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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第五章 静かな波紋

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第二話 動き出す思惑

ゼルヴァ王国にあるヴァルディエ侯爵家の応接室は、静かだった。

重厚な調度と、整えられた空気。


その中央に、ルーカス・ヴァルディエは座している。

指先で、ゆっくりとグラスを回す。


「リグナスは、終わりだな」


淡々とした声だった。

感情はない。

事実の確認にすぎない。


その向かいには、二人の若者が座っている。

エレナと――

その兄、カイル。


「ですが、父上」


カイルが口を開く。

声音にはわずかな苛立ちが混じる。


「皇帝は簡単に動く相手ではありません」


正論だった。

だが――

ルーカスはわずかに笑う。


「だからこそ、動かす価値がある」


迷いはない。

すでに答えは出ている。


エレナは、黙っていた。

紅茶に口をつけることもなく、ただ静かに父を見る。


「お前は、皇帝に近付け」


唐突に言われる。

命令だった。

エレナの指先が、ほんのわずかに止まる。

それでも、顔は上げない。


「……それが、私の役目ですか?」


静かに問う。

否定ではない。

確認だった。

ルーカスは頷く。


「ラディアの娘が揺らいでいる今が好機だ」


言い切る。

根拠は薄い。

だが、本人は疑っていない。

カイルが眉をひそめる。


「ですが、その件は――」


「問題ない」


即座に遮る。


「すでに処理されている」


そう判断している。

現実は見ていない。


エレナは、ゆっくりとカップを持ち上げる。


「……承知いたしました」


静かに答える。

感情は見せない。

だが、その瞳はわずかに曇っている。


ルーカスは、それに気付いていない。


「それでいい」


満足そうに言う。

その時だった。

控えていた従者が、一歩進み出る。


「侯爵様」


短く告げる。

ルーカスは視線だけを向ける。


「例の件、手配が整いました」


その一言で、空気が変わる。

カイルの視線が動く。

エレナもまた、わずかに顔を上げる。


「……そうか」


ルーカスは、小さく頷く。


「ならば、試してみるとしようか」


まるで、些細なことのように、軽く言う。


「……何を」


カイルが問う。

ルーカスは、わずかに笑う。


「歪みは、広げれば崩れる」


それだけだった。

説明にはなっていない。

だが――

本人には、十分だった。




その頃――

ラディア公爵家では、静かな時間が流れていた。


リリアナと婚約者であるグランディス公爵家子息レイモンドが、庭を歩いている。


穏やかな光。

整えられた空気。


「最近、妙な噂が多いですね」


レイモンドが、静かに言う。

軽い口調。

だが、視線は鋭い。

リリアナは微笑む。


「そうね」


否定しない。


「でも、放っておけるものではないわ」


その一言で、温度が変わる。

レイモンドは、わずかに目を細める。


「ええ」


短く、同意する。


「……動いている者がいます」


断言だった。


「しかも、あまり賢くない」


淡々と続ける。

リリアナが、くすりと笑う。


「言うわね」


「事実ですから」


レイモンドは肩をすくめる。

そして、視線を少しだけ遠くへ向ける。


「ですが――」


「放置すれば、面倒になる」


リリアナの笑みが、ほんの少しだけ消える。

理解しているからだ。


「なら」


静かに言う。


「どうするの?」


レイモンドは、わずかに息を吐く。

そして――


「先に潰します」


迷いなく、答えた。

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