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恋を必要としない令嬢に、皇帝の執着だけが通じない  作者: 絵宮 芳緒
第四章 断絶

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第八話 下される決定

執務室の空気は、静かに張り詰めていた。


整えられた空間に無駄はなく、音も動きも必要な分だけがそこにある。

その中心で、レオニスは書類に目を落としながら、すでに結論へと至っている思考を整理していた。


「アルベルト・ラディア、参上いたしました」


扉の外から、落ち着いた声が届く。

レオニスは手を止めずに一拍だけ間を置き、それから短く告げた。


「入れ」


扉が開き、アルベルトとディオンが入室する。

二人とも姿勢に乱れはない。

だが、その場に入った瞬間、わずかな緊張が空気に溶け込む。


一定の距離で足を止め、アルベルトが静かに頭を下げる。

ディオンもそれに倣う。


「本件、リグナス侯爵よりすでに申し出を受けております」


余計な前置きはない。


「すべてを陛下に委ねると」


その事実だけを、淡々と置く。

レオニスはゆっくりと視線を上げ、二人を見据える。何も言わない。

ただ続きを待つ。


アルベルトは頭を上げず、そのまま言葉を継いだ。


「ラディアとして、本件の収拾に当たります」


はっきりとした声音だった。

責を負うのではない。

だが、事態を放置することもない。


その立場を、明確に示す。

ディオンは沈黙を保つ。

だが、その視線には揺らぎがない。


これまで見てきたものすべてを受け止めたうえで、すでに結論へ至っている目だった。


「……家督は、次子へ」


アルベルトが続ける。

淡々とした調子のまま、必要な事実を並べる。


「すでに手配は整っているとのこと」


止める意思はない。

止めるべきでもない。

沈黙が落ちる。


レオニスはその言葉を受け取り、わずかに目を細める。

判断は、すでに終わっている。

だが――


「異論はないか」


短く問う。

形式ではない。

確認だった。


アルベルトは顔を上げないまま、即座に答える。


「ございません」


迷いはない。

それが最善であると理解しているからだ。

レオニスの視線が、ゆっくりとディオンへ移る。


「お前はどうだ」


問いが落ちる。

ディオンは一瞬だけ間を置き、それから静かに口を開く。


「妥当かと」


短い。

だが、それ以上は不要だった。

感情を挟まない。

それが、この場での正しさだった。

レオニスはわずかに頷く。


「……処理は帝国で行う」


その一言で、すべてが決まる。


「身柄は引き続き拘束。外部との接触は断つ」


淡々と、必要なことだけを並べる。

そこに迷いはない。

それで終わるはずだった。

だが――


「……陛下」


アルベルトの声が、わずかに続く。


ほんの一瞬だけ、空気が変わる。

レオニスは視線を向ける。

アルベルトは頭を下げたまま、わずかに言葉を選ぶ。


「……無用な死は、避けるべきかと」 


静かに、落とす。

感情ではない。

判断としての言葉。

だが、その奥にあるものは隠しきれない。


ディオンの視線が、ほんのわずかに揺れる。

それでも、口は開かない。


レオニスは沈黙する。

長くはない。

だが、軽くもない。

その言葉の意味を測るには、十分な時間。 


「考慮する」


短く返す。

約束ではない。

だが、切り捨てもしない。

それが、最大の譲歩だった。

アルベルトは深く頭を下げる。


それ以上は求めない。

求めるべき立場でもない。

すべては――

決まった。

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