」


軽く肩をすくめる。

それでも、引かない。


「ですが」


視線を向ける。


「可能性がある限り、諦めるつもりはありません」


穏やかな声音。

押しつけではない。

ただの意思。


セレスティナは、その言葉を受け取る。

嫌ではない。

だが――

やはり、何も残らない。


風が吹く。

葉が揺れる。


その音だけが、静かに響いていた。

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