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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第五章 静かな波紋

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第三話 仕組まれた綻び

皇城の一角。

本来であれば、決して立ち入ることの許されない区画だった。

だがその日だけは、何の疑問も持たれなかった。


正規の訪問として通された者たちに対し、警備は形式だけをなぞる。

見張りの交代が、わずかに遅れる。

巡回の足音が、ひとつ分だけ空白を作る。

確認は行われる。


だが、それは“行われたこと”に意味があるだけのものだった。


すべてが、少しずつ甘い。

単体では問題にならない。

だが――

それが重なれば、綻びになる。


「……妙だな」


低く呟いたのは、カイル・ヴァルディエだった。

視線は、閉ざされた扉へ向けられている。


「ここ……入ってよかった場所か?」


小さく、続ける。

その言葉に、エレナがわずかに視線を上げる。


「正式な許可は出ているのでしょう?」


穏やかに返す。

だが、その声には確信がない。

カイルは、短く息を吐く。


「……だからこそ、だ」


説明になっていない。

だが、違和感は確かにある。

エレナもまた、扉を見る。

何も起きていないように見える。

それでも――


「……気味が悪いわね」


小さく、落とす。

その時、内側から かすかな音がした。

二人の視線が、同時に動く。

沈黙。


そして――

扉が、わずかに開く。

音は、ほとんどない。

隙間から、影が伸びる。

ゆっくりと、迷いなく。

ノエルだった。


「……」


何も言わない。

ただ、外へ出る。

その目は、どこか焦点が合っていない。

だが――

確信だけはある。


カイルが一歩、動く。

止めるべきか。

判断が遅れる。


「……待て」


声が落ちる。

だが、遅い。

ノエルは、そのまま歩き出す。


誰も、止めない。

止められない。

エレナの指先が、わずかに震える。


「……あれは」


言いかけて、止まる。

言葉にできない。

カイルは奥歯を噛み締める。


「……何かがおかしい」


その言葉だけが、正しかった。

だが――

すでに遅い。


足音が遠ざかる。

止めるには、遅すぎた。




同じ頃――

ラディア公爵家では、穏やかな時間が流れていた。

庭の空気は静かで、風もやわらかい。

だが――


「……来るな」


レイモンドが、小さく呟く。

リリアナが視線を向ける。


「何が?」


「綻びです」


短く答える。


「意図して作られたものですが……雑すぎる」


「だからこそ、止まらない」


リリアナの表情が、わずかに引き締まる。

理解している。

それが意味するものを。


「止められる?」


静かに問う。

レイモンドは、少しだけ間を置く。

そして――


「……間に合えば」


その言葉には、確かな遅れが含まれていた。

風が吹く。

穏やかなはずの空気が、わずかに揺れる。


すでに、動き出している。

止まらない。

誰にも。

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