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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第五章 静かな波紋

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第九話 見守る者たち

薬草庭園の一角。

木立の影に、二つの人影があった。


アルベルトと、ディオン。

どちらも声は落としている。

視線の先には――

並んで座る二人の姿。


セレスティナと、レオニス。

風が、やわらかく抜ける。

葉が揺れ、光が細かく揺らぐ。


その中で、二人は言葉少なに並んでいる。

だが――

距離は、以前とは違っていた。


「……近いな」


ディオンが、ぽつりと呟く。

ただの事実の確認のように。

アルベルトは答えない。

視線を外さず、ただ見ている。


セレスティナの表情。

力が抜けている。

無理に整えたものではない。

自然にそこにあるもの。

それを、隣にいる男が崩さず保っている。


「距離だけではない」


ようやく、静かに言う。

ディオンが、わずかに眉を寄せる。


「……あれは」


言葉を選ぶように、一度区切る。


「任せていい相手か」


問う。

だが、半分は答えを求めていない。

アルベルトは、すぐには答えない。 


ほんのわずかに、視線を細める。

観察するように。

確かめるように。

そして―― 


「他にはいないな」


静かに、言い切る。

迷いのない声だった。

ディオンは、小さく息を吐く。

否定はしない。

だが、完全に納得したわけでもない。


「……なら」


短く落とす。


「進めるのか」


アルベルトは、ゆっくりと頷く。


「確認は必要だ」


それだけで、十分だった。




数刻後――

皇城の一室。

静けさの中に、わずかな緊張が混じる。


レオニスは、席に着いたまま視線を上げる。

扉が叩かれる。


「入れ」


短い許可。

入ってきたのは、アルベルトだった。

一礼する。

動きに無駄はない。


「お時間を頂き、感謝いたします」


形式は整っている。

だが、その声には余計な装飾がない。

レオニスは、軽く頷く。


「用件は分かっている」


先に言う。

余計な探りはしない。

アルベルトの目が、わずかに細くなる。

一歩、踏み込む。


「……では、率直に」


間を置かずに続ける。


「娘の件です」


沈黙が落ちる。

短いが、重い。

レオニスは、視線を逸らさない。

アルベルトもまた、退かない。


「すすめているのか?」


先に問うのは、レオニスだった。

低く、抑えた声。


「はい」


一切の迷いはなく、即答だった。

その潔さに、わずかに空気が変わる。

レオニスは、ほんの一瞬だけ視線を落とす。


「……本人は、色恋に自覚はないぞ」


事実を置く。

感情は乗せない。

アルベルトは、わずかに息を吸う。

そして――


「承知しております」


静かに受ける。

その上で。


「それでも…」


視線をまっすぐに戻す。


「陛下は、あの子を幸せにしてくださいますか?」


飾らない言葉だった。

父としての問い。

それ以上でも、それ以下でもない。


沈黙が落ちる。

レオニスは、すぐには答えない。


指先が、わずかに動く。

思考が巡る。

――守ることはできる。

――排除も、支配もできる。


だが――

(違う)


あの時の涙。

崩れた声。

手を離さなかった理由。

胸の奥に残る、あの感触。


(……これは)


初めて、言葉になりかける。


(守るだけでは、足りない)


ゆっくりと、息を吐く。

そして、顔を上げる。


「……その話」


低く、落とす。


「受けよう」


静かに、言い切る。

アルベルトの目が、わずかに揺れる。


だが、すぐに整う。

レオニスは続ける。


「ただし……セレスの意思を最優先とする」


揺らがない。

命令ではない。

選択だ。


アルベルトは、それを深く

受け取る。


そして――

ゆっくりと頭を下げる。


「……それで十分です」


声は静かだ。

だが、その奥にあるものは確かだった。


その日のうちに、ラディア公爵家の空気は、わずかに変わる。

目に見えるほどではない。

だが――確実に。


「……決まったの?」


リリアナが、楽しげに首を傾げる。

エリシアは、やわらかく微笑む。


「ええ」


それだけで、伝わる。

ディオンは腕を組み、視線を逸らす。


「……まあ、悪くはない」


素直ではない。

だが、認めている。

アルベルトは、静かに言う。


「任せられる相手だ」


だが、それで十分だった。

エリシアは、ほんの少しだけ目を細める。


安堵と、期待。

その両方を含んで。

そして――

セレスティナだけが、まだ知らない。


だが――

その時間さえも、穏やかだった。

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